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魔神ロクストゥス その④

 ()()()()()()()()()の、アイリスによく似たブロンドの髪が、風になびくように逆立ち、踊っている。


     *


 虹彩は黄金色に輝き、目の形はつり上がり、大きく見開かれ爛々と光っている。

 犬歯は牙のようになり、心なしか耳の先端も尖っている。

 肌は青白く、血の気が感じられない。


 衣服の色は暗色に変化し、星々のような煌めきがところどころに見える。

 ケープは伸びて外套(マント)と化し、長杖(スタッフ)の形状も邪悪に変化している。


 あふれ出す魔力は黒紫色の、瘴気の混じった暗黒の魔力。目に映るだけで体温を奪われるほどおぞましく、寒々しい力だ。


     *


 ()()、という言葉が、コウの胸中に浮かんでくる。


 だが()()は魔王ですらない。かつて古代文明に崇められ、一時は受肉し現界に顕現して定命(モータル)たちを支配していたとも言われる()()()()()

 疫病と飢餓をもたらし、蝗害を司るため「ロクストゥス」という名で伝えられている。


 その()()()()()()とでもいうべき魔神が、今コウの目の前にいる。


 (そら)には暗雲が渦巻いている。

 ちょうど広場の上空、魔神ロクストゥスの直上あたりを中心に禍々しい雲が渦巻き、急激に天候を穏やかならざるものにしていく。


     *


(ごめん、ちょっと()()()()()()()()()みたいだ)


 アイリスは、心の中でコウに謝る。


 だが、反省も後悔もしていない。アイリスの心の中にあるのは()()()()()()

 この()()()()()()()()()()


 魔界の住人の中でも、おそらく最上位の化物。無限の寿命を持ち、決して滅ぼされることのない不死性と不滅性を誇る、()()()()()()

 神話や伝承によれば、暗黒の女神エシュタルが自らの体を分けて造り出したという「暗黒の神々」の一柱。


 ()()()()()()()、とアイリスは思う。


 暗黒の神々? 永遠の者(イモータル)? ()()()()()

 ()()()()()()()()()()と、()()()()()()()。それだけで十分、万死に値する。こいつは()()()()ではなく、()()しなければならない。

 いや、そうではない。()()()()()()()()()()()()


 アイリスの頬に笑みが浮かんだ。神器(アーティファクト)画竜点睛(ドラッヘンテータ)》を握る両手に力が入り、光刃がうなりをあげて輝きを増す。


     *


 ()()長杖(スタッフ)を構えた。その杖頭から、巨大な鳥のような姿の炎が射出される。


(――!!)


 コウは《魔法阻止(カウンタマジック)》を発動しようとする。

 だが一瞬早く、アイリスが《画竜点睛(ドラッヘンテータ)》を振り抜く。炎の鳥は光刃によって斬り裂かれ、赤色の魔力の粒子になって還元していく。


「ほう……」


 魔神は首をわずかに傾げ、アイリスとその武器を見やる。


「面白いな。()()()()()()()が出来るのか。()()()()()()()()()……それ自体は古くからある術式だが、規模と()()()()だがが桁違いだ」


 アイリスは正眼に剣を構える。


「だが定命(モータル)には()()()()な。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が使うような武器に収まっている」


 ロクストゥスは、()()()()とでも呼ぶのが相応(ふさわ)しく思える形に変化した長杖(スタッフ)()()()と回転させる。

 一回転の間に杖頭がさらに変化し、杖の先端が二叉に分かれる。そしてその二叉の間から()()()()が生える。アイリスは目を見開く。


()()()()()()()は本来、永遠の者(われわれ)のためにあるような武器。()()()()()を持つ者こそ、()()()()()()の性能を()()()()()()できる」


 ロクストゥスは、魔力の刃を持つ槍と化した()()()()を右腋に挟み、水平に構える。そして開いた左手で挑発する。


「さぁ、()()()()()()()()()()。思うぞんぶん打ち合ってやる」


     *


(無限の魔力だと――)


 コウは両手で長杖(スタッフ)を握りしめ、アイリスとロクストゥスの戦いを見る。


 アイリスは巨大な剣を振り回し、ロクストゥスの首を狙う。

 あの神器(アーティファクト)――《画竜点睛(ドラッヘンテータ)》は持ち主の能力を高める性質でも持っているのか、展開前よりもよほど軽々と扱っている。


 魔神はアイリスの斬撃を、すべて軽々と受けている。

 回転を基軸とした動きで、舞い踊るようにアイリスは斬撃を繰り出す。縦に、横に。ロクストゥスはそれをすべて寸前で避け、()()()()の柄や光刃で受ける。

 侮蔑的な笑みを浮かべた表情からは、その真意は測れない――そもそも人間と同じような感情を持っているかは微妙だが。


 コウは握りしめた長杖(スタッフ)の中から、魔神に対抗できる魔法を探す。


 魔道士が使用する()()()()用の装備の中でも、長杖(スタッフ)はそれ自体が魔力回路を備えており、また数多くの魔導書(スクロール)術式(コード)を記憶する生ける(リビング)武具(ウェポン)である。「生物でない」というだけで「長杖(スタッフ)は一人の魔道士だ」とまで言う者もいる。

 とくに、マルグレーテの遺した杖は()()までも備えている強力なもので、コウが魔神に対して初手で発動させた《永遠の封印(シギルム・エテルヌム)》も、この長杖(スタッフ)()()()()()ものだ。


 アイリスが()()()()前に、魔神を()()できる魔法を探さなければ――


     *


――()()()()()()だよ。


 心の中に《念話(テレパシー)》が届く。コウは魔神と打ち合うアイリスを見やる。


――何だ? アイリスか?


 だがアイリスはコウの呼びかけに反応しない。《念話(テレパシー)》は魔力回路を介しているとはいえ、通常の会話と同様の制限を受ける。「耳に届かない」とか「話が聞こえない」といった事態は生じるのだ。


――アイリスではない。話しかけているのは()

――私? 私……誰だ!?

――あなたが()()()()()()でしょう? それが私。


 コウは長杖(スタッフ)を見やる。


――……まさか、長杖(スタッフ)が《念話(テレパシー)》を使うとは、


 人格があるといっても、長杖(スタッフ)のような武具は通常、人間などのようにはものを考えたり話したりはしない。あくまで魔法武器特有のやり方で、あるいは魔力的な回路を通じて持ち主とコミュニケーションを図るというだけだ。たとえば、意思を持った剣の場合は、剣の選り好みによって()()()()()()()()()()()する。

 先ほどの《永遠の封印(シギルム・エテルヌム)》も、コウが長杖(スタッフ)の知能に魔力回路をつなげ、杖が()()している膨大な魔導書(スクロール)の中から目的に合致した術式(コード)を検索させた。


 だが、この杖は今、()()()()()()()()()()()()()()()()


     *


 コウは杖に文字通り()(すが)り、語りかける。


――何だっていい。()()()()()()というのなら、今、()()()()()を教えろ。()()には失敗した。アイリスはあくまで()()したいようだが、それは容易い道ではない。()()が現実的な(みち)――

――だから、()()()()()()なの。あの魔神は、もう現界に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

――……そうだ。その通りだ。なら、どうすればいい? ここまで現界で()()()()()()まで()()した闇の住人を()()()()には、どういう魔法を使う?


 コウは杖と高速でやり取りをする。


 アイリスとロクストゥスの光刃が噛み合い、魔力の火花が散る。

 二人は弾かれたように間合いを離す。アイリスの息はあがっており、全身が汗にまみれているのが見て取れる。

 激しい身体運動と、魔力の刃を生成する神器(アーティファクト)を使用する消耗。それだけではない。高位の闇の生物と相対していること自体が生命力を削っている。


――()()()()()の。

――()? ()だと!?

――そう。()()では駄目。ロクストゥスの人格(ペルソナ)はほぼ全て()()()()の中に、つまり現界(こっち)にいる。魔神(あいつ)現界(こっち)()()()()()()()

――……つまり、()()しようとすると、魔神(やつ)はそれに()()()()


 その時、戦いの場で爆発が起こる。


     *


 離れた間合いから、アイリスは腰の短杖(ワンド)を抜く。

 ロクストゥスはそれを見やり、顎を上げて文字通り見下す。


「もう魔力も涸れかけているだろうに、今さら何を――」


 アイリスは短杖(ワンド)をロクストゥスにまっすぐ投げつけた。そして、


「《爆破(エクスプロード)》」


 短杖(ワンド)はロクストゥスの眼前で爆発を起こす。視界を遮られ、ロクストゥスの動きが一瞬止まる。

 粗雑な投げナイフに《爆破(エクスプロード)》を付与して使()()()()()()にしているアイリスだが、()()()()()短杖(ワンド)も投げられるようにしていたのだ。

 アイリスは間髪入れず《画竜点睛(ドラッヘンテータ)》に全魔力を込める。


「カッ!!」


 気合とともに身を回転させ、()()()()()から《画竜点睛(ドラッヘンテータ)》の光刃を伸ばし、斬りつける。

 ()()()()、アイリスはきつく目を閉じた。


     *


 光刃は二回転し、《爆破(エクスプロード)》の煙が斬り裂かれる。

 魔神の首と胴が、そして胴体が中ほどから分断された。

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