表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/78

ミスター・ベヘモス その②

()()()()()言っておきますぞ、ミスター・ベヘモス」


 胴元を務める肉塊のような男が不愉快に揺れ、聴く者におぞましさを感じさせずにいられない声で告げる。


()()()()()()、今回の賭けに当たっては()()()()を避けるため、参加者全員に暗黒系禁呪《契約(コントラクト)》を付与しております。再度確認させていただきますぞ、この《契約(コントラクト)》は一度かけたら()()()()()()()()()。契約内容が遂行されることで初めて自然に解呪され、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


     *


 胴元の男の言葉を受け、下を向いたままミスター・ペガサスが続ける。


「《契約(コントラクト)》は()()()()()魔法でね。無理に()()を試みると、あんたの()()()()()する。心は絶望に追い込まれ、体には文字通り身を切られるような苦痛が襲い掛かる。しかも、そんな時も他人から見た姿は変わらない。()()()()()()()だ」


 ミスター・ペガサスは立ち上がり、床に這いつくばるミスター・ベヘモスの横を通り過ぎ、


「まぁ、俺にとってはどうでもいい話だ。()()()()()()()()()()()し、()()()()()()()姿()()()()()()だしね」


 そして部屋を出ていく。


     *


 扉が開かれても、部屋全体に付与された《隠蔽(ハイディング)》により中の様子は(うかが)えず、また《静寂(サイレント)》により音も漏れない。

 そもそもこの部屋があるのは建物の中で特別な(フロア)だった。衝立(ついたて)の設けられた階段は《隠蔽(ハイディング)》と《偽装(カモフラージュ)》、そして《忌避(アボイダンス)》の結界魔法が最高の練度と強度で付与されており、それを知らぬ者は見えもしなければ気づけもせず、近づきたいとも思えない。


 そこはまさに闇の中に隠された部屋だった。


     *


 ミスター・ペガサスの言葉を引き取り、ミセス・マーメイドが紫煙を吐き出し、話を続ける。


「フゥ~……。()()()、あなたが苦痛や絶望のあまり自死を選択したとしても、それをもって帳消し(チャラ)になったりはしない。あなたの()()()()()()()()()。具体的に言えば、契約者本人の家族や恋人、つまり()()()()()()()()()()()()()()


 残酷な事実を告げ、ミセス・マーメイドは立ち上がり、


「一番いいのはァ……()()()()()()()ね。()()()()()()()()()()()()()()わよォ。まぁ、()()()()()()()だけど」


 そしてやはり部屋を出ていく。


     *


 ミセス・マーメイドの言葉に続けて、ミズ・フェニックスが忌々しげに吐き捨てる。


「禁呪だけあって、下品な暗黒魔法です。しかし、()()()()()()()()()()()()()もの。とくにあなたのような、()()()()()()()()()からは()()()()()()()()でもなければ取り立てることは出来ない。なにしろ、()()()()()()()()()()を追い求めるために()()()()()()()()()からね」


 苛烈な断罪を行ったミズ・フェニックスは、


「あなたの出来ることは、()()()()()()()()()()()()こと。(フィレオン)()()()()()()()()()です」


 毅然とした態度で部屋を立ち去る。


     *


 ふぉっふぉっふぉっふぉっ、と福々しい笑い声をあげた後、ミスター・ドラゴンが補足する。


「皆さん、肝心なことを言っておりませんな。意地が悪いのか慈悲深いのか……まぁいい。私が言いましょう」


 そして立ち上がると、ゆっくりと出口側――ミスター・ベヘモスに向かって歩きはじめる。


「ミスター・ベヘモス、あなたが()()人間離れした強靭な忍耐力を持つ超人だとしましょう。《契約(コントラクト)》のもたらす()()()()()()()を、自分ひとりのこととして、人生の残り時間いっぱい、心身ともに耐え抜いていけば、()()()()()()()()()()()()()()()()――そう考えるかもしれない。しかし()()()()()()()()()()()()


 ミスター・ベヘモスの前に立ち止まる、《隠蔽(ハイディング)》に隠された、ミスター・ドラゴンの黒い影。その目の部分だけが、怜悧な光を放って見下ろしてくる。

 それを見上げ、ミスター・ベヘモスは恐怖に震えた


「《契約(コントラクト)》は、それ自体が知能と判断力を備えた、()()()()()()()()()()()()。それを産みだした悪魔、最もこの世を堕落させる()()()()()ブリー・ヤールに直接紐付けられた、()()()()()()()()と言っていい。あなたが()()()()()()、のらりくらりと踏み倒そうとした瞬間――その意図を察し、《契約(コントラクト)》は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ミスター・ドラゴンの影が、まるで悪魔そのものであるかのように膨れ上がる。


「お判りですかな? つまり、あなたの考えは腹の中まで見透かされている。『支払う気が無い』と見なされた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()。確か奥さんと娘さんがいらっしゃいましたな?」


 家族のことを言われ、ミスター・ベヘモスはびくりと体をこわばらせ、震えはじめる。冷たい汗が全身から噴出する。


「大事な人たちがどうなってもいいなら、お好きになさればよろしい。()()()()()()()()()()()()()()


 ふぉっふぉっふぉっ、と笑いながら、ミスター・ドラゴンが退出する。


     *


()()()()()()()ことだな、ミスター・ベヘモス」


 意外にも慈悲深い言葉を口にし、筋肉質の戦闘者であるミスター・グリフォンが立ち上がる。


「貴殿は文字通り()()()()()()()。今回の賭けにおいて、賭け金の足りなかった貴殿は自分の店――すなわちテクストル商会と家屋敷に使用人、馬車、宝石や貴金属類、別荘とそこに移動するためのワイバーンまでを抵当に入れて賭けに臨んだ。そうだろう?」


 ミスター・グリフォンは、ミスター・ベヘモス――織物商テクストルの賭けの内容を列挙する。あらためて、テクストルは失ったものの大きさを思い知り、(おこり)のように震え出す。


「だがな、自分自身の体や()、家族を抵当に入れていなかったのは()()()()()()というべきだな。貴殿は()()()()()()が、己自身や愛する者までは失わずに済むということだ」


 扉に向かい、ミスター・ベヘモスの隣に立つと、ミスター・グリフォンは力づけるとも突き放すとも言えないような口調で語りかける。


「あの()()()()()()()()()――『()()()』は貴殿をここまで連れてきた。そして残酷な結末を突きつけた。()()()()()()()()()()()()。ここからだ、ミスター・ベヘモス。貴殿は失った地点をゼロと位置づけ、足をつけて這い上がらねばならない。ここが貴殿の()()()()()だ。()()()()()()()()()()()()()()()のだからな」


 そう言って、ミスター・グリフォンも部屋を後にする。


     *


「さて……ミスター・ベヘモス。()()()()()()()()()


 醜く太った男が、わずかな愉悦が隠しようもなくにじみ出た不快な声で、ミスター・ベヘモス――織物商テクストルに勧告する。


「ちょうど一週間後の、ちょうどこの時刻に致しましょう。それまでに、あなたの店と土地建物、抵当に入れた()()()()()()()()()()を持って、ここに来てください。()()()が言ったように、踏み倒そうとする試みは無駄に終わりますぞ。()()()()()()()()()()()、まず警告として()()()()()()()()()()()()()()


 テクストルは顔を上げて、目の前に立つ肉塊のような醜い影を見上げる。


「そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ミスター・グリフォンが言った通り、体や魂、家族を賭けなかったのは英断でしたな」


 肉塊はおぞましい音を立てて震える。おそらく笑い声のつもりなのだろう。


「おっと、今回のことを誰かに言おうとしても無駄ですぞ。言おうとすると口が動かなくなる。書こうとすると手が動かなくなる。この会に参加する際、あなたには暗黒系禁呪《禁忌(タブー)》がかけられている。これも決して()()()()()であり、《契約(コントラクト)》と同様に、解呪できないからこそ禁呪指定された忌まわしき魔法」


 腰帯(ベルト)から、目盛りのついた奇妙な短杖(ワンド)を取り出し、これ見よがしに振って見せる肉塊。


「要は()()()()()()()()()()()()()()ということです」


 では、と言い残し、肉塊――冒険者賭博の胴元は、醜い体を揺らしながら部屋を出ていく。


     *


 後には、すべてを失った織物商テクストルだけが残された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ