表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/76

それぞれの思惑

 エルガーとバルトが大衆酒場で飲んでいるところから数時間遡る――


     *


「……じゃ、一旦そういうことでよろしく頼む。詳しい日程は、後でまた調整する」

「わかりました」

了解(りょーかい)


 尖塔高く(そび)えるフィレオン大教会の隣、併設されたフィレオン慈悲病院の前に(たむろ)していた桜花騎士団(キルシュリッター)の三人は、アンナの状態と次の依頼について情報を共有し、その後、解散して自由行動となった。


     *


「一つ用事を思い出した」


 そう言って教会に入っていくハインリヒを見送り、エルガーはため息をつき、両腕を上げて一つ()()をする。


「……やれやれ、次は吸血鬼(ヴァンパイア)の討伐か」

「強敵ですね。Aランクのお二人はともかく、Bランクである僕には荷が重そうです」

「…………」

「今回は、お二人のサポートに回らせていただくことになりそうですね」

「よく言うぜ」


 (はす)に構えたエルガーは、糸目銀髪の長身の銃士を見やる。


「お(めー)が本当にBランク相当だなんて、大将(ハインリヒ)も俺も思っちゃいねェよ。『サポートに回らせていただく』だと? お(めー)()()()()()()()()()()()()()()()だろうが」


 エルガーは、外套に隠されたバルトの懐を正確に指さした。

 まさにその位置に、「首都の規定に書いていないから」という理由でバルトが()()()()携行している()()があった。刷毛で引いたような細い目がわずかに見開かれる。


「……確かに。()()()()()()()()()()()()

「ケッ」


 地面の上の何かを蹴るような仕草をし、エルガーは再度バルトを()めつける。


「それにお(めー)()()は、使用する銃士――つまりお(めー)自身の魔力特性や属性、信仰に関わらず、()()()()()()行使できる。弾丸に仕込む魔導書(スクロール)さえ用意できりゃあな」

「…………よくご存知で」

「ふん」


 エルガーは鼻で息を鳴らすのではなく「ふん」と言った。


「つまりだ、お(めー)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことだ」

 エルガーはバルトにくるりと背を向けた。


「だからよ! 俺たちのほうがお(めー)に期待してるってことだぜ、()()()な。だからこそ大将(ハインリヒ)吸血鬼(ヴァンパイア)の討伐なんて依頼を持ってきたんだろうがよ」


 期待してるぜ。

 そう言葉を投げ、後ろ姿のまま手を挙げてエルガーは歩き出した。


 ただでさえ細い目を細めてそれを見送った後、バルトは病院前で一人、しばし佇んでいたが、程なくしてエルガーとは別の方向へ歩み去った。


     *


 その少し後――


 フィレオン大教会とは王城を挟んで反対側の管区(ディストリクト)に位置する市庁舎(ギルドホール)

 様々な職能の者たちがひっきりなしに出入りする、石造り三階建ての堅牢な建物。


 その二階の()()()()()にハインリヒはいた。祈りのために設けられた場所ではない。広い首都内で、教会組織とギルドや騎士団など他の組織との連携を滞りなく行うため、事務的な手続きを司る出張所だ。


     *


「……以上だ。くれぐれも、()()()()()()()()()()()()()()()、大修道士様ならびに教皇猊下をはじめとした教会の枢機卿のお歴々および司教の方々には、大教会の名誉に恥じぬ()()()()()()を是非ともお願いしたい」


 硬い声で、断乎とした有無を言わさぬ口調で言い切ると、ハインリヒは深くお辞儀をした。


 そして身を起こし、目の前の人物を見下ろす。

 普段から表情の変化のないハインリヒの顔は、いつにも増して鉄の仮面のようであり、その目には何人も揺るがすことの出来ない鋼の意志が宿っていた。


 ハインリヒの眼前、豪華で頑丈そうな机の向こうには、中年に差し掛かったばかりくらいの女性が座っている。()()()()髪にした頭と、銀縁の眼鏡。口元にあるわずかな皴と瘦せこけた頬が年齢を感じさせる。鋭利な刃物を思わせる眼光。


「聖女」ユスティエラ・ル・フィレオン――


 揺るがぬ信仰を称賛され、教会から「フィレオン」の姓を贈られた、国内の修道院を束ねる大修道士だ。

 ()()()として隙の無い修道士服。胸元には、修道院の長を示す刺繍が金糸で入れられており、服の縁にも金糸が彩られている。室内であるせいか、修道帽は脇のサイドテーブルに置かれていた。


 椅子にやや斜めに腰かけた聖女は、机に片肘を置き頬杖をつき、もう片方の手で羽ペンを持った姿勢で、眼前の天才魔道士・ハインリヒ・グラーベンの眼光を正面から受け止め、微動だにしない。もしこの場にエルフやドワーフ、あるいは感覚の鋭い獣人族がいたら、二人の体から猛烈なオーラが噴出し、ちょうど中央でぶつかり合って渦を巻くのが見えただろう。

 数瞬の後、聖女はため息をつき身を起こし、椅子に座り直した。


「あなたの歎願は確かに受け取りました、冒険者ハインリヒ・グラーベン。いや、()()()()()()だったかしら」

「どちらでもいい。これは俺の意志であり、同時に桜花騎士団(キルシュリッター)全員の意志でもある」

「…………」


 聖女はハインリヒの顔を見る。小柄なこの男が大きく見えるのは、聖女が椅子に座っているという位置関係だけではあるまい。


「いいでしょう。教会内で調査をし、その際は()()()に深く申しつけておきます。安心して、()()()()()()()()()()()()、ハインリヒ・グラーベン」

「寛大なるご配慮、誠に嬉しく思う。心より感謝申し上げる」

「父なるフィレオンのご慈悲がありますように」


 再度深くお辞儀をし、ハインリヒはその後、聖女と視線を合わせることなく()()()と背を向け、仰々しい扉に向かって歩き出す。


 ハインリヒが退出し、扉が重々しく閉まった後、聖女は深く息を吐き出した。そして自分の両(てのひら)を見下ろす。


     *


 教会事務所の扉が開き、小柄な冒険者が歩み出てくる。


 織物商テクストルは、ハインリヒの発するオーラに無意識に気圧され、息を呑んで二、三歩後ずさった。ハインリヒはそれを目線だけで確認し、歩みを止めず早足に立ち去る。


(あ、あれはハインリヒ・グラーベン……)


 テクストルは()()()と唾を呑み込み、唇の端が自然に笑みを作る。幼い頃から憧れだった冒険者の、しかもAランクパーティーのリーダーで、「天才」と称され大陸中に名を轟かせる魔道士の放つ、()()()()

 だが、そんな軽薄な喜びに浸っている場合ではない。ハインリヒの姿が見えなくなるのを待ってから、テクストルは教会事務所の仰々しい扉をノックする。


     *


(あれが桜花騎士団(キルシュリッター)を率いるAランク冒険者、「天才魔道士」ハインリヒ・グラーベンか……)


 聖女は自分の掌を見下ろしたまま、忌々(いまいま)しげに眉を(ひそ)めた。炯々(けいけい)とした眼光がさらに鋭くなる。


(……冒険者などという()()()()()()首領(ボス)の一人に過ぎず、あまつさえ()()()()()()()()()()を仲間にする不心得者と思っていましたが、ずいぶんな()()の持ち主ですね。()()()()()()()()()()退()()()()()


 忌々しげに手を拭き、屑籠にハンカチを投げ捨てる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()ということでしょうか。いずれにしても、我々は()()()()()()()()()()必要がありそうです)


 それと同時に、扉がノックされた。


     *


「どうぞ」

 聖女が入室を許可すると、


「し、失礼します」

 織物商テクストルが入ってくる。


 中肉中背で貧相な体格、年相応に腹が出ており髪も薄くなっている、いかにも()()()()()()()()()()()男だ。これでも織物ギルドをまとめる中心人物(ギルドマスター)であり、平民でありながら貴族特権を享受する富豪である。

 テクストルの姿を見て、聖女はわずかに笑った。


「どうしましたか、テクストルさん。我がフィレオン教会への寄進ならば、喜んで祝福を差し上げましょう」

「そ、そんなことを言っている場合ではない」


 織物商テクストルは、()()()()な態度でバカでかい机につかつかと歩み寄った。そして、いま自分が入ってきた威圧的な扉を指さす。


「さっき出て行ったのは桜花騎士団(キルシュリッター)のリーダー、ハインリヒ・グラーベンだ。そうだろう」

「そうです、よくご存知ですね。あなたも()()()()()()がお好きなのですか?」

「とぼけるのはやめていただきたいッ!」


 テクストルは、音を立てて両手を机についた。そこそこ大きな音が鳴り、聖女はわずかばかり顔をしかめる。


「あの男は、あなたに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。そうでしょう? ()()()()()()()()

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ