表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/77

賭博者たち その②

 首都内の()()()の建物にある、とある部屋。


     *


 薄暗い照明の灯された広い部屋の中に、七人の男女が集まっていた。


 壁際に配置された長く大きいソファに六人が座り、反対側の壁に設置された《魔道視板(モニター)》を眺めている。

 七人目は、今は閉め切られている窓の前の()()()()()机で、《魔道視板(モニター)》と六人の様子をうかがいながら何かを操作している。


     *


「珍しいですな、戦いのさ(なか)、あのハインリヒ・グラーベンがこれほどまでに饒舌になるのは」


 ソファの端、窓際の近くの机に近い側に座った、()()()()と太った男が感想を口にする。闇魔法《隠蔽(ハイディング)》により、この男のみならず全員の姿は()()()()なシルエットしか見えない。


「普段から、彼は戦闘中にベラベラ喋るタイプではない。むしろ、魔法や固有技能(スキル)を用いる際に()()()()()()たり、ましてや()()()()()()()などといったようなことを厳しく戒め、()()()()()()()()()()()()()()はずだ。そうでしたな? ミスター・グリフォン」


     *


 ミスター・グリフォンと呼ばれた隣の男――筋肉質で、戦闘に適した革の服を着た、腰に短杖(ワンド)を提げた大柄な人物は、()()()()と太った男の問いかけにうなずく。


左様(さよう)だ、ミスター・ドラゴン。ハインリヒ・グラーベンはまさにそのような心構えで戦闘に臨んでいる。のみならず、一流の冒険者や傭兵、兵士などは皆そうだ。冒険者という存在に憧れ、華麗な魔法や固有技能(スキル)を使うことに陶酔するだけの者は、当然その隙を突かれる。要は()()()()()()()()()()()()()()()ということだ」


 重々しくうなずくミスター・グリフォン。ミスター・ドラゴンと呼ばれた()()()()とした男は、「そうでしょう、そうでしょう」と満足げに体を揺らして笑った。


     *


「し、しかし、それならどうしてハインリヒは今回に限って饒舌なんだ。吸血鬼(ヴァンパイア)という強敵を相手に、戦いのさ(なか)に喋るなどという()()()()()を取るのは、いったい何故なんだ?」


 ミスター・ドラゴンとは反対側の端に座っていた貧相な人影が腰を浮かせ、浮足立って問いかけた。


「あ、あの吸血鬼(ヴァンパイア)は明らかに今までの敵とは違う! ハインリヒとエルガー、それにバルトは初手で全力で攻撃を行った。しかし彼らの魔法はすべて弾き返されてしまった! それなのに悠長に喋っていてもいいのか!?」


     *


「それはァ、むしろ()()()()()()()ですよぉ、ミスター・ベヘモス」


 ソファの中ほどに、長い脚を組んで優雅に腰かけた妖艶な雰囲気の女が、絡みつくような声で応え、煙管(キセル)を吸って紫煙を吐き出す。


「フゥ~~~…… あの吸血鬼(ヴァンパイア)は強い。ハインリヒが放ったのは《極大火球(ギガファイアボール)》、エルガーのは《地獄火球(ヘルファイアボール)》。どちらも上級魔法。そしてバルトの魔弾は、《業火(インフェルノ)》とォ……あとよくわかんないけど、神聖系の何か……対亡者(アンデッド)用魔法でしょうね」


 女は、桜花騎士団(キルシュリッター)が行使した魔法の種類を正確に当ててみせた。


「それらすべてを抵抗(レジスト)で無効化するなんてのは、並の魔物(モンスター)じゃありませんのよォ……」


 そう言って、妖艶な女は足を組み替える。


「そしてあの魔物(モンスター)には言葉が通ずる……つまり、ハインリヒは()()()()()()()()()()()ということ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()などといったような()()()()()()()とは質が違う」


 カンッ! と音を立てて、女は煙管(キセル)の灰を灰皿に落とす。その甲高い音に、ミスター・ベヘモスと呼ばれた男は()()()と震える。


「おそらくハインリヒは、あの吸血鬼(ヴァンパイア)()()させようとしている。自分たちが()()()()()()()()()()である、そう思わせて、()()()()()()()。そういった心積もりなのよォ」

「し、しかしミセス・マーメイド、」


 ミスター・ベヘモスが、妖艶な女――ミセス・マーメイドになおも言い募ろうとした時、「おおっ」という声があがる。


 全員の視線が《魔道視板(モニター)》に集中する。


     *


 《魔道視板(モニター)》の中では、桜花騎士団(キルシュリッター)の三人が膠着を破り、攻撃に転じていた。


 ハインリヒとエルガーは()()に魔法を付与し、剣で斬りかかる。バルトは後方から魔銃による補助魔法で二人の身体能力を強化しているようだ。


 桜花騎士団(キルシュリッター)の得意とする魔法剣――物理的な打撃とともに属性魔法を叩きこみ、敵の弱点を直接突くことのできる一撃必殺の技。かつてパーティーに在籍していた老賢者、エーリッヒ・ムーアが直々に伝授したものだ。

 雑魚の掃討にこそ向いてないが、まさに今回の吸血鬼(ヴァンパイア)のような単独の相手に対しては絶大な効果を発揮する。


 ……はずだったが、桜花騎士団(キルシュリッター)は思いのほか苦戦していた。


     *


「……通じていませんな」

 ()()()()と太った男――ミスター・ドラゴンが、ぽつりとつぶやく。


「あの吸血鬼(ヴァンパイア)、予想以上の強敵だな。いかに『猛毒のエーリッヒ』直伝の()()()といえども、当たらなければ何の効果もない」


 ソファの真ん中あたりに座った若そうな雰囲気の男が、肘を膝についた姿勢で《魔道視板(モニター)》を睨みつけながら言う。


吸血鬼(ヴァンパイア)特有の身体能力と、あの外套(マント)――どんな技術か知らないが、魔法も通さなければ剣で斬ることも難しい。致命の一撃はすべて(かわ)し、()()()()()()()()外套(マント)で吸収している。戦い慣れている」


 男は下を向いてくっくっく、と笑う。


「……面白いな。ここに来て、桜花騎士団(キルシュリッター)もとうとう()()()()()()かもなァ。なにしろ今までが強すぎた。『魔眼のコルネリウス』が抜けてからこっち、彼らの苦戦する様子が()()()()()()見えてきていたが、ようやく()()()()()()()()になってきたじゃないか」

「で、ではミスター・ペガサス、あなたは桜花騎士団(キルシュリッター)()()()()と、そう言いたいのか」


 ミスター・ペガサスと呼ばれた若い雰囲気の男は、ふんと鼻息を鳴らし、ソファに()()()()と座り直す。


「どうだろうな……そこまでは言えない。なにしろ桜花騎士団(キルシュリッター)は……いや()()()()()()強い。()()()で判断してるのかなァ、どうもみんな彼の実力を素直に認めたがらないがね。何しろ()()()()()()()()()()()()()くらいだ。ギルドの規定上、条件を満たしていなかったようだが、彼は()()()()()()()()()だよ」

「では、あなたは桜花騎士団(キルシュリッター)が勝つと……」

「そうも言っていない。なァ、ミスター・ベヘモス。勝つとか負けるとかいいじゃないか、どっちでも。()()()()()()()()()があるだろう?」

「そ、それより大事なこと……」

「そうだ、()()()()()だ」


 ミスター・ペガサスは文字通り首肯した。もし、闇魔法《隠蔽(ハイディング)》がかかっていなければ、彼の笑顔のあまりの()()()()()に、ミスター・ベヘモスは震えあがっていたことだろう。


「そうだ。我々――というのは、あんたを除いたこの部屋の中の面々はということだがね、我々は皆、多かれ少なかれ、()()()()()()()()()()()()()()()なのさ」


 くっくっく、と笑うミスター・ペガサス。


「確かに我々は桜花騎士団(キルシュリッター)に出資し、同時にこの冒険者賭博の会を開いている。冒険者たちの戦いなんて、滅多に見れるもんじゃないからね。その意味では桜花騎士団(キルシュリッター)のことは応援している。だが、同時に冒険者たちが無惨にも殺される場面も観たいと望んでいる」

「それは、さすがに()()()()()ではなくて?」


 ミスター・ベヘモスの隣にいる、凛とした雰囲気の、中年手前くらいの女の影が、呆れたような口調で窘める。


「まァ、あんたはそう言うだろうけどな、ミズ・フェニックス」


 そう返して、ミスター・ペガサスはまたも下を向いて笑う。


     *


 バケモノどもめ、とミスター・ベヘモスは内心で毒づいた。


 ()()()()()()()()()()()()だと――


 ()()()()()()()()、とミスター・ベヘモスは思う。

 彼はこの()()()()()()に、自身の財産を持ち込んで賭けをしに来たのだ。それも、賭け事を楽しむためなどという()()()()()のために来たのではない。


 勝つために来たのだ。勝って財産を増やすため。


 そしてその財産で、並み居る貴族連中や王族の方々、教会の腐敗した上層部連中などに取り入り、商売敵たちと差をつける。

 ゆくゆくは貴族の地位を金で買い、自分自身が……それが叶わぬなら一族や子孫が、王宮の奥深くまで入り込んで権力の座に就く。それが彼――ミスター・ベヘモス()()()()()()()()()()の夢だった。


 最初はうまく行っていた。ミスター・ベヘモスは勝ちを重ね、資産を少しずつ増やしていった。

 だが、途中から流れが変わった。あの「魔眼のコルネリウス」がパーティーを追放されてから、ミスター・ベヘモスは負けが込んでいき、最初の勝ちをすべて失い、資産は目減りし、ついには底が尽きかけている。


 ()()()()()()()()()()()()()――


 ミスター・ベヘモスは今回の賭けに残りの資産をすべてつぎ込むつもりだった。


     *


 その時、《魔道視板(モニター)》が暗転し、映像が途切れる。


「さて、盛り上がっていらっしゃるところ恐縮ですが、今回の()()()()()を発表したいと思います」


 今は閉め切られている窓際の机についた醜く太った男が、ねばりつくような不快な声色で言う。

 来た、とミスター・ベヘモスは思った。()()()()()()


「今回の内容は――」


 醜く太った男の影が、賭けの内容を朗々と読み上げる。

 部屋の中の全員が、その言葉に耳を傾ける。


「この戦いにおいて、桜花騎士団(キルシュリッター)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ