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結界 その②

「いまからこの村の、()()()()()()()()()()()()()()


 アイリスはそう言った。


     *


 ()()、とコウは思った。


「要らないんじゃないか?」


 そう言って、背後の樹の根元に座り込む。


「この村に――まぁ村の()()()だが――()()()()()きて、僕も一応チェックした。村の結界は機能している。そりゃ、魔熊(デスベア)魔猪(デスボア)くらいは入り込むこともあるさ。だがそういうのは()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。あるていど魔力を持った魔物(モンスター)は通れないようになっている。巨大な魚が細かい網を通り抜けられないようにね」


 アイリスは腕を組んで、そんなコウを見下ろす。


「忘れたの? コウ君。思い出してみてよ、君を私たちの……いや、()()パーティー・疾風(シュトゥルム・)怒濤(ウント・ドランク)へ勧誘しに来た日。この村の結界が完璧なら、どうしてメタルゴーレムなんていう危険極まりない魔物(モンスター)が出現したのさ?」

「……………………」


 コウは眉根をひそめて口をつぐんだ。


()()()()()()()が魔法でも使ったとか? それはあり得ない。あの時、村にいた魔法使い(マジックユーザー)は、私とコウ君、それと教会の司祭だけ。《魔力探知器(マナレーダー)》で調べたから確かだよ。大きな声じゃ言えないけど、ここの()()()はコウ君どころか()()()()()()()()

「……そりゃみんなわかってるよ、司祭様がろくな神聖術も使えないなんてね。むしろ彼のほうが僕に、たまに教えを乞いに来るくらいだ」

「司祭様はいい人です、皆に好かれてるんですよ」


 リサがフォローを入れる。


「そうなんだよな。だから()()()()んだろう。もともと前の司祭が亡くなった後の()()()だったが、なまじフィレオン教の聖職者の資格を持っていたばかりに『司祭いるじゃん』ってことになって正式な後任が来ないって話だ」

「若い頃に教会で修行してたことがあったんだってね。使える神聖術は《祝福(ブレス)》と《治癒(ヒール)》だけって言ってた」

「なんだ、知ってるじゃないか」

「一週間以上滞在してるからね。村人たちとはほとんど顔なじみだよ」


 コウは()()()と仰向けに横たわった。


「だが結界は張られている。僕が何をする必要もない」

「あのメタルゴーレムはどう説明するの?」

「おおかた、()()()()からでも落ちてきたんだろう。僕には関係ない」

「君はいったい何を言ってるんだ」


 アイリスは腰に手を当てコウを見下ろし、呆れた声を出す。


     *


 ふてくされたようなコウの様子に、リサはむしろ少し笑って言う。


「とか言って旦那様、あの時すごい勢いで走っていったじゃないですか」

「そうだよ、あんな大怪我を負ってまで村を救ったんだ。君の本心はわかってるよ」

「なんだ、その本心ってのは。僕は()()()()()冒険者なんだ。なんのとりえもない」

「Aランク冒険者が言っても説得力無いよ」


 アイリスはため息をついて言う。


「君は()()()()()()()()()と思っている。誰か他の人のために、自分の力を使おうと思っている。そういう人だ」

「……………………」


 コウはそれに答えず、横向きになる。


「わかります。旦那様は自分の周りのことはなにもかもメチャクチャで平気なのに、他の人が困ってるって聞くと、口よりも先に体が動くんです」

「ね、そうだよね。やっぱりいい人なんだよ、コウ君は。生まれ持っての善性というものがあって、それが人を――」

「やめろやめろ、やめてくれ」


 コウは半ば悲鳴をあげて地面から身を起こした。


     *


「勝手なことばかり言わないでくれ。僕を()()()()ったってそうは行かないぞ」


 勝手なことばかり言っていた女二人は、余裕の笑みを浮かべてコウを見下ろす。


「だいいちアイリス、君だってAランク冒険者だろう。もちろん魔法使い(マジックユーザー)でもある。しかもギルマス資格者だ。この村に張るような規模の結界なら楽勝だろ?」

「それが、そうもいかないんだよ」

「なんでだ。もしかして()()()()()()()()()のか?」


 アイリスはコウに近づき、その隣に座る。そして空を見上げる。


「言ってなかったっけ? 私は、魔法が()()()()()()()()()()。最近は短杖(ワンド)の性能も向上してるし、知識でなんとか誤魔化してるけどね」

「そういえば、君が()()()魔法を放つところは見たことがなかったな」


 メタルゴーレム戦の時と、黒いドラゴンと戦った時。

 確かにアイリスは、身の丈ほどもある大剣を振り回して戦い、胸のベルトに挿した短剣を投げたりしていた。魔法も使っただろうか? 《火球(ファイアボール)》くらいは見た記憶がある。


「《火球(ファイアボール)》くらいは撃てるけどね。コウ君みたいに()()()()()()()()()()()は出来ない。術式(コード)を丸暗記してるだけだよ」

「それはそれで安定感があるが」

「そんなわけで、私一人で結界を張るなんて出来ないんだ」

「むー……」


 二人の様子を見ていたリサが、頬を膨らませてずかずかと歩いてきて、無理やり間に入り込んで同じように座り込む。


「お、おい、リサ」

「あら~」


 アイリスは頬を膨らませたリサを抱いて頭を撫でる。


「可愛いね~リサちんは」

「…………」


 撫でられるままになっているリサを、コウはよくわかっていない様子で見た。


     *


「しょうがないな、わかったよ」


 コウは立ち上がる。


「と、いうことは?」

「この村の結界を張り直す手伝いをしてやる。それでいいだろ?」

「やった! さすが旦那様!」

「よし、そうこなくっちゃ」


 リサとアイリスは立ち上がり、手のひらを打ち合わせる。

 よくわからないな、とコウは思った。


「でも、間違えちゃいけないよコウ君。君が私の手伝いをするんじゃない。()()()()()()()()()()んだ」


 アイリスはコウに向き直った。ゆるんだ表情が一瞬引き締まり、周囲の空気が変わる。


「結界は()()()()んだ。技術的な問題じゃないよ、なんたって()()()()()だ。君は()()()()()()なんだから、その義務があるってことさ」

「……ああ、わかったよ」


 コウは()()の悪そうな顔をし、ぼりぼりと頭を掻いた。


     *


「だが、結界を張るには色々と準備が必要だ。まず長杖(スタッフ)を用意しなきゃいけない」

「そこは任せといてよ」


 むっふっふ、とアイリスは笑った。


「姉さん――マルグレーテの残していった()()長杖(スタッフ)があるんだ。それを使えば問題ないよ」

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