洞穴の中
自然の洞穴、竜の顎に六人が踏み込む。
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前衛は野獣の四人。先頭をグノンとジェンナの獣人コンビ、その後ろにカンナ、ダイノスと続く。ダイノスは三人の斜め後ろに位置取り、いつでも前衛に飛び出るように構える。
後衛はコウとアイリス、すなわち疾風怒濤の二人。
ちょうど「依頼を受けたパーティー」と「サポートを申し出たパーティー」に分かれた格好だ。
先頭の獣人二人、とくに猫系種族であるジェンナは、他種族に比べて暗い場所でも視界を保てる。斥候の役割にはうってつけと言える。
洞穴は広く、ところどころ陽の光が差し込んでいるのか、内部は薄明るかった。パーティーは最小限にしぼった《照明》を足元に漂わせて進む。
ひんやりとした微風が、一定の方向に漂っている。空気は乾燥しており、そのせいか岩肌にはカビも苔も生えていない。
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――グノン、ジェンナ、どうだ。異常は感じるか。
ダイノスは、前を行く二人に《念話》で訊ねる。
――なにも。小動物の気配や声もない。きれいな洞窟だぜ。
――同じく。コウモリやネズミもいないし、霊のたぐいも棲みついてない。野盗のアジトとか、亜人系魔物の棲家になった痕跡もないし、この山自体が平和なんだろうね。
二人の答えに、ダイノスはわずかに顔をしかめ、「不快」の魔力的符号を《念話》で表現した。
――何もないというのは、逆に不穏だな。というか気に入らん。
――ドラゴンの奴、眠ってるんじゃないか? もしくはギルドの巫師が間違えたか、俺たちが洞窟を間違ったかだぜ、大将。
――そうだよ、ここまで何にもない洞穴にドラゴンが……少なくともドラゴン級の魔物がいるとは思えない。私の感覚は確かだよリーダー。
――それはわかるが、
ダイノスは振り返ってアイリスを見る。アイリスは視線の意味を察して、懐から《魔力探知器》を出してダイノスに示した。野獣と疾風怒濤を示す六つの光点と、少し離れて暗灰色の強い光が一定の間隔で明滅している。
――《魔力探知器》はこの通り、ドラゴン級の魔物の存在を明確に指示しているよ。明滅してるのは、おそらく休眠中って意味。
パーティーは立ち止まり、全員で《魔力探知器》を見る。
――さっきと比べて、我々二つのパーティーと魔物を示す光との距離も縮まってるよね。だからこの洞穴が目的地で間違いないと思う。
――感覚では何にもないぜ。なにかの間違いじゃないか?
――私もそう思う。この猫目にかけて誓うよ。
アイリスの言葉に、獣人コンビが反論する。
――でもこの《魔力探知器》、性能は確かなんだよ。それにけっこういいお値段だったんだけど。
――たまたま不調なだけじゃないか? アイリスさん。それか、その神器、ドワーフの手が入ってるんだろ? やつら一定の時間か使用回数で動かなくなるように仕組んだんじゃねぇか? それで修理費をせしめるつもりだ。
――そんなことある!?
思わずひきつった笑みを浮かべ、《魔力探知器》を操作するアイリス。それをコウが横から覗き込む。
――その《魔力探知器》、エルフの技師とドワーフの職人に改修を頼んだんだよね? エルフはともかく、ドワーフならやりかねないよ。あいつら金にがめついんだから。
――そうだな。あいつらは金貨が大好きだからな。
ドワーフの悪口で盛り上がるグノンとジェンナ。
コウはかつて、ドワーフの工廠に装備の改修を依頼した時のことを思い出した。あの時もかなり大枚をはたいたが、品質は確かだったとはいえその装備は先日のメタルゴーレムとの戦いですべて壊れてしまった。
今回、コウは村の倉庫に転がっていた古臭い胸当てや篭手を借りて着ていた。防御力はお察しなので、できれば戦いたくない。
もっとも、対象がドラゴンだとしたらどんな防具も無意味だ。ドラゴンの攻撃は、基本的には喰らったら終わりなのだから。
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ダイノスは腕組みをし、一人沈黙しているカンナを見やる。
カンナはハーフエルフだが、一般的なイメージに反して長杖を持った後衛魔道士タイプなどではない。魔法も得意だが、背中と腰に背負ったそれぞれ長さの違う剣で戦う二刀流のスタイルだ。
つまり野獣は全員前衛タイプのパーティーということになるが、職業という概念が形骸化した現在、それ自体はとくにめずらしい構成ではなかった。
――カンナ、どうだ。お前はどう思う。ハーフエルフ的には、この状況どう見える?
カンナは一瞬のあいだ逡巡したが、顔をあげてはっきりと言った。
――……私は、引き返したほうがいいと思う。




