第3部 第21章 絶望の大陸、ヴォルガへの上陸
三王国連合が用意した巨大魔導戦艦「アステリア号」は、どす黒い海を切り裂いて進んでいた。
目指すは、かつて誰も生きて帰った者がいないとされる魔大陸ヴォルガ。空は常に暗雲に覆われ、海面からは魔力の歪みが霧となって立ち昇っている。
「……うう、気持ち悪い……」
甲板でリナが手すりにしがみつき、顔を青くしていた。神の使徒といえど、魔大陸特有の「魔力酔い」には抗えない。
アルスはそんな彼女の横に静かにしゃがみ込み、小さな袋から取り出した干し果実を差し出した。
「リナさん、これを少しずつ噛んでみてください。酸っぱいけど、気分が落ち着くはずです」
「……ありがとう、アルスさん。でも、どうしてそんなものを?」
「あ、さっき厨房の片隅で、たまたまこれを見つけて。なんとなく、リナさんが欲しがる気がしたんです。あと、少し遠くの水平線……あの、一番暗い雲の下あたりをじっと見ていると、三半規管が整いやすいですよ」
アルスは自然な動作でリナの背中をさすった。彼の指先は、吐き気を和らげるツボを無意識に、しかし的確に刺激している。
リナの呼吸が次第に深く、穏やかになっていく。
「……不思議。アルスさんに触れられると、魔力の乱れまで整っていくみたい」
「それは、リナさんが頑張り屋さんだからですよ」
アルスが微笑んだその時、船体が大きく揺れた。
前方に見えるのは、切り立った断崖絶壁と、そこから放たれる無数の赤い光。魔王軍の迎撃部隊だ。
「全員、戦闘配備! アルス殿、ルナ殿、下がっていてくれ!」
レオンが叫び、剣を抜く。しかし、アルスは揺れる甲板の上で、一点を凝視していた。
彼の目には、魔王軍が放つ破壊光線の「軌道」が、幾重もの光の筋となって見えていた。
「レオンさん! 右に三歩、避けてください! ガラムさんは、そのまま真上に放電を!」
アルスの叫びに、二人は反射的に従った。
次の瞬間、レオンがいた場所を極太の光線が貫き、ガラムが放った電撃が、不可視の状態で接近していた暗殺者の群れを焼き払った。
「……歩いた跡に、敵はなし。今日も絶好調だな、小僧!」
ガラムが豪快に笑い、戦艦は阿鼻叫喚の海岸線を突破して、ついに魔大陸の土を踏んだ。




