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第1部 第8章 予言された魔王の影

 五人が揃った夜。宿場の片隅で、リナは神妙な面持ちで地図を広げた。

 彼女の表情は、いつものおっちょこちょいな面影を消し、神の使徒としての厳格さを帯びていた。


「皆さん、いいですか。魔王軍はいよいよ本格的な侵攻を開始しました。四天王のうち三人が、ソル王国、エセルガルド、アイアンピークの三王国へ向かっています」


ルナが銀髪を揺らしながら、深刻そうに頷く。


「私の故郷、エセルガルドにも……。あの森には、強力な結界があるはずですが」


「四天王は、その結界すら無効化する手段を持っているようです。……そして」


 リナがアルスをちらりと見た。

 天界からの予言では、この五人が集まった瞬間から、世界の運命は急速に加速するとされていた。

 アルスはといえば、リナが広げた地図の上を、一匹の小さな蟻が歩いているのを眺めていた。


「あ、蟻さん……。そこに行くと、溺れちゃうよ」


アルスが蟻を指で誘導し、地図の一点を指し示す。

 そこは、三王国のちょうど中心に位置する、名もなき古い街道の要所だった。


「……アルスさん、今そこを指しましたね?」


リナの顔が引きつる。その場所は、本来なら魔王軍の「小部隊」が集結し、三王国への同時攻撃を開始するための起点となる秘密のキャンプ地だった。


「え? あ、はい。なんとなく、ここが静かそうでいいかなって」


アルスの無自覚な「予知」は、すでに敵の喉元を正確に指し示していた。

 レオンが重厚な足音を立てて立ち上がる。


「よし、決まりだ。そこへ向かおう。敵の機先を制するのだ」


「おいおい、そんな適当な決め方でいいのかよ」


ガラムが肩をすくめるが、ルナは静かに杖を握りしめた。


「いいえ。アルスさんの選ぶ道に、間違いはない気がします」


本人だけが「ええっ、そんな責任重大な……」と狼狽える中、パーティー「運命の風」は最初の戦場へと踏み出した。


その頃、魔大陸ヴォルガの玉座では、闇に包まれた巨大な存在が目を細めていた。

 神が隠蔽したはずの「光」が、わずかに揺らめいたのを感じ取ったのである。


「……イレギュラーがいるな。運命を歪める、忌々しいノイズが」


魔王の呟きと共に、四天王の一人が動き出す。

 アルスたちの「幸運」が、どこまで通用するのか。

 物語は、世界を揺るがす戦いへと突入していく。

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