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だが、世の中そんなに甘くはない。
「良いから答えろ」
日向黒がグッと距離を詰めてくる。
暖かい吐息が目元にかかって、俺の睫毛が僅かに揺れた。
さっきから思ってたんだけど、この人って密着率高いよね。
平々凡々な俺は、居たたまれなくてまともに目も合わせられないってのに。
「こ、これは……昔転んで切ったんです」
傷痕をなぞる手を恐る恐る払い、乱れた前髪を直しながら答えた。
すると日向は不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「……本当だろうな?」
え、何?
こんなありきたりな答えじゃ不満?
「じゃ、じゃあ、昔チェーンソーを持った仮面の狂人に襲われて……」
「じゃあって言うな」
「海から巨大なサメが……」
「それも却下」
え、何?
これでもダメなの?
「貴方は俺に何を求めてらっしゃるんですか?」
「別に何も」
……だろうね。
分かってました。




