表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/76

吸血鬼(ヴァンパイア) その④

 火属性一時付与魔法《蜃気楼(ミラージュ)》――


 かつてコウとハインリヒが、それぞれ別々の機会にオークの重戦士ダイノス相手の決闘で用いた、一時的な分身を生み出す魔法。


 元々は戦場で用いられる、使()()()()()()()を生み出す魔法だ。分身の持続時間は短く、耐久力もほとんどない。

 術式は複雑で、魔力の消耗も大きいが、《蜃気楼(ミラージュ)》のすぐれたところは、対象が装備した武器や防具、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()点。


 だが今はほとんど忘れ去られ、多くの魔法使い(マジックユーザー)から使いどころの見当たらない過去の遺物(レガシー)と目されている。


     *


 ハインリヒが用いたのは、その()()()()

 コルネリウスから《蜃気楼(ミラージュ)》の魔法を教えられ、自身もダイノスとの決闘に用いた後、術式(コード)を流用して暗黒の魔力(マナ)を用いるよう()()した新魔法。


 その名も、闇属性一時付与魔法《神影(シャドウ)》――


 もともと闇属性には《複製(デュプリケート)》という()()()()()()()()()がある。

 暗黒の魔力(マナ)は影を作り出し操るものだ。そのため炎の魔力(マナ)よりも何かを()()する術式(コード)に相性が良い。


 ハインリヒは《蜃気楼(ミラージュ)》の術式(コード)を解析、最適化し、新魔法《神影(シャドウ)》を編み出した。

 両者の最も大きな違いは、《蜃気楼(ミラージュ)》は術者自身が分身をコントロールする必要があるのに対し、《神影(シャドウ)》は分身に大まかな命令を与え、自立させて動かすことができる点だ。

 それにより、術者の負担は大幅に減り、分身の操作と本体の戦闘をたやすく両立させることが可能となった。


 余談だが、ハインリヒは自ら編み出した新魔法《神影(シャドウ)》を冒険者ギルドと魔法協会に届け出た。その術式(コード)は普遍性と再現性が認められ、《神影(シャドウ)》はハインリヒ個人の固有技能(スキル)ではなく()()()()()()()されている。

「闇属性の分身魔法」という、暗黒の魔力(マナ)と相性の良い術式(コード)が今まで無かったほうが不思議だ――

 魔道協会の大魔道士たちは、そのように称賛したという。


      *


 ()()()()()()()()は、まったく同じ動作で短杖(ワンド)を仕舞った。

 そして五人が同調した動きで左手を前に出し、順手に持ち直した右手の剣を上段に構え、大きく脚を広げて半身(はんみ)となり、腰を落とす。


「さぁ、これが俺の()()()だ。覚悟するんだな、()()()


 ハインリヒと分身たちの声が重なる。


     *


 吸血鬼(ヴァンパイア)は不愉快そうに眉をひそめ、目を細める。


(どうも私は、この()()()()()()()のことを見誤っていたようね……)


 ()()()などと煽られたことが気に食わないのではない。そもそも吸血鬼(ヴァンパイア)は年齢という概念を持たない。その悪罵は人間の基準から発せられた、筋違いのものと言わざるを得ない。

 そうではなく、この小さな冒険者の()()()()()()が問題なのだ。


 このパーティーの中でいちばん実力が傑出しているのは、間違いなくいま五人に分身したこの小柄で派手な装いの男。他の二人、黒っぽい装備で身を固めた神官の男と、後ろで補助魔法を撃ってくるおかしな髪型の銃士の男は、小柄な男と比べて少し劣り、実力が拮抗している。

 吸血鬼(ヴァンパイア)である自分を()()しに来るくらいだ。()()()()はおそらくAランクパーティー。三人パーティーでAランクを満たすための条件は、Aランク冒険者が二人、残りはBランク以上。

 つまり、この小柄な男と暗黒神官がAランク、後ろの魔力に乏しい男は……Aランクとは思えない、たぶんBランク。


 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()


(戦いのさ(なか)()()()()()()()……あまつさえ()()()()()()()()()()()()()始末。そして「奥の手」と言いつつ()()()()()()()……)


 やっていることは()()()だ、と吸血鬼(ヴァンパイア)は思う。


()()()()()()()()()討伐依頼を受けるとは……()()()()()()()()()()()()()()()()


     *


 ()()の小柄な冒険者は、剣を構えてじりじりと間合いを詰める。()()たちは自律して動けるようで、吸血鬼(ヴァンパイア)の周囲を取り囲もうとしている。


(しかも()()()()()で私の目を(くら)ましたつもりとは。吸血鬼(ヴァンパイア)と人間の能力の差を分かっていないのか? 心構えが()()()()()()()どころか、基礎的な知識すらも伴っていない)


 吸血鬼(ヴァンパイア)()()()()だけでなく、五感も優れている。その視覚は魔力の性質や状態を()()視認する。

 つまり、吸血鬼(ヴァンパイア)の目にはハインリヒの《神影(シャドウ)》は目くらましになっていない。

 吸血鬼(ヴァンパイア)はハインリヒの本体を普通に見分けていた。のみならず、造られた分身が魔力の込められていない(おとり)に過ぎず、複製の精度こそ高いが文字通りの()()()()であり、()()()()()()()程度の構造しか与えられていないことも。


(おそらく、()()()()はまず分身を打ちかからせ、この私がそれに対応している間に首を取るつもりだろう……)


 だがその目論見は最初から破綻している。


     *


 ハインリヒ()()吸血鬼(ヴァンパイア)を等間隔に取り囲むに至った。


 だが吸血鬼(ヴァンパイア)はそんな状況でもつまらなそうにしている。ハインリヒ()()を注視するわけでもなく、あくびすら出しそうに退屈げな雰囲気だ。


「……ずいぶん余裕そうだが、いいのか? 背後どころか、()()()()()()()ぞ」


 ハインリヒ()()()()吸血鬼(ヴァンパイア)に語りかける。それに直接答えず、吸血鬼(ヴァンパイア)はわざとらしくため息をついた。


「やれやれ、ちょっとは見所のある奴かと思ったんだけど。どうやら買いかぶっていたようね」

「どう見ても貴様が追い詰められているように見えるが? ずいぶん人間を見くびっているようだが、この距離で三重《敏捷(ヘイスト)》つきの()()()()()()()()()()()()()を受けて、いかな吸血鬼(ヴァンパイア)とて無事で済むとは思えんぞ」

「見くびっているのは()()()でしょう。その五人のうち()()()()()()()だし。しかも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………」

「まぁいいわ。来なさい。適当に相手をしたあと()()()()()あげる。あんたたちの誰かを()()()()()()()()()かと思ってたけど、どうやら私に釣り合うような()()じゃないらしいし」


 ハインリヒ()()はそれ以上会話を続けず、剣を構え、わずかな時間差をつけて一斉に飛び掛かった。


     *


 右側から襲い来たるハインリヒの攻撃を吸血鬼(ヴァンパイア)は避けることもなく、むしろ頭を傾けて剣の前に首筋を差し出してみせた。

 剣が首に触れると、果たして分身ごとバラバラに砕ける。分身は黒い魔力の破片と化して即座に霧消していく。


 左からの分身も同様に、吸血鬼(ヴァンパイア)の身体に触れた瞬間に砕ける。そして、三番目に迫り来る正面のハインリヒを吸血鬼(ヴァンパイア)は見やる。


(五体の分身を作り、三番目に()()の攻撃を持ってくるセンスは褒めてやる。この種の戦術において、普通は最初か最後、あるいは最後から二番目くらいに()()を置きたいところだからな)


 吸血鬼(ヴァンパイア)は右手の爪を瞬時に伸ばし、


(だが吸血鬼(わたし)の能力を見誤るようでは食糧(エサ)にもならない!)


 正面の本体の喉笛に向けて突きを繰り出す。正面のハインリヒが剣を繰り出すよりも早く、爪がハインリヒに襲い掛かる。

 だがハインリヒ本体は()()()()()()()()()()


(なッ!?)


 吸血鬼(ヴァンパイア)の動きを予測していたように、あるいは()()()()()()()()()()()()()()()。ハインリヒは自身の短躯に合わせて造られた片手剣を両手で持ち、吸血鬼(ヴァンパイア)の爪を食い止める。

 爪と剣の間に、魔力の火花が散る。四人目と五人目のハインリヒが吸血鬼(ヴァンパイア)に特攻して砕け、魔力の塵と化していく。


 そしてそれに紛れるように、吸血鬼(ヴァンパイア)の左手側から()()()()()()()()()()、黒鋼の曲剣を振るった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ