ドラゴン対策会議 その②
「竜の顎」
コウが村長の言葉を繰り返した。
「出来すぎだな。かつてその場所にドラゴンが出たなんて伝説があったりするのか?」
「昔話にはそったら事があったばって、何十年何百年前の事が分がらねぇし、それに其処は普通の、ただのだだっ広い洞窟だ。いわゆるダンジョンでは無ぇでな」
「ダンジョンではない」
「んだ」
コウの言葉に、村長がうなずいた。
「ダンジョンでないってことは、魔物は自然発生しないってことだな」
「そうね、だから周囲に影響が出てなくて、何の報告も上がってこなかったのかも」
グノンは顎に指をあてて、ジェンナは腕組みをして卓上を覗き込んでいる。
「でも変だわ。ダンジョンでもない場所に、ドラゴン級の強大なモンスターが発生するなんてありえない」
「そうだ。ここに来る前にギルドで下調べをしたが、この辺りはそもそも魔界との距離が遠く、ダンジョンが自然発生することも稀だったはずだ。ダンジョン攻略の依頼や、魔物退治の依頼そのものがそもそも少ない。そうだな? 村長」
「んだすけ、出張って来るにしても魔熊や魔狼、魔猪ぐれぇのもんだべ。それも一体や二体ずづだはんで、村の若者の手で十分討伐出来る」
「この村に冒険者ギルドの支部も出張所も無いのは、そもそもその必要がなかったからってわけね」
「んだんだ」
カンナとダイノスの言葉に、村長がうなずく。
「しかし、そこに何がいるとしても、これだけの魔力量を示す存在が突然出現するというのは……」
「何だろうな旦那。召喚士とかが関わっているんですかね?」
召喚士、とコウは思った。視界の端で、ぴくり、とアイリスが身じろぎする。
「その可能性も考えたが、不合理だな。ドラゴンを喚べるような召喚士がこんな山奥にまで来るか? 何が目的かわからんが、たとえば騒乱を招くだの、軍隊をどこかに引きつけておくだのの目的があったら、もっと効果的な場所を選ぶんじゃないか? ……いや、失敬」
「ええでば、ええでば。山奥である事は事実だはんでな」
謝罪するダイノスに、村長は笑みを浮かべて手をひらひらと振る。
「とにかく、場所はわかった。準備は出来ている。明日にでも我々は、そこを目指して出発することにする。それでいいな皆」
ダイノスの決定に、グノンとジェンナ、カンナがうなずく。
「では今夜は――」
「ちょっといいかな」
コウが手を挙げて、ダイノスの言葉を遮った。
*
「何だ、コウ殿」
「提案があるんだが、明日のその、ドラゴンの調査には我々も同行していいか?」
ダイノスと、野獣のパーティーメンバーの目が集まる。
「我々というのは、君たちパーティーということか」
「そうだ。パーティーというか、僕とアイリスの二人だな」
アイリスはいつの間にかコウの側に腕組みをして立っている。
「山中に現れた謎の魔力源については我々も把握していてね、」
とコウは卓上の《魔力探知器》を指さし、
「村の安全のためにも謎は解明しておきたいと思っていたところなんだ。現地に行かなければわからないこともあるしね」
コウは両手を拡げて顔の近くに挙げた。
「もちろん、君たちの邪魔はしない。手柄を横取りするつもりもないし、報酬も要求しない。あくまで我々は情報収集のために同行したい。それだけだ」
「村のために、ということか」
「そう。人数は多いほうが不測の事態にも対処できる。悪い話じゃないと思うが」
「ふーむ……」
顎に手を当てて考え込むそぶりのダイノスに、グノンとジェンナが両脇から話しかける。
「いいじゃないか旦那、こっちにはデメリットのない提案だぜ」
「そうだよ、受けるべきだよ。本当にドラゴンで、戦いになったら多いほうが有利だし」
「あくまで調査の仕事であり、戦いは避けるべきだったんじゃないか? ジェンナ」
「それはそうだけど、突然襲い掛かってくるかもしれないわけじゃん。それに、魔力に当てられた熊や狼が周囲にウヨウヨいるかもしれないしね」
「私もいいと思う」
ハーフエルフのカンナも手を挙げて、賛同の意を表明した。
「グノンとジェンナの言う通り。人手は多いほうがいいわ。それに、この人たちは悪い人じゃない。何かたくらみがあって言ってることじゃなく、村の安全と利益のために提案している。それに、」
とカンナはコウとアイリスを見て、
「もし私たちがここに来なくても、コウさんとアイリスさんはドラゴンの調査に行っていたはずだわ。遅かれ早かれね。そうでしょう?」
「そうだ」
コウが首肯する。
アイリスが、前を向いたままコウに《念話》を送った。
――勝手に数に含めてくれるじゃん。私が「行かない」って言ったらどうするつもりだったの?
――僕が言い出さなかったら、君は自分から言い出していたはずだ。そうじゃないか?
――そうだけど。
アイリスは《念話》の最後に「ニヤリと笑う」魔力的な符号をつけた。
「よっしゃ」
ぱちん、と音を立てて手を合わせたのはグノンだ。
「決まりだな、旦那」
「そうだよ、コウさんとアイリスさんが手を貸してくれるなら百人力だよ」
「二人は強そうだし、何があっても大丈夫だね」
盛り上がる三人。だがダイノスは短く告げた。
「断る」
「なっ……」
野獣の三人が絶句する。
*
「勘違いしてくれるな。なにも君たちが信用ならないとか、我々の足手まといだなどと言いたいわけではない。ただ、我々にもメンツというものがある」
「メンツって言ったって旦那、俺たちは今までだって、」
「グノン、」
抗議するグノンを、ジェンナが止める。見ると、憮然とした表情を保っているつもりのダイノスの唇の端がかすかに上がっており、目が輝きを帯びている。
――これはもしや、旦那……
――うん、出たねリーダーの悪い癖が。
「冒険者コルネリウス・イネンフルス。貴殿の助力の申し出、誠に感謝する。しかし我々は貴殿の力量を見定める必要がある。なにしろ軟弱な者に我らが殿は務められぬ」
ダイノスは朗々たる響きの声の、時代がかった言い回しで、まるで何かのセリフを読み上げるように言い放った。
「ついてはこのダイノス・リンドブルム、貴殿に決闘を申し入れる」




