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賭博者たち その④

 首都某所、とある建物の一室――


     *


魔道視板(モニター)》など神器(アーティファクト)を用いて冒険者たちの戦いを観戦していた賭博者たち。


 その中の一人、居並ぶ面子の中で一番端に座った貧相な男、ミスター・ベヘモスは、桜花騎士団(キルシュリッター)吸血鬼(ヴァンパイア)フェムトを破る瞬間を見て、思わずソファから立ち上がった。


「や、やった!」


 ミスター・ベヘモスは文字通り手に汗を握り、闇魔法《隠蔽(ハイディング)》越しにもハッキリと見て取れる満面の笑みを浮かべ、喜びの声をあげた。


「ふ、ふははは! やった、やったぞ! さすが桜花騎士団(キルシュリッター)、さすが『天才』ハインリヒ・グラーベン! やってくれると思っていた!」


 彼は居並ぶ()()()()()()()を見やり、さらに言い募る。


桜花騎士団(キルシュリッター)は一人の犠牲も出さずに吸血鬼(ヴァンパイア)を討伐した! ()()()()()()()()! そうですな、皆々様がた!」


 居並ぶ賭博者、五人の影法師たちは、思い思いの姿勢でソファに座り、()()が終わって黒い板となった《魔道視板(モニター)》を見据えていた。

 ミスター・ベヘモスの問いに直接答える者は誰もいない。否、それどころか、五人の男女は意図的に彼を無視しているようにすら見えた。


     *


「……しかし、桜花騎士団(キルシュリッター)の決断は見事でしたな。まさか盗賊たちを()()()()()()()()()()()とは思いませんでしたぞ」


 でっぷりと太った体の、頭頂部が隠れる帽子を被った中年の男、ミスター・ドラゴンが、冒険者たちの死闘を観戦した感想を口にする。


「戦場において、何よりも重要なのは()()だ。()()()()()()()()()()は軍略においては基本的な戦略ではあるが、基本的ながらも極めて有効であり、多くの場面において重要な選択肢と言える。彼らはそれを、吸血鬼(ヴァンパイア)討伐という文脈で行った。おそらく冷徹なハインリヒの発案であろうが、見事だな。()()()()()()()()くらいだ」


 戦闘家のようないで立ちの、いかにも剣呑そうな雰囲気をしたミスター・グリフォンが、ミスター・ドラゴンの言葉を引き取って続ける。


「途中のォ、《敏捷(ヘイスト)》を()()()()()()()()()()ところも()()()()わァ~……彼ら、割に()()()()()()()も出来そうじゃない。見てて()()()()()なっちゃった。見直したわァ、女を悦ばせることも上手いんじゃない?」


 妖艶なミセス・マーメイドが、紫煙を「フゥ~」と吐き出した後にそう言って、自身の発言に句点(ピリオド)をつけるように「カンッ!」と音高く灰を落とした。


 三人の言葉を聞いていたミズ・フェニックスは「ふん」と鼻を鳴らした。


「彼らはAランク冒険者です。()()()()()やってもらわなければ困ります。われわれ人間、それも『光輝なる人類』である西()()()は、最も(フィレオン)に近い。その人類(われわれ)が、実のところ野獣(けだもの)でしかない吸血鬼(ヴァンパイア)などという魔物(モンスター)()けるなど、()()()()()()()()()()ですからね」


     *


 ミズ・フェニックスの「光輝なる人類」という語に一瞬ビクついたミスター・ベヘモスだったが、しかし賭博者たち四人の態度に、彼は拍子抜けしていた。むしろ鼻白(はなじろ)んでいたと言っていい。


(……なんだ? ()()()()の態度は。今、自分たちの()()()()()()()んだぞ。それなのにこの()()()()()()()は何だ)


 この賭けにおいて、ミスター・ベヘモス――織物商テクストルが勝った場合。五対一の一人勝ちであり、彼はそれまでの賭けの負けを相殺するほどの金額を得ることになる。

 そして他の参加者たちは、それまでの賭けで積み重ねた勝ちの分があるにしろ、痛くないとは言いがたい出費を強いられることとなる。


()()()()()の負けなら()()()()()()()()ということか? それが余裕ぶった態度の正体か。もしくは()()()か。それなら理解できる。あるいはまさか、まさか冒険者たちの戦いを()()()()()()()()()とでもいうのか?)


 ()()()()()、と織物商テクストルは思う。


     *


(……確か()()()は、少し前に「楽しむことが肝要」だとか言っていたな)


 テクストルは、ソファの中ほどに座った若者風の男――ミスター・ペガサスをちらりと見やる。


()()()()()()()()だと? ()()()。多額の金銭が掛かった場面で、勝負ごとを純粋に楽しめる者などいるものか。もしいるとすれば、そいつは()()()()()()()()()()()()()()か、()()()()()()()()()()()()()()だ。そんな心根では、どこぞの山奥の村ならともかく、()()()()()()()()()()で生きていくことは出来ない)


 テクストルの考えはぐるぐると回る。


(俺はいまの地位に登りつめるまで、ありとあらゆる汚い……いや()()ことをやってきた。取引相手どころか同業者も()()()。俺のせいで首を吊った商人どもは数えきれないほどいる。そのおかげで、俺は自分の店を大きくした。ギルド支配者(マスター)にもなった。家族には良い暮らしをさせてやっている。使用人も多い。娘にも習い事をいくつもやらせている)


 賭けに勝ったにもかかわらず、テクストルは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()拳を握りしめた。


()()()()()? ()()()()。俺はいまのいままで自分の楽しみなど放り投げて、馬車馬のように働いてきた。()()()()()()()()()()()んだ。それを、このミスター・ペガサス、どこかのボンボンか貴族の庶子のような雰囲気の男が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「くっ」


 その時、まさにそのミスター・ペガサスが、下を向いたまま含み笑いを発した。


     *


 ミスター・ペガサスは、下を向いたままくっくっくっと笑い続けた。


「な、何がおかしいんです、ミスター・ペガサス」


 思わず問いただすテクストル――ミスター・ベヘモス。

 部屋の中は静まり返る。何か透明で不吉なものが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような、そんな忌まわしさを感じ、ミスター・ベヘモスは怖気を震った。


「くっくっ…… いや、失敬。この状況(シチュエーション)が、あまりにも()()()でね。つい笑ってしまったんだ」

「あ、()()()()()とはいったい何なんだ?」

「なぁ()()()()()()()、じゃなかった、ミスター・ベヘモス」


 ミスター・ペガサスは、さも()()()()()()()()といった風にミスター・ベヘモスを本当の名前で呼んだ。


「テッ、テクストルとは何のことかな。私はそんな名前ではない」

「くっくっくっ、これは失敬。あらためて、ミスター・ベヘモス。俺は言ったよな? ここに集まっている者たちは、多かれ少なかれ()()()()()()()()()()()()()()()()と」


 そう言うと、ミスター・ペガサスはミスター・ベヘモスを見やる。ミズ・フェニックスが、ミスター・ペガサスの言葉に不快感を示す。


「おっと、不本意だという向きもあるみたいだがね。まぁ公平に言い直そうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あ、ああ、覚えている」


 ミスター・ペガサスは、確かに先ほどそんなことを言っていた。賭博者たち(バケモノども)の中でもとりわけ異常な性格破綻者――ミスター・ベヘモスは、この若者風の貴族めいた男に対して、そんな評価を下していた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ミスター・ペガサスの笑い声が低くこだまする。薄暗い部屋の照明がさらに(かげ)り、部屋の温度が下がり、空気が重く湿っていく。


     *


「おほん。皆さん、いいですかな」


 閉め切られた窓際を背に、バカでかい机に着いた醜い男が、わざとらしい咳ばらいをして()()()()()の注意を引きつける。


(来たっ……!!)


 ミスター・ベヘモスはニヤリと笑う。ミスター・ペガサスとのやり取りで冷や汗をかき、なぜか自分が負けたかのような嫌な気分になっていた。しかし、()()()()()()()()()()()――ミスター・ベヘモスは笑みを押さえきれずにいる。


 今回の賭けの内容は、


「この戦いにおいて、桜花騎士団(キルシュリッター)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「死人が出ない」ほうに賭けたのはミスター・ベヘモスただ一人。他の五人は「死人が出る」ほうに賭けた。


 つまり、ミスター・ベヘモスの()()()()


(結果を聞くまでもない。()()()()()()()


     *


 賭けの胴元である、醜く太ったブタのような男が、耳障りな声で結果を告げる。


「今回の賭けの結果は『桜花騎士団(キルシュリッター)は、()()()()()()()()()()()()』。すなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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