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「――というわけで、2年B組の出し物は動物カフェになりました。はい拍手~」
学級委員長が結論を出すと、クラスには活気づいた拍手が起きる。
学級委員長によって取り仕切られた多数決により、私たちのクラスの文化祭出し物が決定した。
動物カフェか。読んで字のごとく動物をコンセプトとしたカフェである。もちろん、実際の動物を使うのではなくホールスタッフが動物の衣装を着て接客をするのだ。
その決定に特に男子たちは大いに盛り上がり、演劇とお化け屋敷で意見が二分していた女子たちは少し気だるげな様子であった。
「じゃあ女子はみんなバニーで参加なw」
「最低ぇー!」
クラス内ではそんな会話が飛び交う。なら男子は猿の衣装で出ろよ。
それにしてもカフェか。昔は飲食店のキッチンスタッフのアルバイトをしていたこともある元バイト戦士の私だ。洗い物とレンチンはお手の物だ。慣れない演劇よりはやり易い出し物で助かる。
「それじゃあ次に接客班とキッチン班、設営班に分けたいんだけど――」
「はいはぁ~い! 接客は井村にやって欲しいでーす!」
そんなことを言い出したのは、名前の知らない坊主の男子生徒であった。
ちょっとした悪ふざけか、はたまたお猿さんらしい下心なのか、どのみちいい迷惑だ。
接客が苦手な訳では無いが、流石にこの歳で動物のコスプレはキツい。
「あーいや、私キッチンの方がいい――」
「いいじゃんそれ。井村さんやりなよっ」
坊主に同調する女子。
「私もサンセー」「井村のコス見てぇ~!」「せっかくならバニー着ろよw」
そしてその後に続く意志のない同意たち。
これは、わかりやすいハズレくじの押しつけだ。
男子は違うだろう。ほぼ全員が不純な下心で同意しているが、女子は違う。
元々乗り気では無い動物のコスプレに、体のいい生贄が現れたのだ。便乗しないはずがない。
そうしてクラスの過半数が私の接客を望んでいる。断れそうにない空気が出来上がっていた。
少数の意見など無力に等しい。これが民主主義か……。
「はぁ、わかった。やればいいんでしょ」
哀愁が入り混じった溜息をつきながら、仕方なしに首を縦に振る。
沸き立つ男子に安堵する女子。その後の班決めは少々難航し、男子はスンナリと決まったが女子はそうはいかなかった。
女子の接客班は最低でも4名が必要なのに、現状では無理やり推薦された私と一緒にやりたいという理由で乗っかってきた寧々の二人だけ。
そんなに嫌かね、動物コスプレが。
話し合いが長丁場になり、ついにはジャンケンにしようかという意見が出た時。
「なら俺も接客入るよ。そうすれば女子の枠一つ減らせない?」
空気の読めるイケメンこと遥希くんが手を挙げた。
すると待ってましたと言わんばかりに、
「あっ、あと一枠ならアタシ入るよ」
と、迷わず手を挙げた二面性女こと星川 星願。
あからさまに遥希くん目当てだ。残り二枠の時は声を出そうともしなかったのに。ここまで露骨だといっそ可愛く思える。
ともあれ何とか四枠は埋めることができた。
文化祭まで、残り三週間。
◇
本来は生徒が下校する放課後に、殆どの生徒が教室に居残り、差し迫る文化祭に備えていた。
「リッちゃんリッちゃん。文化祭絶対一緒に回ろうねっ」
「それ昨日も聞いたぞ。それに文化祭までまだ一週間以上あるじゃん」
装飾の折り紙を寧々と向かい合わせで折りながら、そんな雑談を交わしていた。
「今取っとかないと取られちゃうかもじゃぁん」
「ライブチケットじゃないんだから大丈夫だって」
寧々がいなければ定員割れするかもしれないくらいだ。予約なんてなくても当日券で十分である。
「んふふ、だよねぇ。だってネネは一番の友達だもんねぇ~?」
「まぁそうね」
嬉しそうに折り紙をおる寧々。何事もなければ寧々と回ることになるだろうな。
にしても私に文化祭を回る機会がまた訪れるとは思わなかったな。
中学の時は行ったかもしれないが大して記憶にも残ってないし、一度目の高校一年生の時は確か休んで行かなかったっけ。
そう思うと私の青春ってかなり灰色だったんだな。
学生時代よりバイト時代の方が長い私には、最早灰色ですら色褪せてしまった記憶である。
そういや一度目の高校二年の頃も、今日みたいに一緒に回る約束をしていたな。雪乃と。
まぁ結局その約束は叶わなかったけど。
「……あのさ、ここの文化祭って一般公開ってするんだっけ?」
視線を折り紙に向けたまま寧々に聞いてみた。
「確か二日目でするはずだよぉ。それがどうかしたの?」
「いや、何となく聞いただけ」
そうか、来れんのか。なら一応声掛けとくか。
――いや待て、アイツが来たら動物コス見られるのか。
うん、やっぱやめとこう。それにアイツ一応社長だし。毎日忙しそうだし。無理言っちゃ良くないな、うん。
そんな適当な気遣いで言い訳を正当化していると――。
「今から買い出しのくじ引きするからちょっと集まって~!」
学級委員長の急な招集に、全員が一度手を止め、ゾロゾロと委員長の持つくじ箱の方へと集まる。
買い出しは二枠。くじの母数は二十以上ある。十分の一以上なら当たることはないだろうと、鷹を括りながら箱に手を入れ、くじを一枚引いた。
「あ――」
しかしその予想に反して、引いたくじを開くと「アタリ!!」という赤ペンの手書き文字が書かれていた。
何故かこういう時に限って当たってしまう。パチンコの確率はいつもすり抜けるのに。
しかしこういうのは当たったことではなく、もう一人が誰かにかかっている。
仲の良い相手なら問題ない。寧々か赤嶺くんなら大吉。何度か話したことあるお調子者こと新田くんでも中吉。大凶があるとすれば――。
「あっ、俺だ」
もう一人の当選者がアタリの紙を掲げた。
その掲げたヤツは、よりによって大凶。トラブルを呼ぶ遥希くんであった。
何故よりによって……。いや、遥希くんに非はない。全てにおいて非がない。大凶扱いしてごめん。ただ彼との接近は反感を呼んでしまうのだ。
「おぉ一人は遥希か。じゃああと一人は……?」
委員長の一言に全員がキョロキョロする。くじ箱の中は既に空だ。
「えっと……私だわ」
バツが悪そうに私は手を挙げる。
お願い女子、そんな睨まないで。私の意図したことじゃないから。天運だから。
睨みの集中砲火に居心地が悪くなっていると、後ろから肩を叩かれた。
「アタシ代わろうか? 井村さんこの後用事あるって言ってたよね?」
猫が鳴くような甘えた声をしたセミロングの少女。星川さんが笑顔で提案してきた。
そしてその薄っぺらい笑顔の裏側で、暗に私に伝え、いや命令していた。譲れ、と。
大人しく従うのが身のためだろう。
「あーうん、そういえばそ――」
「今更それはナシでしょ」
アタリくじを渡そうとした時、差し出した手ごとくじを掴まれ引き止められた。
引き止めてきた手の主に視線を送ると、私とは頭ひとつ抜きん出た上背をした遥希くんと目が合う。
「今回こそさせてよ。デートリベンジ」
爽やかな笑みの奥に隠れた執着に、少しだけ身の毛がよだつ。
周りの、特に星川さんの殺気がすごい。
よりによって何故火に油を注ぐことを言うのだ。このイケメンは。




