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吸血鬼(ヴァンパイア) その⑤

 ハインリヒの剣と吸血鬼(ヴァンパイア)の爪が、ぶつかり合って魔力の火花を散らす。

 その脇から、エルガーの曲剣が迫る。


     *


 首筋を正確に狙った剣には《火炎(フレイム)》の魔法が付与されている。


 桜花騎士団(キルシュリッター)秘伝の()()()。かつて賢者エーリッヒがメンバー全員に授けた秘儀。一般的な魔法剣の技術は「単なる属性攻撃」にとどまるものだが、エーリッヒのそれは「武器を媒介に魔法を流し込む」という革命的なものだった。

 これにより、魔法の通じない相手、抵抗(レジスト)の大きい魔物(モンスター)の弱点も突くことができる。現代の冒険者は職業(クラス)という概念が薄れており、魔法の術式(コード)の簡素化と魔法使い(マジックユーザー)であることは最早ほとんど必須となっているが、その風潮を加速させたのもこの技術だった。


 そして、エルガーの新しい得物、黒鋼の曲剣には()()()()()()()()が施されていた。


     *


「――くッ!!」


 吸血鬼(ヴァンパイア)は首を狙った一撃を、身を翻して躱そうとする。

 態勢を崩し、ハインリヒの剣との鍔迫り合いに負け、右手の爪が吹き飛ぶ。上半身をねじりながらのけぞると、エルガーの致命の一撃が吸血鬼(ヴァンパイア)の左腕を二の腕の半ばあたりから斬り飛ばした。


(――やった!)


 遠くで見守っていたバルトが、吸血鬼(ヴァンパイア)の腕が飛ぶのを視認する。吸血鬼(ヴァンパイア)はそのままもんどりうって地面に叩きつけられる。血と黒い魔力が散乱し、黒い霧のようになり宙に霧散していく。


 後ろに跳びすさったハインリヒと、剣を振り抜いて着地したエルガーが、吸血鬼(ヴァンパイア)を見やる。黒い()()()のように床にうずくまった吸血鬼(ヴァンパイア)の左腕からは煙が上がり、白い炎が切断面を覆って再生を妨げている。


「グ……ガ……ガガ……!!」


 黒鋼の曲剣に込められていたのは()()()()()()()()。つまり()()()()()()であり、今回のような亡者(アンデッド)の退治や討伐依頼には()()()()()()ということになる。


     *


 数時間前――

 討伐対象のいる「魔石鉱山跡」に向かう馬車の中で、桜花騎士団(キルシュリッター)の三人は話し合っていた。


「――というわけで、この新しい()()には()()()()()()()()が込められているッてわけだ」


 曲剣を宙にかざし、刃の光り具合を確認するように角度を変えるエルガー。


「聖剣……というわけですか」

 馭者席からバルトが訊ねる。


 魔銃という武器はとっさの対応が難しい。魔熊(デスベア)魔狼(デスウルフ)などの魔物(モンスター)が現れた際は、ハインリヒとバルトの手が空いていたほうが対応しやすいだろう。

 そういう理由で、この魔銃士は馭者を買って出ていた。


()()ってほどじゃねェな。あくまで()()()()()()()()だ。()()というのは『勇者の剣』とかを意味する言葉だろ? 欠けもしなければ曲がりもしない、()()も入らず、ドラゴンの炎にも魔王の使う氷の魔法にも決して損なわれない、ゴーレムの硬さにも砕けることがない古代神器(アーティファクト)……まァ、そんなものが実在するとは思えねェが」


 エルガーは曲剣を鞘に戻し、()()()と音を立てて仕舞う。


「《乾坤一擲(ファバンクシュピール)》が()()()のは想定外だったけどな、元々あれは小回りが利かない。狭い場所での戦闘には()()()無理があることは前々からわかってた。そこで、この剣を発注してたってわけさ」

「例の、ドワーフの工廠にか」


 腕組みし、目をつぶっていたハインリヒが、目を開けてエルガーを見て訊ねる。

 エルガーは文字通り首肯した。


「そうだ。あの()()()()()()の、金貨(オーラム)大好きドワーフどもの工廠だな。いつもは非常識な代金を()()()()()()()んだが、《乾坤一擲(ファバンクシュピール)》の残骸を目の前にぶん投げてやったら、さすがに青ざめてたよ。『お前らの鍛えた、神器(アーティファクト)並みの魔法斧の末路がこれだ』ってな。プライドを刺激されたんだろうな、今回は剣の代金を()()()くれたぜ」


 くっくっく、と笑うエルガー。


「あれ? 先輩、《乾坤一擲(ファバンクシュピール)》は()()()()だって言ってませんでしたっけ? ドワーフの工廠が作ったものなんですか?」

「ああ、()()()()()


 バルトの混ぜっ返しに、あっさり認めるエルガー。


「古代の魔神が振るった斧……なんて言えば()()()()くれる奴もいるだろうと思ってな。げんに迷宮踏破大会なんかでは他のパーティーの連中が無駄に警戒してくれたしな」


 そう言って、エルガーはごろりと横になった。


「ま、魔物(モンスター)なんかにゃそんなハッタリは当然通用しねェが。どうせ吸血鬼(ヴァンパイア)にも通用しねェんだから、()()()()()が間に合って助かったぜ」


     *


 ハインリヒは残心しながら吸血鬼(ヴァンパイア)を見やる。


 吸血鬼(ヴァンパイア)は苦しんでいた。唸り声をあげ、うずくまって震えている。切断面は白い炎――神聖系の魔力が再生を妨げている。

 エルガーが剣に込めた《火炎(フレイム)》は、あらかじめ剣に与えられていたフィレオンの祝福と一体化し、聖なる炎となって吸血鬼(ヴァンパイア)の肉体を()き斬った。


 その隙を作ったのはハインリヒの策だ。自分たちを、敵と会話を試みるような()()()()()()に見せかけ、戦う前から手の内を見せる愚策を敢えて行う。

 それも、吸血鬼(ヴァンパイア)に通じるはずもない目くらましを使い、心の隙を作る。


(コルネリウス・イネンフルス……()()()()()()()()。俺は、いや桜花騎士団(われわれ)は力を頼りに正面から敵を叩き潰すことを()()()()()()()()だと思っていた。しかし()は違った。相手の弱点を突き、勝つためなら何でもする。奴の必死な立ち回りを、()()()()()()()()()()()。だが……)


 ハインリヒは剣を振るい、斬り飛ばされた吸血鬼(ヴァンパイア)の左腕に《火球(ファイアボール)》を飛ばす。切断面が白い炎にぶすぶすと焦がされていた腕は、《火球(ファイアボール)》を受けて赤く燃え上がり、急速に炭化していく。


「――!!」


 吸血鬼(ヴァンパイア)がうめく。震えながら、左腕を押さえて立ち上がる。


     *


「……やってくれたね。おまえのその()()()()()()()っぷりは、すべて演技だったわけだ」


 吸血鬼(ヴァンパイア)は震える声で喋る。

 ハインリヒはそれには答えず、炎の魔力をまとわせた片手剣をくるりと持ち直し、逆手に構えた。


「……暗黒の魔力で分身を作り、()()()()()()()()()()()()()()()()けしかける。自分は防御に徹し、最初から爪か牙を受け止めるつもりだった。そこに、分身と同じ暗黒の魔力をまとった()()()が、」


 と言って、吸血鬼(ヴァンパイア)はエルガーを睨む。

 その視線のすさまじさに、エルガーは内心震えあがった。


「――私の首を狙う、と。迂闊(うかつ)だったよ。《隠蔽(ハイディング)》だったか? 闇魔法で身を隠したくらいで吸血鬼(わたし)の目は誤魔化せない。だけど、()()()()を無視していたせいで、《隠蔽(ハイディング)》で身を隠した()()()も無視してしまった」


 吸血鬼(ヴァンパイア)は歪んだ笑みを浮かべた。


「そして、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして左腕から手を離す。白い炎はようやく消え、煙が収まっている。


     *


 吸血鬼(ヴァンパイア)は右手を突き出し、ハインリヒとエルガーに手の甲側を向ける。傷ついた右手が再生し、これ見よがしに爪を伸ばし、手を握ったり開いたりしてみせた。


()()()()()。対価は大きかったけどね。まいったな、吸血鬼(ヴァンパイア)といっても()()()()()()()()()()()()()()んだよ?」


 にっこりと微笑む。ハインリヒは平然としていたが、その()()()()()()()()()()()()()にエルガーは思わず怖気を震った。


「……もう舐めたりはしない。()()()()()()()()()()


 吸血鬼(ヴァンパイア)は腰を落とし、爪を伸ばした右手を前に構えた。

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