表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/87

魔神ロクストゥス その②

「――《永遠の封印(シギルム・エテルヌム)》」


     *


 コウは長杖(スタッフ)の杖頭を空中の魔神に向け、古の呪文の詠唱を完了させた。


 (ごう)、と旋風が巻き起こる。古代文字の浮かぶ魔力の帯が杖頭から(ほとばし)()で、魔力球に捕らわれた魔神に襲い掛かり喰らい付く。

 マルグレーテの体を奪った魔神ロクストゥスは、コウの()()()を受けて長杖(スタッフ)を構える。杖頭から放たれた《魔法阻止(カウンタマジック)》の青い光が古代魔法に対抗するが、否定の魔力は弾かれて雲散霧消し、青い光の粒と化して宙に散り、空気中に還元していく。

 魔神の長杖(スタッフ)を古代魔法の魔力帯が捉え、マルグレーテの体を拘束する。


「ぐッ……うおぉ…………」


 マルグレーテの唇から、しゃがれた男の声で唸りが漏れる。黒紫色の瘴気混じりの魔力が、魔神の輪郭からあふれ出す。空中で震える魔神に、一つ、また一つと魔力の帯が絡みついていく。

 魔神を留め置いていた魔力の球が収縮する。マルグレーテの肉体の姿が、魔力の光に遮られて見えなくなる。


「うおぉぉ…………おおおォォォ……………………」


 魔力球が収縮し、バンッという魔力音が弾ける。魔神を閉じ込めた魔力球が()()()()()()、宙に巻いた渦の中心に吸い込まれるように回転する。


(……ッッ!!)


 コウは両脚を大きく開き、両手で長杖(スタッフ)を持ち、杖頭を渦に向けて掲げる。

 目を見開き、歯を食いしばり、こめかみに血管が浮く。汗が飛び、杖を握りしめた手が震える。

 足元には魔法円が回転し、激しい旋風によって埃や塵が舞い上がる。


 アイリスは渦を巻いて発動する古代の大魔法と、それを制御(コントロール)するコウを見やる。

 しばし怒りと復讐心を忘れ、驚きと怖れが心を支配する。左手に持った短杖(ワンド)を取り落としそうになる。


 オオオオ………… オオオオオォォォ……………………


 獣の咆哮にも似た、しゃがれたうめき声が天蓋に轟く。


 魔神を閉じ込めた魔力の球は長く引き伸ばされ、宙に生じた魔力渦の中を激しく回転する。

 大魔法の進行する歌うような詠唱音が、魔神の咆哮に合わせるように辺りに響き渡る。村に張られた結界が祭壇となり、結界の構造が古代の大魔法を行使しているのだ。

 やがて、魔神を閉じ込めた魔力球が中心に至り、長く引き延ばされていた球が球状に戻る。


 コウは自身に《雲踏(ジャンプ)》を付与し、空中の魔力渦に向けて高く跳び上がった。

 そして、マルグレーテの遺した長杖(スタッフ)を大きく振りかぶり、


結牢(コンクルーシオ)!!」


 渦の中心――魔神を閉じ込めた魔力球に向けて杖頭を叩きつける。


 光の奔流が、渦の中心から溢れ出し――魔力の大爆発を引き起こした。


     *


 周囲の光景は白一色に塗りつぶされ、音さえも聞こえなくなる。


 永遠にも思えるような数瞬の(とき)が過ぎ、やがて魔力の奔流が引いていく。

 どさり、と重たいものが落ちる音が聞こえた。


     *


「コウッ!!」


 広場の中心に、長杖(スタッフ)の上に折り重なるようにコウがうつ伏せに横たわっていた。

 アイリスは短杖(ワンド)を腰に仕舞いながら駆け寄る。


「ぐッ……、」


 コウは身を起こそうとするが、両手には力が入らず、生まれたての小鹿のように震える。

 アイリスはコウの腕を取り、肩にかけて身を起こすのを手伝う。コウは長杖(スタッフ)に両手ですがるように立ち上がる。顔面が蒼白になっており、魔力がほぼ尽きかけているのが見て取れる。アイリスは息を呑んだ。


「……()()()()()()んだよねコウ君!?」

「いや……、」


 どさり、と()()()()()()()()()()が落ちる音がした。

 コウとアイリスが目を上げると、少し離れた場所に()()()()()()()()がうつ伏せに倒れている。


「姉さ……ッ」


 駆け寄ろうとするアイリスを、コウが袖をつかんで止める。


「……くっ。くくくく…………」


 倒れ伏したまま含み笑いをした()()()()()()は、震えながら起き上がり、顔を上げる。

 歪んだ表情に、()()()()()が輝いている。


     *


「やってくれたな。《永遠の封印(シギルム・エテルヌム)》か……この時代にもよく()()()()()()ものだ」


 立ち上がる魔神ロクストゥス。脚がふらついているが、さしたるダメージは見られない。

 コウは魔神を見て奥歯を噛みしめるも、震える脚が砕けて膝をつく。


「くはッ」

 ロクストゥスが嗤った。


()()()()()だろうな、()()()()()()のは。よく()()()()()ものだな。()()()()()()()()()()()と思っていたが、()()()()()()()()()()()


 侮蔑的な目を、コウとアイリスに向けるロクストゥス。


――失敗したの?

 アイリスが、《念話(テレパシー)》でコウに訊ねる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ロクストゥスが《念話(テレパシー)》を読み取り、首を傾けてアイリスに言う。アイリスは思わず怖気を震い、ロクストゥスはそれを見て口角を引き上げる。


()()抵抗(レジスト)しただけだ。()()()()()()が、所詮は()()()()()()()()だな。それとも、この肉体(マルグレーテ)()()が良くて助かったか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 服の埃を払うと、ロクストゥスは離れた場所に転がっていた長杖(スタッフ)――マルグレーテの()()()()――に()()()と目をやった。


「その術式(コード)()()の時代の、定命(モータル)抵抗者(レジスタンス)どもの生み出した魔法でな。対象と術者の()()()()を無視して封印を施す。虫ケラのような()()()()()()()()()ための数少ない()()()()の一つだ」


 魔神が長杖(スタッフ)に手のひらを向けると、杖は吸い寄せられるように宙を飛び、手に収まる。


「だが()()()()な。()()()()彼我(ひが)()()()()()()――つまり()()()()()()()()()。その代償として、その魔法は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 アイリスはコウの顔を見る。顔面蒼白で、冷たい汗にまみれているが、コウは今すぐ()()()()()様子は無かった。


     *


――()()()()()()()だ。


 コウが《念話(テレパシー)》の()()()()で語りかける。


――コウ君、大丈夫なんだね?

――ああ。()()()と、()()()()()()()()()()()()()のおかげだな。この村は、予想以上に()()()()()()()()()()みたいだ。

――……()()()()()()()()()()()()()くらいに?

――そうだ。まぁ()()()()()()()()()()()()()()と思ってたが。

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それをわかっていて撃ったの!?

――そうだ。


 アイリスは息を呑む。


――勘違いしないでくれよ、僕は()()()()()なんかじゃない。この杖の()()()()の上、納得ずくで()()()んだ。

――()()()死なないだろう、って、そういうこと?


 片膝立ちに震えていたコウは、長杖(スタッフ)にすがって立ち上がる。

 それを見やり、ロクストゥスは目を細め、唇をゆがめる。


――しかし、()()()()()()とは思っていた。ここで命を賭けてもいい、()()()()()()()()()()()ってね。

――そんな、


――だってそうだろう? マルグレーテの体に縛り付けられているが、()はもう()()()()()()()()()()()()()()()。放っておくわけにはいかない。放っておいたら()()()()()()()()()()()()()()

――…………


――あの魔神の知識と能力と()()()()()、それが不幸にも()()()()()()()()()()()()()()()()()という()()()()()()()を得た。奴を野放しにすると、下手をしたら今後何百年にもわたる暗黒の時代が到来しかねない。

――……………………


――今回はたまたま僕に、奴を阻止する()()()()が渡されていた。()()()()()()()()()()()


 アイリスは、コウから静かに手を離した。


     *


「……アイリス?」

「コウ君、よく頑張ったね。今度は私の番だ」


 そして魔神ロクストゥスに一歩踏み出す。ロクストゥスは首を傾げて、獲物を見る捕食者の目つきでアイリスを見やる。


「もう迷わない。()()()()とも思わない。()()()は今、ここで()()()()()()()()()


 アイリスは背中の大剣を抜き放った。長い柄を両手で持ち、ロクストゥスに向ける。

 ロクストゥスはそれを見て、侮蔑と愉悦の表情を浮かべる。


「いいねぇ、人間どもの()()()()()だ。()()も嫌いではないぞ、かつては戯れに楽しんだものだ」

「ほざけ。なぁ魔神(バケモノ)、さっき()()()は言ったよな? 私たちが、()()()のことを()()()()か、()()()()かしようとしていると」

「……ああ。それがどうかしたのか?」

()()()()()()()()()。コウ君は()()しようとしていたみたいだけど、()()()()()()()()()()()()()()


     *


 アイリスの構えた大剣が、仄暗い魔力光を放つ。


――《画竜点睛(ドラッヘンテータ)


 心の中で、アイリスは大剣の()()姿()を覚醒させるキーワードを唱えた。


 大剣に亀裂が生まれ、魔力光が沿って光る。柄が二倍以上にも伸びる。剣身が伸展し、中央から二つに割れ、音叉のような形状へと変形する。

 そしてその空いた中央から、魔力の電光で出来た刃が伸び、巨大な()()()()を形成し、うなりをあげて空気を震わせる。


 ロクストゥスは眉をひそめ、いぶかしげにそれを見た。

 アイリスは、巨大な魔法剣へと変化した得物を水平に引き、腰溜めに構える。


「私が望むのは、あくまでも、魔神ロクストゥス――()()()()

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ