表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/80

吸血鬼(ヴァンパイア) その⑥

 隻腕となった吸血鬼(ヴァンパイア)が、ハインリヒを爪で指さす。


     *


()()()()()()()――私の名は()()()()。かつては『人形遣い(パペットマスター)フェムト』と呼ばれたこともあった」


 ハインリヒはにこりともせずに返答する。


「……俺の名前はハインリヒ・グラーベン。冒険者パーティー・桜花騎士団(キルシュリッター)のリーダーをやっている」

「あっは」


 吸血鬼(ヴァンパイア)――人形遣い(パペットマスター)フェムトは愉快そうに笑った。


「おまえが()()ハインリヒか。()()()()()()()()が、知っているぞ。なるほどな、大陸中に名の知れ渡った『天才』とかいう話だが……さすがに一筋縄ではいかない、()()()()()()()()というわけか」


 フェムトは唇の端を奇妙に曲げ、笑みのような形を作り、牙を見せる。ハインリヒは鉄仮面のように無表情のまま、逆手に炎剣を構えて間合いを計る。


「そしてその()()と表情……()()()()()()()()()()というわけだな」

「…………」

「ふん。もうお喋りは終わりか? つまんないわね。もうちょっとつき合ってくれたっていいんじゃない?」


 吸血鬼(ヴァンパイア)が言い終わらぬうちに、ハインリヒが飛び掛かる。

 ()()に持った剣の一撃が首筋を狙う。吸血鬼(ヴァンパイア)は身をかがめて(かわ)し、ハインリヒの左手側を爪で狙う。

 しかしハインリヒは《障壁(バリア)》を展開、爪を防御する。魔力の火花が飛び散る。


 二人は飛びすさり、間合いを開ける。ハインリヒは両手に剣と短杖(ワンド)を構え、フェムトは右手を前に出し、牙を剥き出しに威嚇する。《障壁(バリア)》のために焼けた爪と指が瞬時に再生する。


     *


 ダンッ! と銃声が鳴り、ハインリヒとエルガーに付与魔法(エンチャント)が張り直される。


――バルト!

――()()()()()かと思いましたが、お二人に《防御(シールド)》《敏捷(ヘイスト)》《保護(プロテクション)》を付与しました。余計だったら()()してください。

――いや助かる。こいつには魔法が通じん。補助中心で頼む。

――了解。


念話(テレパシー)》でやり取りをするハインリヒとバルトに、吸血鬼(ヴァンパイア)フェムトが舌打ちをする。


「そういえば、おまえたちはパーティーだったね。まったく、ちょっと面倒――」


 フェムトは言葉を中断し、身を翻して()()()()()()()を回避する。


「――俺を忘れてもらっちゃ困るな、吸血鬼(ヴァンパイア)さんよ」


 間合いを離してエルガーを見やったフェムトの瞳孔が細まり、異様な光を放つ。

 エルガーは思わず怖気を震った。


「……雑魚が。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に後れを取ったことは()()()()()()()()()()()だよ」


 エルガーが言い返そうと口を開いた瞬間、フェムトは瞬時に間合いを詰め、()()を放つ。

 身を(かわ)す暇などあらばこそ、エルガーは()()に蹴りを腹に受ける。吸血鬼(ヴァンパイア)の強力な一撃は当然のように《防御(シールド)》を貫き、魔法陣が砕け魔力の塵と化して飛散する。

 エルガーは跳ね飛ばされ、「魔石鉱山跡」居住区の壁に背中から激突し、正面に倒れる。


「――ッ!」


 エルガーは起き上がろうとするが、痙攣して喀血する。


 ダンッ! と魔銃の銃声が鳴り響き、回復魔法が発動する。


     *


()()()()()。まずハインリヒ、()()()()()()。しぼりカスも残らんほど吸いつくして殺し、魂までも奪いつくして暗黒の彼方に葬り去り、永久(とわ)()()()()()をくれてやる。()()()()()()()()


 フェムトは残忍な笑みを浮かべた。唇の端に牙が光る。

 そして、床にはいつくばるエルガーを指さし、


「おまえはどうするかな。不死鬼(ノスフェラトゥ)にして使()()()()のもいいが、それよりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をな」


 最後にバルトを見やる。


「おまえは()()()()()()な。どうでもいいが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。世界を静かにするためにも()()()()()()()()()()()。そして、」


 フェムトは無造作に足を踏み出す。


 ハインリヒは身構えるが、しかしフェムトはハインリヒにまっすぐ向かわず、地下牢の鉄格子へと脚を進める。

 無造作な仕草で歩いているが、隙が全くない――ハインリヒは剣を打ち込めず、フェムトの動きを見守ることしかできなかった。


(まずいな……腕を一本()()()()()のはいいが、本気にさせてしまった)


「うふふ……」


 フェムトが鉄格子を掴むと、一瞬その姿がぶれる。霧がその姿をぼやかしたように見えた次の瞬間、フェムトは鉄格子の内側、()()()()()()()()()()()


「何を驚いてるの? よく言うでしょう、吸血鬼(ヴァンパイア)蝙蝠(コウモリ)や霧に姿を変えると。その多くは()()()()の勝手な想像に過ぎないけど、中には真実もある。つまり、吸血鬼(ヴァンパイア)にとってこのくらいは()()()


 そして吸血鬼(ヴァンパイア)は舌なめずりをする。


「まぁ、()()()()()()()()()()()()()


 吸血鬼(ヴァンパイア)フェムトは、いまや牢獄の端に集まって震えている盗賊どもの一人に手を伸ばした。


     *


()()()()()()()()()()()()()()


 盗賊たちの中で一番若く、体格の小さい一人を指さし、吸血鬼(ヴァンパイア)が命令した。

 その声は(かげ)りのある恐ろしさを含んでおり、桜花騎士団(キルシュリッター)の三人と牢獄の中の盗賊たち、つまり()()()()()()()()()()の背筋に氷のような寒気が走った。


「い、いやだ……助けてくれ……」

 そう言いながら、若い盗賊は立ち上がり、吸血鬼(ヴァンパイア)に向かって歩き出す。


「いいい、いやだ! なんで、足が勝手に!」

 若い盗賊の男はわめき散らかしながら、震える脚で少しずつ歩く。


「……なるほど、人形遣い(パペットマスター)

 バルトがつぶやく。


 距離が離れているにもかかわらず、吸血鬼(ヴァンパイア)フェムトはその声を聞きつけた。唇の端を歪めて牙を見せる。


「そう、これが私の固有技能(スキル)。おまえたちにはもう見せていたよね、あの不死鬼(ノスフェラトゥ)で」


 坑道で出会った盗賊の男。死の接吻(デス・キッス)で変異した食屍鬼(グール)もとい不死鬼(ノスフェラトゥ)は、吸血鬼(ヴァンパイア)の魔力で直接操られていた。


()()を動かすのは骨が折れるけど、歩かせるくらいなら何の問題もない」


 そして、自分の牙が届くところまで歩かせると、フェムトは男に飛び掛かり、その首筋に牙を突き立てた。


     *


 盗賊の男の絶叫が牢獄内に響き渡る。


 聞いているだけで自分の命までも搾り取られるような、身の毛もよだつ絶叫。

 絶望そのものを絞り出したような断末魔に、ハインリヒは眉をひそめる。エルガーは自身の腹部を《治癒(ヒール)》しながら、床に這いつくばって苦虫を嚙み潰したような顔で吸血鬼(ヴァンパイア)()()()()を見やる。バルトの顔からは、いつもの貼りついたような笑みが消えている。


 若い盗賊は生気を吸い取られ、見る見るやせ細り、干乾びていく。

 正面から首筋に噛みついていた吸血鬼(ヴァンパイア)は、右手で盗賊の男の左腕を掴み、見せびらかすように掲げてみせた。


     *


 数瞬後、絶叫は止み、吸血鬼(ヴァンパイア)は牙を離し、男から離れる。


 左腕を上げた姿勢で奇妙に固まっていた若い盗賊の()()()()()()()()に、吸血鬼(ヴァンパイア)フェムトは右手の爪を振り下ろした。

 盗賊の左腕が斬り飛ばされ、残った体が塵と化して崩れ去る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ