食屍鬼(グール) その②
魔銃士バルトの撃った魔弾《太陽光》が廃鉱山内を照らす。
一瞬遅れて、悲鳴のような短い叫び声があがり、何者かが坑道の奥に走り去る音が聞こえた。
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神聖系魔法《太陽光》――
その光は文字通り「太陽の光」を再現したものだ。太陽光そのものではないが、同じ性質の十分の一のほど浄化力はあると言われている。
魔銃による魔導書の発動は、使用者の属性や相性にかかわらずどんな魔法も行使できるのが利点だが、詠唱や儀式などと比べてどうしても限界がある。状況に合わせた調節が難しく、最大出力も本来の八割程度にとどまる。
いきおい、魔銃は「敵の弱点を突く」という使用法となる。そんな時、吸血鬼の弱点とは何か――
(どうやら、予想は当たったようですね……)
バルトは坑道の奥をちらりと見やり、振り返って食屍鬼の巨体を見上げる。
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《太陽光》の光が照らす中、食屍鬼はその動きを止めていた。
――大将ッ!!
エルガーはハインリヒに《念話》を飛ばす。食屍鬼の拳を受け、《浮遊》の効果で浮いたまま宙に漂っていたハインリヒは、空中でくるりと身を翻し、坑道の天井に逆さに着地する。
――なんか今、動きが鈍ったぜ、こいつ。
――ああ、チャンスかもしれんな。
天井で逆さになったまま、自らの短躯に合わせた特注の片手剣を抜くハインリヒ。そして逆手に持ち替える。
エルガーも黒鋼の曲剣を抜き、側頭部のあたりで地面に水平に構えた。
――行くぞ、合わせろ!
――応ッ!!
空中と地上から、桜花騎士団の二人は同時に飛び掛かる。
同時に「ダンッ!」という魔銃の銃声が響く。
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バルトは魔弾《束縛》を三発込めて射撃した。反動で後ろに吹き飛ばされる。
射出された黒い魔力が鎖となり、食屍鬼に遅いかかる。《束縛》は食屍鬼の両手足と胴体に着弾、縛りあげ、そのままの姿勢に固定する。
(魔法が効いている!!)
ハインリヒは咄嗟に左手を前に出し《火球》を放つ。火の玉が顔面に炸裂し、煙が上がる。食屍鬼の咆哮が坑道内に響く。
素手による魔法の行使は、短杖など触媒を用いたものに比べて、一般的な魔道士が行う場合はかなり効果が限定される。だが、今回はそれで充分――
――エルガー!!
ハインリヒは《雲踏》で空中を踏んで方向転換。リーダーの意図を察し、エルガーは《雲踏》を使用して跳び上がる。
エルガーは食屍鬼と交錯し、黒鋼の曲剣が横一文字に薙ぎ払われた。
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食屍鬼の首が胴体から離れ、黒い魔力と瘴気をまき散らしながら回転し、床に転がる。
胴体は《束縛》に拘束されたままの姿勢で痙攣し、切断面から瘴気を噴出させる。
ハインリヒは《浮遊》を解除し着地、一瞬後にエルガーも地に降り立つ。
食屍鬼は瘴気を噴出させながら縮んでいき、やがて人間のサイズまで戻る。
皮膚の色も、土のようにくすんだ緑色から人間の体色に戻っていく。
やがて、食屍鬼は元の盗賊の男の肉体に戻った。《束縛》が解除され、両腕がだらんと垂れ下がり、首を失った胴体は前のめりにどうと倒れる。
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「こいつは……」
桜花騎士団の三人は、元に戻った食屍鬼を見下ろした。
「ただの食屍鬼ではなかったな。吸血鬼の固有技能、《死の接吻》を受けて魔物に変異した。それはいいが妙に強力な奴だった」
食屍鬼の打撃を受けた自身の傷を《治癒》しながらハインリヒがつぶやく。
「おそらく吸血鬼が魔力で直接操っていたんでしょう。最後に動きが鈍り、抵抗が弱まったのもそのためです」
「……さっきのお前の《太陽光》か?」
エルガーの問いに、バルトがうなずく。
「ええ。坑道の奥に撃ち込みましたが、ちょうどそこにいてくれたようで助かりました。奴が遠隔操作などが出来るタイプだったら、我々は助からなかったでしょうね。そこまでの使い手ではないようです」
ハインリヒは、遠くに転がっていた頭を拾ってきて放り投げ、胴体の近くに転がした。
当然だが、先ほどの盗賊の男だった。呆然としたような表情の頭部が、切り離された胴体と寄り添う。
おそらく、自分に何が起こったかわからぬまま死んでいったのだろう。
「一応、焼いておきますか? 万が一にも復活して後ろから襲い掛かられてもいけませんし」
「そうだな。首無騎士なんかに転生されたらたまったもんじゃねェぜ」
ケッケッケ、とエルガーが笑う。二人はかすかに唇の端を歪めた。
ハインリヒは短杖を抜き、顔の前で垂直に立てる。《火炎》を唱え、短杖を盗賊の男の死体へ向ける。
哀れな男の死体を魔法の炎が包み、焼き尽くしていく。
*
「先を急ぐぞ。次は何が出てきても首を切り離して燃やす」
焚火のように燃える死体をそのままにし、三人は廃鉱山の奥へと進む。




