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17『Be her friend』



『凛子視点』



――気がついたら、まず足が出ていた。


寧々と喧嘩した日からずっと、私は夜の街中を探し回っていた。

そこは赤嶺くんとのデートでの集合場所である駅前のすぐ近く。あの時見えた派手な髪色はやっぱり寧々だった。

ならパパ活では基本ここら辺を利用してるってことのはずだ。

正直確証は無い。だがそれしか手がかりがない。私は寧々の家も行きそうな場所も知らないんだ。だから虱潰しに探すしかなかった。

運任せとしか言えない。見つけられたのは、本当に偶然だ。

裏路地を抜け、更に人気のない道を進んだ先にあったラブホテル。マップで周辺を確認してこのラブホを見つけた時、すごく嫌な予感がした。

そして間に合ったのかどうなのか、とにかく寧々を見つけることができた。

その時寧々は、オッサンにラブホに連れ込まれそうな場面であった。

結果、足が出た。

走って駆け寄ったから助走が十分だったのもある。拳より先に飛び蹴りが出た。

狙いは正確でオッサンの顔に確実に入った。

私は完全に頭に血が上っていた。悪癖が出た。

だがそれでいい。こいつだけは許せない。私の友達を傷つけようとした。それだけじゃなく、私が最も忌み嫌うことをしようとした。

それが何より許せない。自分のためにも寧々のためにも許せねェ。

コイツ、マジでこ――

「……ムゥ、ちゃん?」

ハっと沸騰した血液が鎮まってゆく。

抱き締めていた寧々の顔に、涙を流した跡があった。それだけじゃない。寧々の体が未だに震えている。よっぽど怖かったんだろう。

そうだ。見誤っちゃいけない。すべき事はそれじゃないでしょ私。昔の二の舞になるっちゃダメだ。今は友達優先だ。

「寧々、怪我は無い?」

「っ……! ぅ……うん。ッ……ないよっ」

グスグスと鼻を啜りながら寧々は答える。

よかった。何とか間に合ったみたいだ。

「てっ、てっ! テメェこのクソガキぃッ!? 何しやがんだァッ!?」

デカイ図体で地面に倒れ込み、鼻からドバドバ血を流したソイツが怒鳴り散らす。

腕の中の寧々が更に震えてしまっている。

「おい」

私は腹の底から低い声を出して威圧する。

「っ!?」

「お前の顔は覚えたかンな。次見かけたら鼻だけじゃなくて両手両足へし折ってやる。それが嫌なら二度と姿見せんな」

「な、なっ、何ガキが偉そうに――」

「あァ?」

「ひィッ!? す、すいませんでしたぁぁああッ!!」

ヤツは負け犬らしくしっぽを巻いてドタドタと逃げ出して行った。

こんだけ脅せば二度と寧々には近づかないだろう。

「っ、な、なんでぇ……なんで来てくれたの……?」

濡れた顔を私の胸に埋めながら、寧々が泣きそうな声で聞いてきた。

「なんでってそりゃあ、心配だからに決まってんでしょ」

「でも、でもぉ……! わ、ワタシ、ムゥちゃん怒らせちゃったしぃ……!」

「バカだな、心配だったから怒ってんだよ」

ピンクのネオンに輝く桃色の髪を、片手でワシャワシャと撫でてやる。

「う、ぅぅ……ご、ごめぇんぅぅッ……!! ごめんぅねぇぇ! ムゥちゃんごめんなさいぃっ……!!」

緊張の糸が切れたのか、わんわんと子供みたいに泣き出した。

まぁいいか、実際に子供なんだから。



「ちょっとは落ち着いたか」

「うん……」

場所が場所のため公園へと移動し、ベンチで涙ぐむ寧々の隣に座る。

夜更けの公園は街中よりもずっと暗く、公園灯の明かりだけが爛々とベンチの周りを照らしていた。

「ムゥちゃん」

「ん?」

「なんで、ワタシのこと見つけられたの?」

「それは本当に偶然。そこら辺ずっと走り回ってたら、たまたま寧々のこと見つけられただけ」

「もしかして、ワタシのことずっと……」

「ああ、探してたんだぞ。見つけんのに4日もかかっちゃったけど」

「……、ごめんね、迷惑かけて」

いつになくしおらしい態度で俯きがちに謝る寧々。

「ったく、迷惑なんて思ってないっての。心配しただけ」

寧々の頭を撫でて慰める。脱色してるくせにサラサラとした良い手触りをしていた。

「……あ、あんな人だと、思わなかった。いつも、ニコニコして、優しい人だと思ってたのに」

「あのクソ野郎のことか?」

「うん、山岸さん」

「クソ野郎で十分でしょ、あんな奴」

「んふっ、結構口悪いね。ムゥちゃんって」

寧々が僅かにだが笑ってくれたことに、内心胸を撫で下ろす。

「世の中、ああいうクソみたいな奴もいる。そういう奴が、表面上はマトモな人間を繕って何も知らない子供に付け入ろうとするんだ」

「そっか。だから、ワタシにやめろって言ったんだ」

「まぁ理由の一つってとこかな」

他にも理由はあるけど、今の寧々にはそれだけでも伝われば十分だ。

結果的に今回は何事も無かった。それは本当に、運が良かっただけだ。もし運が悪ければ、あそこで居合わせることができなければ、寧々の人生が壊れかねない事態になっていた。

反省だ。もっと慎重に説得すべきだった。

「とにかくもう会うのはやめろ。次も助けられるかなんてわかんないからな」

「うん、もぉ山岸さんとは会わない」

「クソ野郎だけじゃない。今まで会ってきた奴全員だ」

「っ! それは……」

やっぱりパパ活相手は1人じゃないみたいだ。赤嶺くんとのデートの時見かけたスーツ姿の男は、体格からしてあのクソ野郎じゃなかったからな。

「連絡とったことある奴は全員ブロックしな。何回も会ってる奴がいるならソイツとは直接会って話つけた方がいい。そっちの方が禍根が残んないから。ただ絶対二人では会うなよ。夜にも会うな。人が多い店で話すこと。あと私も同伴するからな」

「……、……」

首を縦に振り渋るってことは、パパ活に多少なりとも未練があるのだろう。

「寧々、金に困ってんなら私がバイト探してやる。なんなら私みたいにモデルやるか? 知り合いに頼んで――」

「違うの。お金はいいの」

「じゃあ何が惜しい?」

「……誰も、ワタシとは『同じ』じゃないから。喋ってくれないから、相手してくれないんだもん」

あんな事があっても、それでも手離したくないという深い渇きが、彼女の青い瞳に映し出される。

「寂しいのは、ヤなの」

まるで深海のようなブルーの瞳。どこまでも底がなく、満たされることのない暗い青色。

――なんて、そんな表現アホらしい。そもそもその目は、自前じゃなくてただのカラコンだろうが。

「ったく、アホかよお前は」

「……っ」


「私がいるだろうが」


コツンとその凝り固まったピンク頭を拳で小突いてやった。

寧々は「ぃたっ……!」と大袈裟にリアクションする。そんな痛かないでしょ、軽くなんだから。

「なぁにが喋ってくれないだ。私はずっと、寧々と喋ってるでしょうが」

「でも、ワタシは人と『違う』から。ムゥちゃんとは『同じ』じゃなくて」

「違うとか同じとか、私にはよくわかんないわよ。けどね」

寧々の肩を抱き寄せる。もう一人で馬鹿なことしないように、私がちゃんと。


「私らは同じ友達じゃん」


「――ッ!」

出会ってからの日数は短けれど、そのことはもう変えられないようのない事実だ。

「それにおっぱい触った仲なんでしょ?」

「っ……んふふ、そういやそうだったぁっ」


夜更けの公園のベンチ。

そこには同じ女子高生が2人、友達同士で笑い合っていた。


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