デスドラゴン その⑥
アイリスとダイノス、カンナの猛攻によって、ドラゴンがひるみ、一瞬の隙が生まれる。
その瞬間、コウが動く。
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コウは補助魔法《防御》を四重に展開した。
そして自身の靴裏と地面の接触面に、それぞれ《反射》を付与した。地面を蹴り、双方の《反射》の障壁同士を接触させ、魔力爆発を引き起こす。
ダイノスとの決闘時にも利用した、《反射》同士による魔力爆発。あの時はダイノスの蹴りの一撃を無力化するために利用したが、今度はもっと積極的な理由だ。
靴裏と地面との間で魔力爆発が起こり、コウの足元の岩肌の床が爆裂する。そしてコウは前方――つまりドラゴンに向かって押し出された。
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弾丸のように飛び出したコウは、一直線にドラゴンの懐へと飛び込んだ。
そして床を蹴り、ドラゴンの胸部と腹部の間、人間で言うみぞおちのあたりにある逆鱗目がけ、短杖から伸びた《幻剣》を一気に突き上げる。
――!!
アイリスとダイノス、カンナの三人が息を呑む。
コウの突き上げた光の刃はドラゴンの逆鱗の下、竜族共通の弱点とされる部分を過たず刺し貫いた。光の奔流と黒い魔力が渦となってあふれ出す。
ドラゴンは咆哮し、苦痛に身をよじるように首を上げて左右に振った。
――コウ君!!
――や、やった!!
――やりましたよリーダー、アイリスさん!
だが、誰が見ただろうか、ドラゴンは口の端を笑みのように歪めている。次の瞬間、粘性の瘴気をまき散らしながら幾本もの闇色の触手がドラゴンの影から勢いよく生え、コウの身体に絡みつく。
――ッ!!
コウはドラゴンのみぞおちに刺さった短杖から手を離し、両手で触手を掴む。四重の《防御》が反応し魔法円が回転、魔力の塵をまき散らしながら崩壊する。コウはその都度、新しく《防御》を展開して抵抗する。
ドラゴンの体の下で、触手とコウの引っ張り合いが続く。さらに数本の触手が影から生え、コウに絡みつく。
――コウ君!!
触手でほとんど姿が見えなくなったコウは、そのままドラゴンの影の中へ引きずり込まれた。
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コウは上下も左右も前後も判別のつかない、光差さぬ暗黒の中を落ちていった。
体の周りで《防御》の魔力が反応している。《防御》が効いているせいか、それともコウ自身の高い魔法抵抗力のおかげか、体に絡みついた触手は、グノンやジェンナにやったようには生命力を吸い取ることが出来ないようだ。
周囲には無数の触手が蠢いていた。空間の広さや深さはわからないが、その暗黒空間は胃袋のように伸び縮みし、歪みねじれ、呼吸するように膨らんだり萎んだりしている。
――やはりな。この空間そのものが闇の生命体、つまりはこいつの本体。上のドラゴンは現界に垂らした疑似餌のようなもので、ここはいわば腹の中だ。
コウの身体に、さらに次々と闇色の触手が襲い掛かり、巻き付き、もう身体も見えないほどだ。だが、触手たちはコウを絞め殺すことができずにいる。
――つまりは……こいつの弱点でもあるッ!!
業を煮やしたように、空間そのものが圧縮し、コウを押しつぶしにかかる。
それと同時に、腰に佩いたアンティークの片手剣の鍔に嵌った宝石が青く輝き、コウの身体から光を発する。
聖なる光が触手を焼き、跳ね散らかし、コウの身体を自由にした。片手剣はかちりという音とともに鞘から外れ、飛び出す。
暗黒の空間の中で、コウはそれを過たず掴み取った。
「うおおおおおおッ!!」
コウは叫び声をあげた。そして剣を振るう。
自分が上を向いているのか下を向いているのかわからぬ中、コウは周囲の悪しき空間を滅茶苦茶に斬りまくった。前後左右、上下の区別なく、襲い来る暗黒の触手を切り払い、薙ぎ払う。押しつぶさんとする暗黒の壁を刺し貫き、抉り斬る。
悲鳴のような、断末魔のような、絶叫めいた意識の叫びが、コウの魔力回路に直接伝わってくる。
斬り裂かれた触手や壁が魔力へと還元していく。コウの周囲は圧迫感が無くなり、次第に広く感じられるようになる。
そして、暗黒の彼方に何かが脈動しているのをコウは感じた。
――そこか!!
身を翻すと、《雲踏》を用いて宙を踏み、脈動する何かへと一直線に跳ぶ。
そして、ひときわ大きく渦巻き、蠢き、拍動する、暗黒の魔力で出来た構造物の中心に、コウは光を放つ片手剣を真っ直ぐに突き入れた。
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コウが影に引きずり込まれた直後、ドラゴンは苦悶の表情を浮かべ、悲痛な叫び声をあげて首を左右に振り、足を踏み鳴らして身悶えした。
やがてドラゴンは宙に首をもたげたまま、石化したように動きを止めた。
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三人が固唾を呑んで見守る中、やがてドラゴンの体表の輝きは急速に失われ、鱗が鈍く色褪せていく。
そして体表にいくつものひびが入り、暗黒の魔力があふれ出し、一本、二本と白い光が噴出してくる。
次の瞬間、ドラゴンは爆発四散した。黒き竜の体は無数の破片と化して忌まわしき暴風とともに飛び散り、魔力に還元され消滅していく。
アイリスとダイノス、カンナは、腕で顔をかばって後ずさる。
*
爆発が止んだ後。
ドラゴンのいた場所は円形に煙が立ち、その内側は黒く焼け焦げたように岩肌の床が変色している。
その中央に、青白く輝く剣を持ったコウが立ち尽くしていた。




