表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

14

咄嗟には、言葉が出なかった。

今、彼女は、なんて言った?

聞き間違いかもしれない。そんな気がする。

だからもう一度尋ねた。

「なんて……?」

喉に声が引っかからないよう慎重に尋ねた。

「パパ活だよっ」

聞き間違いであって欲しいという僅かな希望は潰えた。

あまりにもハッキリと、堂々と言われた。そのことに度肝を抜かれ、次の言葉が簡単には出てこない。

「半年くらい前から始めてるんだぁ。お金貰えて~楽しくお喋りもできるんだ~」

陽気に話す寧々に反して、私は脳がサーっと冷たくなる。日常会話ではならない体の変化だ。崖際にたったような緊張感で味わう非日常的な感覚だ。

「あっもしかしてパパ活知らない?」

「いや、知ってはいる」

知っている。だからこそこんな反応なのだ。

「……確認したいんだけど、セックスはしてないよね?」

これは好奇心で聞いてるんじゃない。それは踏み越えては行けない一線の話だから、確認しておかなければいけないことだ。

「あっうん、そういうのは全部NGにしてるぅ。あくまで楽しくご飯食べてお話するだけだから安心して」

不幸中の幸いだ。けど安心はちっともできない。

これは本当にダメだ。絶対にダメなことだ。


「だけどね、クラスの子はそうは思ってないみたいなんだぁ。み~んな裏ではネネのことビッチとか言ってるし、男子とか頼めばヤラせてくれるとかウワサ流してるんだよ? サイテーだよねぇ」


「でも! ムゥちゃんは違うもんねっ。だってネネと同じだもんっ! 周りになんて言われてもこれは『お仕事』なんだから気にすることないよねぇ~」


「ネネはネネのやりたい事やってるだけだし、後ろめたい気持ちなんてなぁ~んもないもんね。ムゥちゃんのお仕事だってそうでしょぉ?」


「それに大人の男の人と話すのってすっごく楽しいんだよっ。だってね、ネネの話なんでも嬉しそうに聞いてくれるんだぁ。ご飯もすっごい美味しいとこ連れてってくれるし、お金だってたぁ~くさん貰えるんだよっ」


「だからさ、ムゥちゃんも一緒にやろっ! ムゥちゃんと一緒ならもっともっと楽しくなるよっ。んふふ~っ、そうすれば学校の外でもムゥちゃんと一緒だし――」


「寧々」


「んぅ? なになにムゥちゃん?」



「――今すぐそれやめろ」



無遠慮に切り捨てた。一切の付け入る隙も与えない程、強く拒絶した。

「え……」

寧々の顔から笑顔が抜け落ちる。

きっと思いもよらなかったのだろう。寧々は今裏切られたような気持ちでいることだろう。

だけどこれは、絶対に肯定してはいけない。他でもない寧々の為に。

「な、なんでさ? ムゥちゃんだって言ってたじゃん、周りの人なんてどうでもいいって」

「そんなこと言ってない。ただ線引きをしてるって言っただけ」

「一緒じゃん。他人よりも自分が大事ってことでしょ。違わないよね? 他人のことなんて気にするだけ無駄だって!」

寧々の頭に血が登っている。捲し立てるような口調がその証拠だ。

「それは曲解だよ」

私はただ分別してるだけ。周囲の目を無視することもあるが、全てに対してそうだって訳じゃない。

だが今の寧々は違う。この子は分別してるのではなく、他人の全てを拒絶している。

「キョッカイ? なにそれッ、むずかしい言葉使わないでよッ!」

マズイ、ヒステリックになってる。

「間違って理解してるってこと。寧々の話と私の話は別物なの」

「なんで? 同じ『お仕事』じゃん!」

「仕事でも善し悪しが違う」

「ネネのは悪いっていうのッ!」

「そうだ」

「――ッ! なんでぇ……なんでそんな酷いこと言うの……ッ!」

寧々の青い瞳が涙ぐむ。千切れそうな上擦った声であった。

「何が悪いのさッ? ネネ、ただ楽しく『お仕事』してるだけじゃんッ……」

「寧々、アンタがやってる『お仕事』ってのは――色んな人間を傷つけることだ」

寧々には分からないかもしれない。私の言葉は届いていないかもしれない。

けどここでハッキリと否定する。最悪なのは、私が肯定してしまうことだから。

それで寧々が助長すれば、取り返しがつかないことになるかもしれない。

私は友達がそんなことになるのは見過ごせない。

寧々がしてる仕事ってヤツには、色んな人を傷つける。それは寧々がまだ子供であるから。世間という他人が存在するから。

そしてその色んな人の中には、寧々自身も入っているのだ。

「ッ!? ムゥちゃんは、違うと思ってたのにッ……、ネネと、同じだと思ってたのにッ……!」

怒りと悲しみで感情がぐちゃ混ぜになったような表情。寧々のそんな顔は初めて見た。できることなら、見たくもなかった。

「っ、待って!」

走り去る寧々の背中を呼び止めたが、引き止められはしなかった。

私の言葉に効果はなかったかもしれない。伝えたいことも伝えきれていないが、私の言葉がこれ以上響くことはないような気がした。

それでも、私の言葉でどうか思いとどまって欲しい。そう願うことしかできない。


しかし、その願いに相反するように――寧々は明日、学校に来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ