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ムゥちゃんと喧嘩してから、4日が経った金曜日。

ネネはまだ、学校に行けてない。

なんでだろう。今までも友達だと思ってた人に傷つけられたことはあったけど、学校にはちゃんと行ってた。

それだけショックだったんだと思う。ムゥちゃんは今までのことは違うと思ってたから、裏切られたのがすごく辛いんだ。

だからズキズキって、心がこんなに痛むんだ。

その傷を癒すように、ネネはキラキラした夜の街を大人の男の人と歩く。男の人の腕に掴まって、いつもみたいに『お仕事』をしていた。

「どうしたの、寧々ちゃん? 随分元気がないみたいだけど?」

心配そうな顔で聞いてくれるのは、太客の山岸さん。

ポッチャリして背が高い見た目に、優しそうな顔立ちが熊さんみたいで可愛い男の人だ。

山岸さんはいつもネネに会いたがってくれる。お話もたくさん聞いてくれるし、何より体がプニプニで触ってて楽しい。

「う、ううん! そんなことないよぉ。全然元気元気っ」

「本当に?」

「うん。ただちょっと、学校の子と喧嘩しただけ」

「友達と喧嘩か、それは大変だったね」

「……友達じゃ、ないよ」

友達じゃない。ムゥちゃんは違った。ネネとは違う人だから、友達にはなれなかったんだ。

「そっか、だとしても辛かっただろうね」

山岸さんの大きな手がネネの頭を優しく撫でる。

「大丈夫だよ。寧々ちゃんは悪くないからね、落ち込まなくて大丈夫だからね」

「っ……うん」

ああ、暖かい。やっぱり、ネネに『合う』のはここだ。

ここならネネは傷つかない、傷つけられない。友達がいなくても、ネネは寂しくない。

「それより今日はどこ行くの?」

気持ちを切り替え山岸さんに聞いてみる。

「ああ、今日はいつもは行かないお店に行こうか」

「へぇ~、どんなとこぉ?」

「ふふ、それは着いてからのお楽しみ。ようやく見つけたいいお店だからね」

「もぉ! 山岸さんのイジワルぅ!」



「え――」

それを見た時、胸の奥がゾッとした。

暖かかった感触が一気に消え、身体中が氷になったみたいに冷たくなる。

人気のない裏路地を抜けた、更に人気のない道。

そこの裏にある、煌びやかな外装にお城のような建物。

「さっ、着いたよ」

ネオンライトが差し込む山岸さんの笑顔は、怖いほど不気味に見えた。

「えっ、……山岸、さん。本当に、……ここ?」

震える声で聞いた。

「うん、そう。ようやく見つけた『いいお店』なんだ」

ピンクの光が外装に文字を描いている。


LOVE HOTEL


そこはHをする場所だ。

「人通りもほとんどないいいお店なんだ、ここ。いや~探すのに苦労したよ。街の往来だと行きづらいからね、女子高生相手だと」

「ま、待って……まって、えっ、待って」

頭が真っ白。怖い。なにこれ。

なんでラブホ? お店って、レストランとかじゃないの? いつも通り、ご飯食べてお喋りするんじゃないの? なのに、なんでラブホなの?

足が震えてきた。立ってられない。座り込んじゃいそう。

「どうかしたのかい? 寧々ちゃん?」

山岸さんは何食わぬ顔で聞いてくる。

「ら、ラブホ、ですよ、ここ。く、来るとこ、ま、間違ってますよ……」

「いいや間違ってないよ。今日はここで過ごすんだよ」

「ぇ……い、いや、だ、だダメ、ダメだから……っ」

「んぅぅ? なんでだい?」

「だだ、だって、い、言ったじゃん。こ、こういうの、な、ナシって……」

ネネは会った時からずっと言ってた。Hなのはナシ。最初からずっと。会う人全員に。山岸さんにも言ってた。

「確かに言ってたね。――でもさ、そろそろよくない?」

「……え」

「僕が君に会うの、これで8回目だよ? その間いくら君に使ったかわかってる? 10万は越えてるよね?」

「えっ、あ、そうかも、です、けど」

「そうかも? …………、そうかもじゃねぇんだよクソガキッ!!」

「ひッ!?」

山岸さんの優しい表情が一変、怒りの形相で怒鳴りつけられる。

体が固まる。う、動けない。聞いたこともない野太い声に体が萎縮する。

「おっと! ごめんよ、ついカッとなってしまったね」

仮面を被り直すように、また優しい表情にもどる。しかし安心なんてできない。むしろ余計に怖い。

「けどね、僕の気持ちもわかって欲しいんだ。いい加減、我慢の限界なんだよ。ただ喋ってるだけでお金を払うなんて、お金をドブに捨ててるようなもんじゃないかい?」

さっきまで優しく頭を撫でてくれたその大きな手が、今はネネの体をまさぐり出す。

「ッ! ……っ、……ッ……!?」

声すら出ない。こんなに怖いの、大人の男の人って。

ネネと合うはずなのに。ネネを傷つけないはずなのに。なんで、こんな怖いの。

「そろそろここら辺で、一発ヤラせてくれないと割に合わないってもんだろ?」

「ッ!? ぃ、ぃゃ……ッ!」

「大丈夫っ! 一発ヤッたらまた暫くは君のくだらない会話に付き合ってあげるから。そうすればほら、WinWinってやつだろ?」

「ゃ、…ぃやぁッ……!?」

「君みたいな子はそうでもしないと――誰にも相手にされないんだよ」

「――ッ!?」

体が引きずり込まれる中で、思ってしまった。

確かに、そうなのかもって。

サァちゃんも、リィちゃんも、ツゥちゃんも、ムゥちゃんも、みんな友達になってくれない。

誰も、ネネと同じじゃない。大人の男の人も、全員、ネネと違う。

だから、そもそも相手にされないのか。

ネネのパズルピースは、そもそも違うパズルのピースだった。

それだから、誰にも相手にされないのか。噛み合わなくて当然だ。だって違うんだから、元から何もかも。

――じゃあもう、ネネが皆に合わせるしかない。

そうなんだ。ネネが合わせないと、誰も相手してくれないんだ。

元のネネは、本当のネネは、歪すぎて誰にも合わないんだ。

ネネが……ワタシが、変わるしかない。

ここでHすれば、少なくとも、山岸さんは一緒にいてくれるよね。

……なら、もぉ、それで――。



――ゴッ!!



「ガボッ!?」

「ぇ――」

目の前に、流れ星が落ちた。

キラキラと、ネオンライトよりも眩しい光が、横から飛んできた。

そんなこと、あるわけないのに。

流れ星に見えたその子は、ワタシの横に降りて強く抱き締めてくれた。

優しく、強く、柔らかく。


「テメェ……! 私の友達傷つけてンじゃねェよッ」



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