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深夜、焚き火のパチパチという音以外は何も聞こえない。空を見上げると満天の星空が輝く、穏やかな時間。焚き火にあたり丸太に腰掛けのんびりと温かい茶を啜っていると<感知結界>に反応があった。3メートル程度の人型が3体<感知結界>を通り抜けて進入してきた。その先にあるのは村だ。村の郊外には農家がある。モンスターの被害に真っ先にあうのはこうした郊外にある農家になる。農産物が被害にあうならまだマシで家畜や人的被害が出るとその被害は計り知れない。クビになる可能性がグンッと高くなる。村の護衛として雇われている身からすると、モンスターが農家に到達する前に叩き潰す必要がある。村をぐるっと囲んでいる木の柵も破壊されると修復に労力を使うのでその前に倒す。文句を言われないために。
<暗視>と<セカンドサイト>を発動し視野を飛ばす。感知した3体がいる辺りに。人が歩くより大股で歩く木。歩く枯れ木を見つけた。指を斜め上に上げ歩く枯れ木に向かって<魔術の矢>を放つ。矢状に変化した魔術エネルギーが歩く枯れ木3体に降り注ぐ。歩く枯れ木たちはその場で倒れ灰色になりボロボロになった。植物の根っこから引っこ抜き放置しておくとそうなるように。次いで白いモヤとなった。白いモヤの一部は飛んできて身体に吸い込まれ、大部分は森へと帰っていく。おそらくは歩く枯れ木を生み出したダンジョンに。白いモヤの飛行速度は速くなく、人が早足で歩く程度だ。追おうと思えば追える。その速度はダンジョンに誘っているような気さえする。
それを尻目に歩く枯れ木が倒れた場所を見ると、長さや太さがさまざまな丸太が落ちていた。歩く枯れ木のドロップ品だ。<物質転送>で手元に転送し、<アイテムボックス>に入れる。これで焚き火の材料の補充になった。
夜明けまではまだ時間がある。再びパチパチという焚き火の音以外はしなくなった。シーンとしている。森に近ければ虫や獣の鳴き声はしただろうが今いるのは村と森の中間付近だ。時折森の方向、遠くから鹿のような鳴き声がする程度だ。今夜はまたモンスターの襲撃はあるだろうか。チラリと森の方向を見てみるが何も動きはない。何もやることがないので焚き火を見ながら思考の海にズブズブと沈んでいく。
冬の間半年ほどの村の護衛依頼は本来冒険者の中でも初心者が請け負う程度のものだが、集まりが悪く募集人員に到達しなかった。冒険者の宿の親父さんの顔を立てて依頼を受けるか、本当に食うのに困って仕方なく依頼を受ける程度の人間ばかりなので士気は低い。
しかし、都市の周辺農村からの農産物が来なくなれば食料品は高騰し食うのに困る人間も増える。他から農産物を取り寄せるなら輸送費も上乗せされるので当然高くなる。結局のところ農村を守るのは引いては自分のためにもなるのだが、貧乏くじを引きたがる人間はそうそういない。誰かに押し付けたがるのが人間のサガだ。
まあ、ダンジョンに潜るほうが実入りは良い場合もあるし、血気盛んな若者が長時間拘束される退屈な護衛を半年もやるかと言うとノーだ。
そうこうしているうちに再び<感知結界>に反応があった。思考の海から浮上する。今度は11体ほど。大きさは同じくらい。ただし、動きが素早い。<暗視>と<セカンドサイト>で視点を飛ばす。動きの速い走る枯れ木が11体見える。走る枯れ木のいる方向斜め上に指を上げ、<魔術の矢>を放つ。矢状に変化した魔術エネルギーが11本飛んでいく。1体につき1本の矢が命中し、走る枯れ木は全滅した。倒れた走る枯れ木は灰色になりボロボロに崩れ白いモヤとなり一部はこちらの身体に吸い込まれ大部分は森へと帰っていく。先ほど歩く枯れ木を倒した方向辺りに早歩きする程度の速さで誘うように。タワーディフェンスのようだな、とふと考える。朝になって交代の時間になったら森にダンジョンを探しに行くのも良いかもしれない。少々数が多すぎる気がする。早目に間引かないとモンスターが村に近づきすぎると守りきれないかもしれない。そう思考しながらドロップ品を回収した。




