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悪魔教会 その②

「悪魔教会」の正面、両開きの門に剣をかざし、ハインリヒが《開錠(アンロック)》を唱える。


 仰々しい音を響かせつつ門が両開きになり、亡者(アンデッド)の発する独特の忌々しい瘴気があふれ出す。冷たい瘴気が足元を浸して流れ出ていく。

 わかっていたこととはいえ、アンナは少し怖気を震った。


     *


「キキッ!」

 蝙蝠(コウモリ)のような声が上から聞こえた。見ると、小さな眼蝙蝠(アイ・バット)が数匹、教会の門の入り口あたりを飛びまわり、めいめい思い思いの方向へ飛び去っていく。毛むくじゃらの体に大きな眼球一つと、一対の蝙蝠の羽を持つ、文字通り蝙蝠に似た魔物(モンスター)だ。


 ハインリヒは剣を振るい、軽い《火炎(フレイム)》で入り口近くの空間を打ち払う。《火炎(フレイム)》は教会の床や壁、調度品などに触れた瞬間、赤い魔力の火花に変わって散る。魔物(モンスター)のみを焼き滅ぼすように設定(プログラム)されたもので、その程度のことはBランク以上に魔道士なら誰でも出来る。

 教会に一歩踏み出し、ハインリヒは左右を確認する。アンナとエルガーが、それぞれ左右に散り、警戒態勢を取りながら壁際を歩く。後ろでバルトが()()の撃鉄を起こす「カチリ」という音が聞こえる。バルトはハインリヒを射線上から外すように斜め後ろに陣取った。


     *


 バルトの用いる魔銃《七発六中(フライクーゲル)》はフリントロック式の魔法銃だ。あらかじめ用意した「魔弾」を銃口から込め、引き金を引くことにより火打石(フリントロック)ならぬ「魔石」を取り付けた撃鉄が火花を起こし、銃身内の「魔弾」内に仕組まれた魔導書(スクロール)に作用して魔法が発動する。

 つまり、()()は普通の銃とは違い、あくまで魔法を発動するための魔道具であり、真っすぐに飛ぶ弾丸が発射されるわけではない。「魔弾」内の魔導書(スクロール)は、攻撃魔法であっても「あらかじめ味方への作用を避ける」動作が追記されていることがほとんどだ。そのため魔銃を用いる「銃士」はむしろ()()()()()()()()()に陣取り、盾役の前衛の影から「魔弾」を撃つことが習い性となっている。


(とはいえ、()()()()()は「銃士」の戦い方や「魔弾」の作用の仕方については無知であるはず。ここは無用な誤解を避けるためにも、わかりやすく味方を射線上から避けることにしましょう)


 バルトは細い目をさらに細め、「悪魔教会」の中を見やった。


     *


「――《光源(ライト)》」


 ハインリヒが唱えると、光の玉が教会内部、広い空間に昇っていき、天井付近で炸裂、光源となって辺りを照らす。火属性基本魔法《光源(ライト)》。《照明(ラムプ)》と違って広い範囲を照らす魔法だが、光量が多く、いったん設置した後は融通が利かないため、使いどころは限られる。

 光に照らされた教会のそこかしこから亡者(アンデッド)のうめき声が聞こえ、屍人(ゾンビ)たちが立ち上がる。外に()び寄せられていたスケルトンたちと違い、()()()()()()()()()()()()()が教会内には配置されているようだ。数は二十体~三十体ほどか。


「来やがったな」


 エルガーが、自分に襲い掛かる屍人(ゾンビ)を、黒き魔法斧《乾坤一擲(ファバンクシュピール)》で吹き飛ばす。屍人(ゾンビ)は上半身を吹き飛ばされ、よろよろと歩く下半身をエルガーが蹴り飛ばす。

 アンナは口の中で《浄火(クレンズ)》を唱え、手甲に魔力を付与。「()!」の声とともに屍人(ゾンビ)の顔面に拳を叩き込む。屍人(ゾンビ)はのけぞり、頭から浄化されていく。


「《火球(ファイアボール)》」


 ハインリヒは印を組んだ左手を前に出す。輪郭が赤く光り、四つの火の玉が正面の屍人(ゾンビ)どもに襲い掛かる。火球は(あやま)たず屍人(ゾンビ)に命中、魔法の火は教会に延焼することなく亡者(アンデッド)のみを焼き尽くしていく。


     *


(ほう……)


 遅れて教会内に立ち入ったバルトは、内心で感嘆の声を上げた。


(やりますね。さすがAランクパーティー・桜花騎士団(キルシュリッター)といったところでしょうか。ただの派手好きな勇者気取りの冒険者の集まりではない。しっかりと実力はあるわけですね)


 バルトは細い目をわずかに開けた。そして懐から「魔弾」を取り出し、魔銃《七発六中(フライクーゲル)》に込める。唇の端がわずかに歪み、見慣れた者にだけ辛うじて判別可能な笑みを浮かべる。


(とはいえ、このままでは()の出番がありません。ここは派手にやらせてもらいましょう)


     *


「ちいッ! ここまでゴチャゴチャと()()が多い場所じゃあ、俺の《乾坤一擲(ファバンクシュピール)》は投げられねェ!」


 エルガーがそう叫んだ時、ダンッ!! と魔銃の炸裂する音が聞こえた。


 エルガーとアンナは、入り口付近の魔銃士バルトを見やる。バルトの持つ魔銃の銃口から、魔力の煙が立ち上っている。

 次の瞬間、赤橙色の炎が教会内、屍人(ゾンビ)どもの頭上から降り注いだ。


「うおっ!!」

 エルガーは思わず飛びすさる。だが炎は教会の調度品を焼かず、エルガーやアンナ、ハインリヒは熱さすら感じさせることもなく、屍人(ゾンビ)のみを燃やし尽くす。屍人(ゾンビ)どもは苦悶にうめき、言葉にならぬ声をあげ、地獄の業火の中で踊るように暴れ狂う。


「まずは魔弾《業火(インフェルノ)》。そして――」

 バルトは懐から素早く次の魔弾を取り出し、流れるような動きで銃口に込め、撃鉄を起こす。


「滅びなさい。魔弾《浄火(クレンズ)》」

 撃ち放たれた魔弾は先の《業火(インフェルノ)》に重なる弾道。屍人(ゾンビ)どもを焼く業火が白く光り、哀れな亡者(アンデッド)は浄化され、跡形もなく消滅していく。


     *


「やるじゃねェか」

 エルガーが、歩み寄るバルトに称賛の声をかける。


「ほんとね。いけすかないだけの男かと思っていたけど、実力はあるみたいね」

 アンナも唇だけで笑みを作りながら同意する。


「お褒めの言葉、恐悦至極に存じます」

 バルトは右手に魔銃を持ったまま、左手で胸に手を当てて一礼する。


「見事だバルト、想像以上の働きだ。だが、まだ終わっちゃいない」

 ハインリヒは教会の奥を見据えたまま言う。


「もちろん、わかってるね」

「こッからが本番ッてわけよ」


 アンナは拳を上げて半身(はんみ)となり、エルガーは自慢の魔法斧《乾坤一擲(ファバンクシュピール)》を構える。

 バルトは懐に手を入れ、魔弾を二、三発、指で探る。


     *


 教会の奥、祭壇の影から、()()()と影が立ちあがる。亡者(アンデッド)特有の禍々しく、忌々しい瘴気を立ち上らせたシルエットは、奇妙なことに()()()()()()()()()()()()()()

 首無騎士(デュラハン)亡者(アンデッド)の中でも高位に属し、その強さは個体差もあるが、一番弱い個体でもAランク冒険者のソロ討伐が辛うじて五分五分という強敵――


「――来るぞ!!」


 ハインリヒが叫ぶ。同時に首無騎士(デュラハン)は事前の動作なしに宙に跳び、教会の広い空間のなか空中で一回転し、祭壇からの長い距離をショートカット、轟音を響かせて四人の前に降り立った。

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