ドラゴンの話
コウはため息をついた。アイリスの長い話が終わって、しかもまだ謎は残されている。
いや、むしろ謎は増えたくらいだ。アイリスのパーティー、疾風怒濤をはめたのは誰なのか? 召喚士マルグレーテは生きているのか? そもそも、復讐とか姉を探すといった目的は聞いたものの、なぜそれがこんな山奥の村とつながるのかもわからない。
*
アイリスは立ち上がり、「う~~~ん」と言いながらのびをした。まず両腕を上に伸ばし、首を両側に曲げ、両手をテーブルに置いて頭を腕の間に入れる形で腰を伸ばす。そして脚を片方ずつ突っ張って伸ばした。猫のようだ。
つられてコウも、椅子に座ったまま手を組んで腕を前に伸ばし、首を回した。若いリサだけが、椅子にちょこんと座ったまま大人二人の様子を見ている。
「ごめんね! 話が長くなっちゃって。あと言わなきゃいけないことは何だっけ……そうだ、ドラゴンの話が残ってね」
「ドラゴン……そういえばそんなことも言ってたな」
アイリスは椅子を引いて座り、脚を組んだ。
「この《魔力探知器》」
と、卓上にある神器を指さして、
「こいつを入手して、あとギルドマスターの試験に通ってからだね、冒険者ギルドがどうやって遠く離れた場所に出現したモンスターや発生したダンジョンの位置やなんかを特定できているのかわかったんだ」
「ほう」
コウも椅子に腰かけ直し、脚を組んだ。さすがにリサまでは同じ動作はしなかった。
「興味深いな。てっきり近隣住民の要望だとか、冒険者や行商人の報告などで行われていると思ったが」
「私もそう思ってたんだけどね、実際は違った」
《魔力探知器》を片手で操作するアイリス。慣れているのか、多少離れた位置からも問題なく操作できるようだ。《魔力探知器》表面の光点三つが中心に集まり、その周囲にいくつもの小さい光点が浮かぶ。
「前も同じことをやったけど、この三つが今の私たちだね。周囲にある小さい星のような点たち、これは村人たちを指す。《魔力探知器》の捜索範囲を広くすると、村全体が表示されるようになるわけ」
「ここまでは前と変わらないな」
「そう。で、この捜査範囲をぐーんと広げる」
アイリスがまた違った手の動きをすると、《魔力探知器》表面の星のように散らばっていた光点が急速に中央に集まり、一つの塊のようになる。広くなった画面には、中心の塊から離れてごく小さい光点がぽつぽつと見られ、最も離れた位置には村を示す光点の塊を集めたくらいの大きな一つの光がまたたいていた。
コウはそれを見て顔をしかめた。
「……どう?」
「明らかにまずいな」
「でしょ? これが、冒険者ギルドが遠くの異変を発見できる理由だね」
「この大きな光の点……これがドラゴンってことなんですか? 前に村に出たゴーレムみたいに、こんな風に光ってわかるっていう?」
リサの疑問に、アイリスが答える。
「そう。《魔力探知器》は基本的に、様々なものの魔力を広範囲に探索できる神器だ。人だったり魔物だったりの魔力は基本的に、こんなふうに光の点で表示される。光が強ければ強いほど、大きければ大きいほど、それが『強大な存在』ってことだね」
「前に現れたメタルゴーレム、あれは僕とアイリスを合わせた光よりもさらに強かった。たしか僕の三倍くらいの光に見えたな」
「そうだね、私もそのくらいだったと記憶している」
「ゴーレム系の場合、魔力そのものは筐体の駆動に用いられているだけのことが多く、ゴーレム自身が魔力を使って何かをするわけではない。だからゴーレムは魔力量に比べて戦闘力が高く、そのせいで前回は苦戦したともいえるが……」
「それを加味しても、今回のこいつは明らかに大きいよね。まるで村人全員を足したよりもまだ強いみたいに見える……それも、コウ君と私を含めてすらね」
「そして、そんな魔力を持っている魔物はドラゴンくらいしかいないんですね」
「そう。リサちん賢いね~」
アイリスはにやにやと笑ってリサを見つめた。コウはおほん、と咳払いをする。
「まぁ、そんなわけで、このくらいの光の強さで人知れず現界に顕現できる魔物はドラゴンくらいしか考えられないわけだね。魔力の強さもさることながら、吸血鬼なんかが村のこんな近くに出たなら既に犠牲者が出てないとおかしい。悪魔なんかだったら、現界に顕現した瞬間に周辺の村の人なんかは全員おかしくなるからね」
「厳密には、まだドラゴンと決まったわけじゃないけどな……十中八九そうだろうが」
「そうね。行商人や冒険者からの報告もないし、この村のみんなも誰も気づいてないよね。でも、この《魔力探知器》だけでも、どんな魔物かはおおよその見当はつく」
アイリスは腕組みして、椅子に深く腰かけた。
「これが、冒険者ギルドが遠くの魔物の情報をいち早く知ることができる理由だね。《魔力探知器》は古代の稀少な神器で、そこら辺に転がってるものじゃない。でも、たとえば水晶玉や水盤なんかに同じような機能を持たせることは出来る。それで、ギルド専属の巫が、魔力の変化をいち早く探知してギルドに報告するんだろうね」
「君はこの、ドラゴンと思われる魔力の変化を探知して、この村まで来たってことか」
「そう。君がこの村にいることも、当然探知していたしね」
*
「……ちょっと待て、」
コウは身を乗り出して、《魔力探知器》を覗き込んだ。
「どしたのコウ君」
「アイリス、村の周辺を拡大してくれないか?」
「? いいよ」
アイリスが手を動かして、村全体が映るようにした。《魔力探知器》表面の光の集まりが拡大する。
アイリスとコウ、リサの三つの強い点と、その他の村人を示す小さな点が集まった一角に、四つの淡い緑色の光点が集まっている。その四つに近い村の中の光点が、一つ、二つと、それに気づいたように近づいていく。
「……これは、」
「だんだん近づいてるね。徒歩くらいの速さかな」
「旦那様やアイリスさんと同じくらい強い光が四つ。これって、」
「おそらく冒険者だな」
三人は顔を見合わせた。




