表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/77

ミスター・ベヘモス その①

「今回の賭けの結果は『桜花騎士団(キルシュリッター)は、()()()()()()()()()()()()』。すなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 闇魔法《隠蔽(ハイディング)》により黒いシルエットと化しながらも、なおも醜さが溢れ出ている、肥え太ったブタのような、肉塊のような胴元の男が、精いっぱいの厳粛さを演出した不快極まりない声で告げる。


     *


「ばッ、バカな! ()()()()()!!」


 当然、ミスター・ベヘモスは声を荒げる。


「勝ったのは私だ! 賭けの内容はこうだ。一言一句覚えているぞ、『この戦いにおいて、桜花騎士団(キルシュリッター)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』」


 ミスター・ベヘモスはここを先途(せんど)と大声で抗議を試みる。


桜花騎士団(キルシュリッター)の三人、ハインリヒとエルガー、バルトは、この戦いにおいて命を落とさなかった。それどころか、フィレオン慈悲病院に入院しているアンナ・フューゲルですら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この賭けに勝ったのは私だ!」


 跳び上がらんばかりに興奮してわめき散らすミスター・ベヘモスを、他の六人の男女――胴元の太った醜い男と、幻獣の名を冠した胡散臭いシルエットたちは、闇魔法《隠蔽(ハイディング)》の黒いヴェールすら貫通する冷ややかな目線で見つめる。


「落ち着きなさァい、ミスター・ベヘモス」


 粘りつくような声で、ミセス・マーメイドが諫める。


     *


「フゥ~」


 ミセス・マーメイドは煙管(キセル)を吸い、紫煙を吐き出してミスター・ベヘモスを見やる。


「あなたに何度『落ち着きなさい』と言ったかしらァ? 殿方たるもの、もう少し落ち着いた態度で臨むべきですよォ? ()()()()()()()()()()ね」


 そして「カンッ!」と音高く灰を落とす。


「だ、だが! そもそも私は敗北などしていない! 桜花騎士団(キルシュリッター)は死人を出さなかった! ()()()()()()()()()()!」

「だから、そこが間違いなのですよ、ミスター・ベヘモス」


 ミズ・フェニックスが()()()()と言い渡す。その声に、ミスター・ベヘモスはびくりと肩を震わせる。


「あなたは賭けの文言を一言一句覚えていた。そのことは称賛に価します。なら、()()()()()()()()()()()()()()()()

「……ど、どういうことだ」


 ミスター・ベヘモスは、あらためて賭けの文言を思い出す。彼はすぐれた商人であり、契約書の内容を読み込み、記憶することにかけては本業とも言える。


『この戦いにおいて、桜花騎士団(キルシュリッター)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 胴元の男は確かにそう言った。一言一句間違っていない。

 何かがおかしい。何が間違っているのか?


 ふぉっふぉっふぉっ、と好々爺のような笑いが響く。ソファの端に座った、でっぷりとした腹を持つ男、ミスター・ドラゴンの声だ。

 いかにも福々しい、和やかな笑い声のようだが、その声は不思議と人間的な温かみを欠いている。


「愉快ですな、ミスター・ベヘモス。あなたほどの()()()()()が、()()()()()()ではまるで()()()()()()()()()()()のだから。まったく賭け事というものは恐ろしい」

「なっ、何が言いたい!」


 ミスター・ベヘモスは不快感を覚え、思わず声を荒げた。


 ミスター・ドラゴンは、当然のようにミスター・ベヘモスの素性を知っているようだ。対してミスター・ベヘモスは、この中ではミズ・フェニックスの素性――フィレオン教会の「聖女」ユスティエラ――しか突き止めることしか出来ていない。

 ()()()()は、すなわち()()()()()()()()()となる。


(忌々しい奴らめ! 全員で結託して丸め込み、この俺が敗けたことにしようとしているのか!)


     *


「わからぬか、ミスター・ベヘモス」


 いかにも戦闘者然としたミスター・グリフォンが、やや苛立ちの混じった低い声で言った。

 その声は低く恫喝的に響いた。他の誰もが微動だにしない中、ミスター・ベヘモスはびくりと震え、硬直する。


「なっ、何を……」


 ミスター・グリフォンは露骨にため息をつき、ミスター・ベヘモスを見やる。


「……()()()に呼ばれるくらいだ。少しは気骨ある者かと思っていたが、残念だな。貴殿()この()()()()()ではなく、()()()()()()()()だったわけだな」


隠蔽(ハイディング)》のヴェール越しにもわかる冷たい眼光に、ミスター・ベヘモスは声を上げることができない。

 他の五人の男女は、その様子を、あるいは興味深げに、あるいは愉悦に満ちて見守っている。


「よいか、ミスター・ベヘモス。賭けの文言には『()()()()()()()』とあっただろう。その他については何も言及していない」

「……どっ、どういう…………」

「わからぬか。『()()()()()()()』の『()()』とは、なにも桜花騎士団(キルシュリッター)()()()()()()()()()()()()()()()


 その言葉の意味が、ミスター・ベヘモスの思考に浸透するまで、数秒の時が費やされた。


「…………あっ!!」

「おわかりか。つまり『()()』には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「もし『桜花騎士団(キルシュリッター)の三人の誰かが命を落とすか』という賭けなら、()()()()()()()でしょう。わざわざ『()()()()()()()』などといった文言にするからには、そこには意味が含まれているということです」


 ふぉっふぉっふぉっ、とミスター・ドラゴンが笑う。


「あの場で、吸血鬼(ヴァンパイア)は牢獄の中の盗賊の一人の血を吸って殺した。否、そればかりか、桜花騎士団(キルシュリッター)の魔銃士バルトは盗賊どもを《業火(インフェルノ)》で()()()()()()。『死人が出たか否か』など、まさに()()()()()()()()()()ということですな」


     *


 ミスター・ベヘモスは、《隠蔽(ハイディング)》を通してほど目に見えて狼狽し、哀れな身振り手振りで言い募る。


「そ、そんな曖昧な! そのような()()()()()()()()ような賭けの文言では、まるで胴元の()()()()()()()()()()で勝ち負けが決まってしまうではないか!」

「いい加減になさい、ミスター・ベヘモス」


 ミズ・フェニックスが硬い声でたしなめる。


「もし、あなたが『()()()()()()()』の()()()()に気づいていたなら、あなたは()()()()()()()()()ことも出来た。『そんな曖昧な賭けには乗れない』と言ってね。あるいは『死人とはどういうことか。まさか盗賊どもの命も含まれるんじゃないだろうな』と、胴元に詰め寄ることも出来たはず」

「う、うう……」

「つまり、あなたが()()()のは、はっきりとあなたの()()()()のせい。他のすべての条件で、あなたは()()に劣るものではない。ですが、あなたは勝負事において最も重要な『()()()()()()()()()


 ミスター・ベヘモスは、反論する力を失い、膝から崩れ落ちる。


     *


 くっくっくっ、と癇に障る笑い声が響く。ミスター・ペガサスだ。


「なぁ()()()()()()()

 と、ミスター・ペガサスはもう取り繕わずに言う。


()()()は全員、今回の賭けの文言の()()()()に気づいていたんだよ。おっと『示し合わせて』なんかじゃないぜ、俺たち一人ひとりが、胴元の不自然な言葉遣いを()()()()()()ってことさ」


 もはや言葉も出ないミスター・ベヘモス――織物商テクストルに、ミスター・ペガサスは愉悦に満ちた声色で追撃する。


「そしてここからが面白いんだが、あの戦いで『死人が出ない』なんてことは起こらないよな? なにしろ桜花騎士団(キルシュリッター)は強い。吸血鬼(ヴァンパイア)は一回くらいは()()を喰らうだろう。『賭けになってない』んだよ……()()()()()()()()だからな。つまり、()()()は賭けを降りても良かった。賭けに参加し、勝敗が決まらない場合、賭け金は次回に持ち越しだ。なにも好きこのんで自分の賭け金を減らさなくてもいいからな」


 誰も何も言わぬ中、ミスター・ペガサスの長広舌が続く。


「しかし俺たちは全員が――つまり()()()()()()()ってことだが――『死人が出る』に賭けた。何故か? それは、()()()が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだよ。これも『示し合わせて』なんかじゃないぜ、あくまで『そういう空気だ』と理解したんだ」

「……………………」

「言葉も出ないか? 言い換えればな、今回の賭けは、まず『()()()()()()()()』は()()()()()()()()()だ。それとは別に、あんたを除いた俺たち五人は、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことなんだよ」


 ミスター・ペガサスの言葉に、ふぉっふぉっふぉっ、と愉快そうな笑い声が重なる。


「まさにまさに! いや、よく観察し、分析されていますな、ミスター・ペガサス。あらためて、()()()()()()()()()()()()()()()()

「お褒めにあずかり恐悦至極。まぁ、()()()()()()()()もわからなければ、あっという間に調()()()()()()()()ような場所で生きているものでね」


 ミスター・ドラゴンの称賛に、ミスター・ペガサスは()()()()答える。


「まぁそんなわけで、()()()は全員、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に賭けた。結果的には、()()()()()()から()()()という形になり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わけだがね」


     *


「ともあれ、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でな」


 ミスター・ペガサスにより最後通牒が下される。


 ミスター・ベヘモスは、床に四つん這いになり、声も出ずに震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ