ドラゴン対策会議 その①
一階部分が半壊した村長の屋敷――
まさに現在、村人たちの手によって修復工事中の一階のホールに、冒険者たちが集まっていた。
*
突然村を訪れたパーティー・野獣の四人。リーダーであるオークの戦士、巨漢のダイノスとハーフエルフのカンナ、猿系の獣人族「マカク」のグノン、猫系獣人族「ガート」のジェンナ。
工事用に設えられた大きな作業台をはさんで、コウことコルネリウス・イネンフルスとアイリス・ツヴァイテンバウム。
日没後、間もない時刻。ホールにはランタンが吊るされている。
「しかし、苦労したですよ。あんのじょう子供たちにまとわりつかれちゃって」
「あらいいじゃない、まんざらでもなかったでしょ。得意のお手玉が受けてたでしょ」
「ジャグリングな」
グノンとジェンナの二人が共通語で談笑している。ところどころ違和感があるが、流暢といって差し支えない共通語だ。
「村の結界の張り直しを手伝ってくれてありがとね、カンナちゃん」
「いえいえ、お役に立てて嬉しいです」
「村に来たばっかりなのに手伝わせちゃって。今まで村には結界術の専門家ってあんまり来なかったみたいで、魔熊くらい平然と入り込んでたらしいんだよね。私も高位精霊術ってあまり見たことがなかったので勉強になったよ」
「とんでもない! それにあれ、そんなに高位ってほどではないですよ」
「またまた~。四大精霊とこの地の森の精を協調して働かせてたじゃない。誰でも出来ることじゃないよ」
アイリスは、ハーフエルフのカンナと話している。やけに距離が近くスキンシップも多いようだが、ほぼ初対面であるせいかカンナはリサのように塩対応はしていないようで、アイリスはデレデレとした笑顔をしている。
昼間、野獣の四人が村に入り、いったん宿に落ち着いた後、彼らは様々な仕事に駆り出されていたようだ。グノンとジェンナは子供たちや若者たちと交流し、カンナはアイリスの要求で村を取り囲む結界魔法の調整。ダイノスは、村長と話し合いをした後、ついでに村長宅の修復のための資材を運ばされたらしい。
野獣のメンバーは依頼で訪れた先の村人との交流を重視しているらしい。依頼さえ出来れば他のことには構わないというパーティーも多いが、コウにとっては友好的なパーティーのほうが自然に思える。
――思えば、桜花騎士団はそれほど協調性というものを重視してはいなかったか。
コウが元いたパーティー・桜花騎士団も悪人の集まりというわけではなかった。だが、良くも悪くも彼らは独立心が旺盛であり、チームワークというものも無いわけではなかったが、それよりも個々の力を最大限に発揮することを重視していた。
いわば「パーティーらしいパーティー」というものを目にして、コウは自分の歩んできた道を思い返さずにはいられなかった。
「…………」
「…………」
六人のうち、余った二人組・コウとダイノスは、並んで作業台を見つめている。腕組みをした二人が、ふと目線を合わせた。
「……貴殿はこの村には、どういう経緯で居るのだ?」
貴殿、とコウは思った。
「そうだな、僕はある経緯でパーティーを追われてね……ひどい経緯だったんだが、偶然、かつて一度依頼を受けたことがあるこの村にたどり着いた」
「ひどい経緯」
「そう、ひどい経緯だ」
コウは肩をすくめた。
「この村の人は、突然一人で現れた僕を歓迎してくれてね。ちょうど人手というか、冒険者だった者がいてくれたら助かるって話をされて、それ以来居着いてるってわけさ」
「冒険者は廃業したというが」
「ああ。今のところはもう冒険者に戻るつもりはない」
「惜しいな」
「惜しい?」
コウは顔を見上げてダイノスを見た。ダイノスはじっと作業台を見ている。
「貴殿は若いし、冒険者としての力も衰えていない。否、むしろ他の凡百の冒険者には無い何かを感じる。このまま山奥の村の守り人で一生を終えるには、あまりにも惜しすぎる」
歯の浮くようなお世辞だ、とコウは思ったが黙っていた。ダイノスは単に友好関係を築くために美辞麗句を並べているだけかもしれない。それに、オークの国では味方と見なした者は褒めちぎる風習があるとも聞いている。
「山奥の村の守り人だって立派な仕事さ」
「それは他の冒険者にも出来ることだ。貴殿には貴殿にしか出来ないことを考えるべきだ」
「僕にしか出来ないことか……」
コウはしばしの間考えたが、
「……無いな。僕はよく『何でも出来る』と言われたし、自分でもそう思っていた。だがそれは器用貧乏ってことだ。まんべんなく何でも出来るとは、まんべんなく何にも出来ないに等しい」
「……ずいぶん自分に厳しいんだな、貴殿は」
「同じようなことを、元パーティーメンバーに言われただけさ」
――あンたのできることはすべてハインリヒの大将も出来る。しかもより上手く出来る。あンたのいる意味なんてねェのさ。
追放の日に、仲間の一人・暗黒神官エルガーに言われた言葉が耳に響く。軽薄そうな言動で偽っていたが、本質を突く男だった。
「しかしな、貴殿は――」
「遅くなって悪がったの、普段は地図など使わねぇがら手間取ってまったじゃ」
村長が部屋に入ってきた。羊皮紙で作られた、大きな地図を手に持っている。
野獣の四人と、コウとアイリスは、話をやめて村長のほうを向いた。
*
「お手数おかけする、村長」
「ええでば、ええでば。さっ、これがこの村周辺の地図だべ」
村長は丸められていた地図を作業台の上にバサリと広げた。村を中心に、周囲の山の地形が具体的に描かれている。六人は地図を覗き込んだ。
「旦那、そのド……魔物が出たってのはどこですかい?」
「村長、北はどっちだ」
「北はこの方角だな」
「ちょっと待ってね」
村長が地図の北の方角を示すと、アイリスが懐から神器を取り出した。起動させて地図の上に置いた。表面には七つの光点が集まって映っている。一つは目に見えて小さい。
「その神器は?」とダイノスが訊ねる。
「《魔力探知器》。色んなものの魔力を探知して場所を特定できる道具だね。この光の点は私たち、ここに集まってる七人を示している」
そのまま操作し、方角を合わせて地図と照らし合わせる。
《魔力探知器》の表面に灯った七つの光が一点に集まる。その周囲に、明滅する小さな光たちが集まっていた。
「この星の集まりみたいなのはこの村全体だね。で、こうすると」
《魔力探知器》は探索範囲を広げ、村から離れた一点に、村人たちすべてを合わせたくらいの強さ、ややくすんだ黒っぽい色の光が明滅していた。野獣の四人は息を呑んだ。
「これが……」
「今回の調査対象だね」
「それは地図上ではどこにあるんだ?」
「この地図の上だば、ここだべな」
村長が地図の一点を指す。
「この山は『竜の峰』と呼ばれる山脈の一つで、ちょうど其処には『竜の顎』と呼ばれでる洞窟があるべ」




