デスドラゴン その⑤
――遅くなってごめんね。
大剣をドラゴンに突きつけ、アイリスは《念話》で二人――ダイノスとカンナと交信する。
*
――闇の住人たちを倒してくれるとは思わなかった。私も噂に聞くだけでしか知らないけど、あいつらはAランクの魔物。並の冒険者じゃ太刀打ちできないよ。
――奴らが俺たちの仲間を依代にしたのが幸いだった。手の内やクセをすべて知っていたからこそ、俺たちでもなんとか退けることができた。
そう言ったあと、ダイノスの眉間に皺が寄り、歯が噛みしめられる。
――……大丈夫? ではないよね、ごめん。
――いや構わん。言っても冒険者にはありがちなことだしな。それより目の前の脅威に集中することだ。悲しむのは後からいくらでも出来る。
――カンナちゃんは?
――私もなんとか戦えます。というより、
カンナは目の前のドラゴンを険しい目つきで見上げた。
――あのトカゲを二人と同じ場所に送ってやらないと気が済まないわ。
――うん。いいね。
アイリスはそのトカゲを見上げる。《爆発》を込めた投げナイフの煙が晴れ、邪悪な表情の顔が露わになる。予想通りだったが、少しも効いていない。
先ほど切りつけた前足も、爪のあたりから煙があがっているだけで、大した傷は与えられていないようだ。
――本気で斬り込んだんだけどね。自信無くすなぁ。
アイリスはちらりと大剣を見た。アイリスの身長ほどもある無骨なつくりの剣は、一見ドラゴンの鱗すら斬れそうに見える。だが実際にはどうだ。刃こぼれこそしなかったものの、ドラゴンには一切ダメージが通っていない。
(こいつの鱗がとくべつ硬い可能性もあるけどね……)
――ともあれ、これで三対一になったわけだよね。
――そうだ、それよりコウ殿は。
ダイノスが問う。
――コウ君は別の方向から攻める。私たちはそのために、ドラゴンの注意を分散させる。
――策があるのだな。
――もちろん。
アイリスは圧縮した情報で作戦案を二人に伝えた。
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この間、数秒。《念話》で情報を作戦を共有し、冒険者たちは行動に移す。
ドラゴンが顎を開き、黒い炎を吐き出す。三人はそれをローリングで回避、めいめいが別々の方向へ飛ぶ。
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アイリスの渾身の一撃を、振り向きもせずに爪で受け止めた黒き竜。
それをコウは離れた場所から観察していた。
――やはりあのドラゴン、目や耳に頼っている様子はない。奴はおそらく闇の生物であり、魔界を棲家とするもの。ならば奴が視覚や嗅覚で周囲を把握していないのも理解できる。
アンティークな片手剣を岩肌の地面に突き立て、片膝をついた姿勢でドラゴンを分析する。
――奴はおそらく、我々がこの洞穴へ足を踏み入れた時から、いや、ひょっとすればそのずっと手前から我々のことを把握していた。知能は極めて高く、狡猾で邪悪な性質……冒険者の死体を闇の住人と化して仲間同士戦わせ、それを見物して楽しむほどに。
コウは剣を鞘に仕舞った。ぱちん、と音がして魔力の火花が飛ぶ。
――ならば当然、この僕のたくらみも把握されていてもおかしくない。だが……
そして腰の短杖を抜き、付与魔法を唱える。短杖の輪郭が発光し、光が伸びて魔力が剣身を形成する。光属性魔法《幻剣》。
魔力の刃は小ぶりの片手剣ほどの長さまで伸展し、コウはそこに《浄化》と《除霊》も付与する。
――これならあの鱗をかいくぐって一撃を与えることができる。そして……
その時、ドラゴンがブレスを吐き、アイリスとダイノス、カンナの三人はそれぞれ別方向に回避した。
*
大剣を引きずって床を転がったアイリスは、そのまま身を翻し、一回転して慣性を乗せた一撃をドラゴンの前足に叩き込む。
巨躯を舞わせて宙に跳び上がったダイノスは、空中で戦鎚を振りかぶり、《破壊大王》を起動させてドラゴンの脳天めがけて振り下ろす。
アイリスの反対側に回ったカンナは、風属性攻撃魔法《風刃》を展開、合計四十枚もの刃をドラゴンに飛ばす。
アイリスの斬撃は跳ね返されて黒い魔力の火花が散る。
ダイノスの打撃は丸っこい形の頭蓋骨を直撃するも、逆にダイノスのほうがはじき返される。
カンナの《風刃》はドラゴンの鱗の前に全弾砕け散り、緑色の破片となって塵のように魔力へと還元していく。
――硬すぎる!!
アイリスは胸のベルトから二本の投げナイフを抜き、ドラゴンの顔面に投擲。
ドラゴンはそれに黒い炎を吐き、直前で爆発させる。
空中で《雲踏》を使用し、姿勢を制御して着地していたダイノスが、ドラゴンの前足めがけて《破壊大王》を思い切り叩きつける。
前足の指を打ちつけた魔法鎚はやはり跳ね返されたが、ドラゴンは前足を引っ込め、苦痛の咆哮をあげて身を起こす。
そこにカンナの《極大火球》が迫る。暗黒の力を込めて全てを灼き切る《地獄火球》と比べると破壊力に劣るが、単純に熱エネルギーとしての火力はジェンナの必殺魔法に匹敵する。
本来、カンナは火属性の魔法を使うほうではなかった。だが《火球》の技術はジェンナから直伝されていた。
(お前が愚弄したジェンナの魔法を、せめて一発は浴びなさい!!)
カンナの思いが乗った巨大な火球はドラゴンの顔面に直撃した。ドラゴンはさすがに少しよろけ、身をよじらせる。
*
三人がドラゴンに隙をつくり、身を起させた。
その瞬間、コウが動いた。




