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集合場所でもあった駅前に戻ってきた頃、変わらぬ人の喧騒の中で私と赤嶺くんは近づいてくる別れを惜しんでいた。

「今日はありがとね、というか毎度ごめん。私いっつも振り回してばっかだよね」

ファミレス行こう散々遊び倒した夕暮れ後の帰り際、楽しい時間ではあったからこそ申し訳ない気持ちがせり上がってきた。

痴漢の件といいボウリングの件といい今日のデートといい、彼にはいつも迷惑ばかりかけている。

「いや、そんなことは。僕はその、嬉しいかったです」

「え、なんで? M?」

「そういう訳じゃなくて、単純に今までこういうことってなかったので。誰かと遊ぶのって、こんなに楽しいんだなって知れました。それに……っ」

「……?」

モジモジと赤嶺くんは何かを言い淀む。

「あの、少し、自分に自信が持てそうです。井村さんが、か、格好いいと言ってくれて」

「そっかそっか、なら良かった」

そう言ってくれたならデートのし甲斐があったってもんだ。

人が行き交う駅前で、昼頃とは赤嶺くんの顔つきが変わったように感じる。顔はよく見えないけど。

「――ん?」

ふと、見覚えのある髪色が視界に入る。

往来の激しい街中に一際際立つその色が見えたが、それはすぐに周囲の黒へと飲まれていった。

「どうかしました?」

「あーいや、今友達がいたような気がしたんだけど。多分人違いだわ」

そうそう見間違うことのない髪色ではあるが、こんな時間に街の方へ歩いていたから見間違いのはず。それにスーツの男の人と歩いてたしな。

「あっ、すいません。そろそろ僕帰らないと」

スマホの時刻表示を見た彼がそう切り出す。

「もうそんな時間か。長いこと付き合ってくれてありがとね」

「いえ、僕の方こそ、ありがとうございます」

律儀に頭を下げるのがまた赤嶺くんらしい。

「それじゃあ、また学校で」

別れを告げると駅のホームの人混みへ向かう。疎らな足音たちの中に自分の歩みが同化する直前――。

「あ、あの!」

名残惜しさの浮き出た呼び止めが、私の背を叩く。

「あ、朝っ、言い忘れてたんですけど――今日の井村さん、す、すごく綺麗ですっ」

遠目からでもわかるほど赤くなった顔に、震えた声。

私が格好いいって言ったことへの返礼だろうか。少し照れくさいけど、悪い気分は決してしない。

「んっ、サンキュ」

ヒラヒラ手を振り、私は少し不器用に笑って返した。



「ただいまぁー……うぉッ」

最早自宅のように馴染んだタワマンの一室で、私はリビングのソファで項垂れるアラサーに頬を引き攣らせた。

そこには女社長としての威厳が損なわれたジャージ姿で、安酒を煽っている雪乃の姿があった。

「んぁ……? おかえりぃぃ……」

朦朧とした目に、頬は紅潮して、舌はおぼつかない様子だ。これはどう見ても、出来上がっている。

「お前何本空けたんだよこれ」

散乱する空き缶の数々を避けながら、私は泥酔女の隣に腰掛ける。

「んぅ? 2本くらい?」

「その10倍の数は空き缶が転がってんぞ」

脱力した彼女の体はソファの背もたれだけでは支えきれず、スライドして私の肩に頭を乗せてきた。

「どぉだったの」

「何が」

「でぇと」

「……まぁ楽しかったよ」

「ふぅん」

スリスリと肩に頬擦りしてくる。猫じゃないんだから。

「ってかそのジャージ、まだ持ってんのかよ。高校のでしょそれ」

「いいじゃんべつにぃ」

「いい加減破れんよ。私のジーンズと同じくダメージ加工になるぞ」

「だーいじょぶ、たまにしか着ないしぃ」

じゃあなんで今日着てるんだか。それに、いつもは少ししか飲まないくせに今日は浴びるほど飲んでる。

雪乃の手に握られたそのビール缶に視線を落とす。

いつも飲んでるキザったい外国の高い酒じゃなくて、コンビニで200円で買えるような安酒である。

私と雪乃には親しみのある酒だ。私が働き始めで、雪乃が大学生の頃、初めて二人で飲んだビールだ。

「こんな苦い汁、何を喜んで飲んでんだか」

「んふふ、凛子は子供舌のまんまだね」

「悪いかよ」

「ううん、うらやましい。私も、苦い味のはマズイって言えるようになりたい」

とうとう座ることもままならず、雪乃は私の膝の上に倒れ込む。

「大人になんてなりたくなかった……。ずっと子供がいい。苦いのはまずくて、甘いのがおいしいって言えるころにもどりたいぃ」

「アラサーが何言ってんだよ」

「アラサーだから言ってんのぉ。子供になりたいぃ、私もわかがえりたいぃ……!」

「駄々こねんなよ。それにあんまり良いもんじゃないぞ。高校生だって大変なんだから」

「それでもいいもん」

ふくれっ面をする雪乃34歳児。アルコールのせいで脳が退行してしまったらしい。

「大変でもいいの……凛子と、学校いっしょに行けるならぁ……」

その一言に、頭の中では2年弱の思い出が流れた。

いい思い出も大してねぇ1度目の高校生活だった。大した青春もなく、授業もサボって部活にも行かないで、私の人生の中であってもなくてもいいような時間である。

それでも、雪乃との思い出だけは切り離したくない。

よくよく考えれば、今こうして友達でいられるのが不思議なくらい接点のない二人だったな、私ら。

ほぼ学校にいない不良生徒の私と、クソ真面目な優等生の雪乃。思えばコイツのウザったいお節介がなけりゃ、関わることもなかった間柄だ。

若返って高校生活を2度目やるのは、面倒だけどつまらないわけではない。

それでもやっぱり、心のどっかでは思ってしまう。

どうせなら若返るだけじゃなくて、18年前からやり直したい。

「私も、そうしたいよ」

そこになら、2度目の学生生活の中に雪乃もいたであろうから。


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