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ジャカジャカとした耳障りなBGMに、ピンが弾ける痛快な音が交じり合う。氷上のような滑る地面に、レンタルシューズがご機嫌そうにキュッキュと鳴き声を上げる。

ボウリング場なんて、何年ぶりだろうか。

1レーンで15人は収まらないので、3レーンを借りて1レーン5人で遊ぶことになった。するとグループ分けは自然に仲のいい者同士が固まり、私のところには赤嶺くんと遥希くん、それと遥希くんにくっついている星願こと星川さん、あと遥希くんの友人でお調子者の新田くん。

そんな五人で和気藹々とボーリングに興じていた――

「ボウリングとかよく行くの?」

「いやそんなには――」

「アタシは家族とよく来てたんだ~。遥希くんは?」

「あー俺は部活のヤツとたまに。凛子ちゃんはどう――」

「えぇ~! そうなんだ! じゃあボウリング上手いの? 遥希くんが投げるとこ楽しみぃ~!」

という訳ではない。私と話したい遥希くんと、それを阻止したい星川さんに教室同様、いやそれ以上に板挟みにされている。

来てまだ一投もしていないが、もう帰りたい。赤嶺くんもずっとボウリング玉を磨いているだけで居づらそうだ。誘った手前申し訳ない。

せめてもの救いがあるとすれば、

「なぁ見て見て! 着ぐるみレンタルできた! ヤバくね!?」

いつの間にか犬の着ぐるみに着替えていた新田くんが場を引っ掻き回してくれることだ。こういう時にお調子者がいると助かる。いい意味で空気を読んでくれないから。

とは言ってもそれも一過性の効果しかない。空気をぶち壊しておちゃらけても、すぐにまた板に挟まれる。

とりあえずこの場から抜け出したい。いい加減息が詰まりそうだ。

「ちょっと飲み物買ってくる」

テキトーな言い訳をつけて席を立つ。

「なら俺も――」

「あっじゃあアタシも一緒に行っていい?」

星川さんが手を挙げた。

遥希くんが着いてこようとするのは予想していたが、彼女が名乗り出るのは予期できなかった。てっきり私の居ない間に遥希くんと2人に空間を作りあげるものだとばかり。

まぁいいか、遥希くんと2人よりは面倒ではなさそうだし。

――と思っていた。



――ガンッ!!

「アンタ、あんま調子乗んないでよね」

喫煙所前の奥まった自販機で、私は恫喝されていた。

先程の猫なで声が幻聴だったかのような低い声で、自販機に蹴りを入れるこの女が、まさかのあの清楚可憐でお馴染み星川さんだ。

「遥希くんに言い寄られて舞い上がっちゃった? 言っとくけどあんなん気まぐれだから。本気にしないでよブスの癖に」

清純なニコニコとした表情は面影もなく、敵の組に乗り込んできた鉄砲玉みたいなギラギラオーラで詰め寄ってくる。本当に同じ顔の人間だろうかと思えるほど表情が違う。

あまりの変わりように関心さえ覚える。役者でもこれほど早い変わり身はできないだろう。

「わかってる。本気になんてしてないから」

「わかってんなら余計なことしないでくんない? アタシと遥希くんの関係知ってんでしょ」

「あー、友達以上恋人未満的な?」

「そう。だからアンタが入る余地ないから、マジで余計なことしないでよね」

アタシと遥希くんラブラブ。付け入る隙なんてない。だから割り込んでくんな。と。

これはまた随分矛盾した牽制だ。付け入る隙がないなら牽制なんて要らないだろうに。

まぁ恋に必死なのは理解できた。

「私としても余計なことはしたくないんだけど、向こうが――」

「は? なに?」

眉根を歪ませ顔を近づけてくる。

向こうが勝手に寄ってくる、とか言ったらしばかれそうだ。

「いや、なんでも。ただ私としては星川さんのこと応援してるから、ホント。だからそんなに敵意バチバチにならないで欲しいかなーって」

「……ふん」

私の進路を塞いでいた足を引き、彼女は自販機にお金を入れていく。

「ならいいのよ。アタシ、誰かに自分の予定引っ掻き回されんのとか大っ嫌いだから、一応警告しといただけ」

「一応の迫力ではなかったけどね」

顔に喧嘩上等って書いてあったぞ。

「アンタがちゃんと弁えてるってのはわかったから今までのことは水に流してあげる。けど――」

ガコンッと、自販機からペットボトルの落ちる音に怒気が孕んで聞こえた。

「アンタが警告無視して遥希くんに近づいたら……マジで潰すから」

彼女は殺気立った眼光で睨みつけると、そのまま先に去っていった。

歳の離れた相手の威圧に怖気づきはしないが、その気概には感服させられる。

JKにとっての恋が如何に重い物なのかを思い知らされた。

だがそれはそれとして、巻き込まれる私は死ぬほど憂鬱だ。

目の前の喫煙所に駆け込みたい気持ちを堪え、私もみんなの所に戻る。



レーンに戻ると、一足先に戻っていた星川さんが遥希くんへの積極的アピールを続けていた。「ストライク取ってたの!? 見たかった~!」とか「本当に上手いんだ、私にも投げ方教えてくれる?」とか、先のドスの効いた声が嘘かのような猫撫で声である。

私は2人の邪魔にならないよう離れたとこに座ろう。

「いい加減ボールの汚れは取れたんじゃない?」

未だにボール磨きをやめない赤嶺くんの隣に腰を下ろす。

「あっ、そう、ですよね」

「あんま楽しくない?」

「いやそんなことは……」

「気ぃ使わなくていいって……ごめんね、私が誘った手前申し訳なくて」

「い、いやいや! 本当にそんなことないです、ちゃんと楽しいですからっ」

「えぇ? ボール磨くのが?」

「僕その、綺麗好きなんで」

「ぷっ、ハハ! なんじゃそりゃ!」

ぎこちなく頬を釣り上げた赤嶺くんは、ボールの同じ箇所ばかり拭いていた。

「なぁなぁ井村ちゃん!」

平和な会話に水を差すように、お調子者の新田くんがボール片手に私を呼ぶ。

「次ストライク取れたらチューしてよっ!」

「16ポンドで殴っていい?」

「キビしぃ!? あっ! ならほっぺでいいからさ!」

「じゃあ15ポンドに負けてあげる」

「結局殴られるんかいッ!? なんかご褒美くれよ!」

「あー、じゃあこのジュースあげる。飲みかけだぞ」

「うっしゃあ間接キスぅッ!!」

大見得切った彼だが、結局2連続ガーター。オチとしては完璧だ。笑いに包まれて、いい感じに場も盛り上がる。

「そのチャレンジ俺もやっていい?」

出番で立ち上がった遥希くん。

「えぇ……そんなに飲みかけ欲しいのか? 流石に気持ち悪いな」

「あはは、それはいいかな。それより他のことお願いしたいし」

彼は腕を捲り、12ポンドのボールに指をかける。

「ストライク取れたらデートしてよ」

「え――」

私が何かを言う前に、彼は既にボールを投げていた。

バコーンッ!とピンが弾け飛ぶ軽快な音が響き、レーンには一本たりともピンは残らなかった。

「スッゲェ!?」という新田くんの歓声が上がり、隣のレーンで見ていた同級生たちも感心の声をあげる。

「明日の土曜空いてる?」

宣言通りにストライクを取ったにしては、あまりに自然過ぎる質問だった。もっと得意気になってもいいだろうに。

ここまで格好良く決められたらデート位はしてやっていいと思ってしまうが、生憎私はそうはいかない。というか許されない。

笑顔の抜け落ちた星川さんが無言でこちらを睨みつけている。――余計なことはするな、と。

「……あ〜、明日は家の人と約束があって」

「なら日曜は?」

日曜がダメなら来週の週末、来週の週末がダメなら再来週の週末、と決して引いてくれない姿勢だ。クラスの目もある。断り続ければ、生意気だと女子から反感を買う恐れがある。賭けに了承してないから不成立とも言いづらい空気だ。

逃げ道を塞がれた。もうデートして星川さんに潰される未来しか残っていないのか。

……いや、一つだけあるか。彼のデートから逃れられて、星川さんや女子の反感も買わない案が。

ただ一つ、謝っておかなければいけない。

度々迷惑をかけて申し訳ない、と。

「日曜も予定あるんだよね。その――赤嶺くんとデートで」

「……は?」

「……、……えッ!?」

ゴトン、と磨かれたボーリング玉が落ちた。


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