表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

11

映画館と同じショッピングセンターに付随したファミレス。昼時のピークを過ぎた跡地のようなその店で、私と赤嶺くんはテーブル席に対面して座っていた。

「映画結構面白かったね、私ラストとかちょっと泣きそうになってさ」

「……はい」

「あーご飯どれがいい? ここは私が出すから好きなの頼んでよ」

「……はい」

赤嶺くんは心ここに在らずと言った生気のない返事を繰り返していた。視線も合わないし、気を抜くとすぐに気まずい沈黙で息が詰まる。

やっぱナンパ男の件だよな。流石に男を片手で御する女とデートするのは嫌になったか。

「――あのさ、気まずかったら止めてもいいからね」

「え……?」

「デート。私は中断にしても大丈夫だから」

そもそも遥希くんの誘いを断る口実としたデートだ。無理にデートをしなきゃいけない訳じゃない。2人で出かけたと口裏を合わせるだけで済む話ではあったんだ。

だから赤嶺くんの意思にそぐわないなら、中断してもいい。映画も見終わったし、次の予定を押し通す必要はない。

「嫌ですっ!」

勢いづいた赤嶺くんの声が店内に響く。

周囲の視線を不覚にも集めてしまった彼は、顔を赤くして髪を弄る。

「あの、僕は続けたいです、で、デート。あ、井村さんが嫌でなければ、ですけど」

「まさか、私が嫌なわけないじゃん。赤嶺くんが嫌かと思ってそう言っただけだし」

「僕が、ですか? それこそないですよ」

「そう? ならよかった。まぁその、さっきの事もあったからさ、愛想尽かされたかなーって思ってね」

「そ、そんなわけないです! なんで、僕が井村さんに……。むしろ僕の方こそ、井村さんに呆れられたかと」

悔しさが滲むような声で、彼は弱気に言葉を漏らした。

「ごめんなさい。あの時、僕がしっかりしてれば」

「なんで謝んのさ。アレは相手が悪いだけだよ」

「でも、僕が暗い人間だから舐められてしまったんです。すいません、せっかく誘ってくれたのに……。デートに張り切って、変に空回りして、挙句に井村さんに助けられて、本当にダメですよね。本当に、すいません」

ネガティブな言葉でジメジメといじけている。頭にキノコが生えているような錯覚すら覚えるほどだ。

様子がおかしかったのは私の言動にドン引きしたからではなかったのか。それは良かったが、自信を失わせてしまったのはそれはそれで良くない。あんな奴のせいで落ち込まないで欲しいのもある。

「――ちょっと水とってくるね」

「え、あっ、それなら僕が」

「いいからいいから」

そう言って席を立つと、私はドリンクカウンターでコップ2杯の水を汲む。

そして少ししてから席に戻り、右手に持ったコップを赤嶺くんに差し出す。

「ありがとう、ございます」

彼がコップの縁に口をつけ、その中に入った液体を喉に流し込む。すると、

「んぶッ!? げ、ゲホゲホッ! えっ、す酸っぱ……!?」

「ハハハっ! キレイに引っかかったね!」

「こ、これなんですか……! す、すごいす酸っぱいぃ……」

「レモン汁たくさん入れたからね。ククっ、そりゃあ酸っぱいよっ」

水だと思って飲むから、身構えて飲むより圧倒的に噎せるんだよな。

バーテン時代、店に来る雪乃によくやっていたイタズラだ。一度レモン汁じゃなくてウォッカを入れてやったら殺されそうなほどキレられた。

「ひ、酷いです……なんでこんな」

「どうよ、元気になった?」

「なるわけないですッ」

「アハハ! だろうね! ――でも気分転換にはちょうどいいイタズラでしょ」

「……っ」

テーブルに頬杖をつき、前のめりに赤嶺くんと視線を合わせる。

「赤嶺くんは悪くないよ。ダメでもないし、謝る必要もない。ナイーブにならないでムカつく奴が居たよなって愚痴ればいいの」

「で、でも、僕が暗いせいで――」

「あんまそういうこと言うなって、自分を言葉で下げたら本当に下がっちまうんだぞ」

前髪の向こうで静かに揺れる双眸を眺めながら私は言った。

暑いって言うから暑いんだ、みたいな昭和オヤジの口癖ではないが、言葉は自分すら曲げてしまう力を持っている。

自己暗示みたいなもんだ。そういうのは周りがちゃんと否定してやらないと治らない。

だから私が思ったことを正直に言ってやろう。

「赤嶺くんは暗くない。――君はちゃんと逃げずに私の前に立ってくれた、格好いい奴だよ」

カラン、とコップの氷が音を立てる。

私のコップではなく、彼のコップだ。

そのコップを握りしめた手が、爪の先まで赤くなっていた。

首元も耳も、前髪でよく見えない顔もきっと、真っ赤になっていることだろう。

「ちょっとは自信持てた?」

「ッ……は、はい」

「なら良しっ」

ニシシと私がガキっぽく笑うと、やはり彼は照れてしまう。

それを誤魔化すように、持っていたコップに口をつけ――あ。

「んぶッ!? ゴホゴッホ!?」

「ぶっアハハハハッ!! なんでまた飲んだの!?」

「わ、忘れてて――ゲッホゲッホ!?」

「ハハハハ! 2回飲むのは流石に予想できなかったわ!」

アレだけ酸っぱいのを2回も飲んだんだ。どんな嫌なことも、覚えていられないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ