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グノンとジェンナ その③

 ダイノスが振り抜いた魔法鎚《破壊大王(ツェアシュテーレン)》は、グノンの頭から胸にかけてを文字通り木っ端みじんに粉砕した。


     *


 粉砕されたグノンの頭部と胸部は、暗黒の塵と化して魔力に還元していく。二本の腕はそれぞれ別の方向に飛び、空中で崩壊し、やはり塵と化していく。

 ()()の下半身――腹部と脚部がダイノスの前に着地し、膝をつく。胴体の断面からは黒紫色の瘴気が煙になって立ち昇る。一瞬の後、グノンの下半身は倒れ、その衝撃で()()()のように砕け散る。

 暗黒の力を得て邪悪な変化を遂げていた魔法棍《唯我独尊(ザワールドイズマイン)》は岩肌の床に転がり、五十センチほどの長さに戻り、凶悪な形の石突も元に戻る。(あるじ)を失った武器はその色も褪せ、()()()という音とともに縦に亀裂が入り、バラバラに裂けて砕ける。


 グノンの冒険者タグが岩肌の床に落ち、金属音が鳴り響いた。


     *


――戦いのさ(なか)に、()()()()()()()()()()()と言っただろう、グノン。

 ダイノスは心の中で友に語りかける。


(だってよ旦那、そのほうがカッコイイじゃねぇか。なぁ?)

 かつての友の言葉が心の中に蘇る。


 ダイノスはその時、苦笑しながらこう返したのだ――

「そんなんじゃ、俺を超えることはいつまで経っても無理だな」


     *


 魔法鎚《破壊大王(ツェアシュテーレン)》を振り抜いた姿勢で、ダイノスは静止していた。()()()()()()()()を構成していた暗黒の魔力の塵が降りかかる。

 巨漢のオークの戦士は祈りを捧げるように堅く目をつぶっていた。《破壊大王(ツェアシュテーレン)》は封印解除前の長さになり、鎚頭(ハンマーヘッド)も普通の戦鎚(ウォーハンマー)の形に戻る。


 ダイノスは膝をついた。戦う力も魔力も、まだ十分に残っているにもかかわらず……


     *


『――ッ!!』

 ダイノスがかつての仲間を()()する瞬間に、カンナは一瞬目を奪われる。


 その隙を突いて、カンナと()()()を行っていたジェンナは、膝をついたダイノスのほうへ弾けるように駆け出した。

 ジェンナの魔法を、カンナはすべて消去(カウンター)していた。隙を見ての触手での攻撃もすべて打ち払われている。技量の近しい魔法使い(マジックユーザー)同士の戦いは、決着がつきにくい。

 そのためジェンナはダイノスに狙いを変えたのだろう。


『ジェンナッ!!』

 カンナは叫び、ほぼ同時にジェンナを追って駆け出す。


     *


()()()()だよリーダー、戦いのさ(なか)に心が折れるなんてね!!』


 ジェンナは暗黒の力でパワーアップした脚力でダイノスに迫り、高く跳躍し両腕を挙げた。巨大な火球が両手の上に生成される。


『ここがお前の最期だダイノス、消し炭になれ! 《極大(ギガ)地獄火球(ヘルファイアボール)》!!』


 ダイノスは片膝をついたまま振り仰ぎ、ジェンナを見た。戦鎚(ウォーハンマー)を構えようとするも間に合わない。

 ジェンナの両手がダイノスに振り下ろされる直前。どこからか青い魔力(マナ)が《極大(ギガ)地獄火球(ヘルファイアボール)》に絡みつく。わずかな黒と赤の魔力(マナ)の残滓をたなびかせ、火球はもみ消される。


『《魔法阻止(カウンターマジック)》ッ!?』


 ジェンナは素早く右を見、左を見る。ジェンナの左側に、短距離の移動を()()する風属性魔法《跳躍(リープ)》で追いついたカンナが青い魔力をまといながら空中を漂い、短杖(ワンド)を突きつけていた。


     *


 カンナの短杖(ワンド)から《束縛(バインド)》が放たれ、ジェンナは黒い魔法の鎖に縛られる。

 短杖(ワンド)を仕舞うと、カンナは《雲踏(ジャンプ)》で空中を踏んだ。双剣を抜き放ちながらジェンナに猛進し、すれ違いざまに一閃する。右手の長剣がジェンナの胴体を分断し、左手の短剣が首を切り離す。


――()()()()なのはあなたのほうよ、ジェンナ。


 カンナは岩肌の地面に降り立った。遅れてジェンナの上半身と下半身がそれぞれ地面に叩きつけられ、粉々に砕けて塵と化す。

 少し離れた場所に、ジェンナの頭部が落ちて転がり、やはり塵と化して消えていく。ジェンナの冒険者タグとおぼしき金属音が、どこからか聞こえた。


――カンナッ!!

 立ち上がったダイノスが、《念話(テレパシー)》をカンナに送る。


――残るは()()()だ!

――ええ、わかってます!


 カンナは振り返り、黒き竜(ドラゴン)を仰ぎ見る。


     *


 あり得ないことだが、ドラゴンは邪悪な()()を浮かべ、その口元は()()()()()()()()ように見えた。


――バケモノが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とでもいうのか!?

――その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうですね?

――ああ。戦いのさ(なか)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を教えてやる。


 ドラゴンは首をもたげ、笑っているように見える口の牙の間から瘴気を噴き出した。

 そしてダイノスとカンナを見据えたまま()()()()()()()()


     *


 突如、赤い疾風が横殴りにドラゴンを殴りつけた。

 振り向きもせず、ドラゴンはそれを前足で受け止める。


 自身の周りに何重にも魔法陣を輝かせ、アイリスがドラゴンに大剣を叩きつけていた。ドラゴンの爪と大剣の間に火花が散る。

 力が拮抗し、体が空中に静止した時、アイリスは左手で胸のベルトに差した投げナイフを抜き放ち、ドラゴンの顔面に投げつける。ナイフに込められた《爆発(エクスプロード)》が炸裂し、短い抗議のような咆哮があがる。


――アイリスッ!!

――アイリスさん!!


 アイリスは空中で姿勢を制御し、ダイノスとカンナの間にふわりと舞い降りた。

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