人魚へ送る魔女のギフトボックス
人跡未踏の深海に人魚が住む世界。
人魚の国の姫セレンは、生まれつき日光にあたると体が焼ける体質だった。
他の人魚たちは昼間も魚たちと泳いだり、海面に顔を出して地上の世界を見ているのに、セレンはずっとそれが出来ずにいた。
けれどもセレンはそれでもよかった。深海と同じ深い群青色の空に浮かぶ月を見ることが、何よりも好きだったからだ。セレンは昼の地上を見たいと思わなかった。
セレンは、人魚の国にあるお城に父親と母親と一緒に住んでいる。
お城には他にもメイドの人魚が五人。そして不思議な魔道具を作る魔女の人魚がいた。
セレンは魔女ととても親しかった。一人娘のセレンにとって、魔女は姉のような存在だった。
ある日そんな魔女と一緒に、セレンはお月見に行こうと城を出た。
二人が海面を目指して泳いでいると、突然人間の青年が海に飛び込んできた。
人間は意識を失っているようで、固く目を閉じている。さらに近くには沈没しそうな船があった。どうやら地上は大嵐のようだ。
セレンは最初に落ちてきた人間を抱えて、砂浜を目指した。息が出来るように時折海面に顔を出しながら、必死で泳ぐ。
初めて会った人間を助けようとするセレンを、魔女は理解できなかった。
けれども嵐が収まり月の光がセレンを照らした時、魔女はセレンが人間を助けた理由を知った。セレンは恋する乙女の顔をしていたのだ。
その日以降、セレンは浮かない表情をしていることが多くなった。
あの人間に会いたい、私を人間にしてくれと魔女に頼んだら、「人間には出来るが日光に当たれない体質を変えることは出来ない」と言われてしまったのだ。
セレンは生まれて初めて自分の体質を憎んだ。そして絶望した。
そんなセレンを、魔女はとても心が痛む思いで見つめていた。
なんとか彼女が望む通り、あの人間に会わせてあげられないか。もはや手段は選ばない。
考えに考えた魔女は、一つの方法を思いついた。
自身が持つ魔法のギフトボックスを使うことだ。
やがてセレンの誕生日が訪れた。
魔女はセレンに誕生日プレゼントとして、自身の体ほどの大きさがあるギフトボックスを差し出した。
セレンがそれを開けると、中からあの人間と同じ見た目をした人魚が出てきた。
魔女のギフトボックスに人間を入れると、その者は人魚に変化する。
人魚が人間になれないなら、人間を人魚にすればいい。魔女はそう言った。
セレンは泣いて喜んだ。
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