首無騎士(デュラハン) その③
あり得ない方向に曲がった首無騎士の右腕が、致命の蹴りを突き差す寸前のアンナを殴り飛ばす。
アンナは糸の切れた操り人形のように吹き飛ばされ、「悪魔教会」の壁に激突、四メートルほどの高さから落下する。
それと同時に、ダンッ!! と魔銃の発砲音が聞こえる。アンナは教会の床にたたきつけられ、鈍い音が聞こえた。
*
「アンナ!」
「姐さん!」
ハインリヒとエルガーが同時に叫ぶ。それを見てバルトは驚き、糸のような目がほんの少しだけ見開かれる。
――落ち着いてくださいお二方。今アンナさんに《保護》と《治癒》、《回復》の魔弾を撃ち込みました。あの高さからでも落下ダメージは免れているはずです。
バルトは二人に《念話》を飛ばしつつ、さらなる魔弾を装填する。
《念話》は普段の会話とは違い、意味をそのまま伝えられる上、ある程度までなら長いメッセージも圧縮することができる。そのため戦闘中の会話にはうってつけであり、慣れも必要だが早口での会話程度には楽に行うことができる。
ハインリヒとエルガーは首無騎士を見据えたまま《念話》を受け取る。
そして流れるような動きで二発目を放つバルト。魔弾は床に倒れ伏したアンナの上で炸裂し、ぴくりとも動かない体を白光が包み込む。
――今のは《浄化》と《除霊》の記された、対亡者特効の魔弾。アンナさん自身に付与しました。これでひとまず、奴はアンナさんの体に手出しはできません。
――感謝する。
ハインリヒは《念話》でメッセージを返し、エルガーもそれに同意した。
だが、二人がバルトに送った《念話》には少し「不快」のニュアンスが混じっていた。二人とも忌々しげに顔を歪めている。
*
バルトは意外な思いを禁じ得なかった。
桜花騎士団は個人主義のパーティーであり、「力を合わせて依頼を果たす」というより「各人が最大限の働きをする」ことに重きを置いている。そう聞かされていた。
しかし、ハインリヒとエルガーの二人は、首無騎士の一撃を受けて床に倒れ伏したアンナを「心配」している。そればかりか、「首無騎士はアンナの体に手出しは出来ない」というバルトの《念話》に、あきらかに「不快」の反応を示した。
つまり、ハインリヒとエルガーはアンナが生きていてほしいと願っている。
「体に」などと言うなと、アンナはまだ生きていると、そのように強く思ってるのだ。
(まぁ……当然でしょうか。人情という奴ですかね。私にはよくわかりませんが)
上着の内ポケットを探り、バルトは次の撃つべき魔弾を探り当てる。
(それに、パーティーを組んでいる以上、完全に個人主義というわけには行かないでしょうしね……それともあの二人も、ご多分に漏れず女には甘いといったところでしょうか?)
バルトは内心で笑みを浮かべる。そして《束縛》の魔弾と、《浄化》と《除霊》の組み合わされた魔弾を取り出す。
二つの魔弾を銃口に押し込み、撃鉄を上げ、引き金を引く。銃口の前に魔法円が展開し、白と青の光が首無騎士に向けて放たれる。
魔弾二発を同時に撃ったため、大きな反動でバルトの長身がのけぞる。
(いずれにせよ、やることは変わりません。さぁ、桜花騎士団はここからどうするのか。見せていただきますよ)
*
首無騎士はアンナを殴り飛ばした時の、あり得ない角度で右腕を曲げた姿勢のまま「残心」するように静止していた。
あるべき場所に無い首。当然、その表情など知る由もなかったが、ハインリヒとエルガーはその姿に冒涜的な意図を感じ、言い知れぬ怒りを覚えていた。
そこにバルトの魔弾が炸裂する。白と青の光が二つ続けて尾を引き、首無騎士の甲冑の胸部に炸裂、巨体の亡者はわずかによろめく。白と青の魔法円が首無騎士の胴体を中心に展開して回転し、黒い半透明の魔力の鎖が絡みつく。
だが、そのいずれもが次の瞬間にはガラスのように砕け、魔力の破片と化して霧消していく。首無騎士は腕を元に戻し、処刑人の剣を前に出して構える。
――やはり抵抗が強いようです。魔弾の再現詠唱では通じませんね。
――わかってる。足止めだけで十分だ。エルガー、
――応、
――合わせろ。俺が奴にとどめを刺す。
――まかせな、大将。
高位亡者系魔物は、往々にして魔法に対して強い抵抗力を備えている。神聖術に対する致命的な弱点を、魔力自体を跳ね返し術式を無効化する抵抗力で相殺しているのだ。
よほど技術のある魔法使いでもなければ、端的に魔法は効かないと言っていい。
それを知らないハインリヒではない。右手に持った剣を逆手に構えると、ハインリヒは無詠唱で付与魔法を発動、剣身が白く光り輝く。
魔法剣――
魔力伝導性の高い金属を鋳込んだ武器に、攻撃魔法をその都度付与し、魔物の魔法防御や魔法抵抗を突破し、弱点を突く。
魔法剣そのものを使える術者は珍しくないが、桜花騎士団は全員、この技術を最高度に用い、応用することができる。これがこのパーティーのアイデンティティであり、かつてのメンバーである老賢者エーリッヒ・ムーアが伝授したものだ。
*
(出ましたね、桜花騎士団の魔法剣。見せてもらいましょうか、「猛毒のエーリッヒ」の伝授したその技を)
バルトは先ほどと同じ亡者特効の魔弾を放つ。これを抵抗で無効化しなければ、いかな高位亡者であろうと致命傷は免れ得ない。もし亡者に命というものがあればの話だが。
つまり、足止めのための魔弾。
それと同時に、ハインリヒが弾丸のように飛び出す。身をかがめ、右に左に急速に方向転換。首無騎士の足元を抜けて攻撃の死角へと回り、弱点と思われる首の切断面を狙うつもりだろう。
首無騎士はハインリヒの動きを受け、右腕を前に伸ばした。処刑人の剣が、「悪魔教会」の朽ちた屋根からほんのわずかに差し込む日の光に煌めく。
そして――巨大な剣が、風車のように手首ごと回転しはじめた。




