強制加入
「初対面の時に言ったよね、コウ君――コルネリウス・イネンフルス。私の仲間になりなさいって」
そう言って、アイリスは机の上に、黒曜石のような質感の鉱物で出来た黒い円盤状の道具を置く。広範囲の魔力を探知し、その数や性質、強さなどを測定する古代の神器、《魔力探知器》だ。
「……パーティーが私を残して全滅した後、私はほうぼうを駆け回って、この便利な神器を手に入れた。骨も残らなかったキーファーの死亡届と再起不能となったウィリアムの廃業手続き、それとマルグレーテの失踪の報告を、冒険者ギルドに済ませた後ね」
「疾風怒濤の解散手続きは出さなかったわけだな?」
「そう。疾風怒濤は現在、私のソロパーティーということになっている。だから『私の仲間になれ』っていうのは疾風怒濤のメンバーになれ、ってこと。というか、」
アイリスは《魔力探知器》の上に手をかざして操作した。魔力感受性の高い者のみが感知できる起動音を発し、《魔力探知器》の黒い鏡面がほんの少し明るくなったように見える。
「実はもう君は私の仲間になっている」
「何!?」
ニヤリと笑うアイリスに、コウは思わず大きな声を出した。
アイリスは《魔力探知器》の表面を指さす。すると、そこには三つの光点が灯っている。
「前に使った時と同じだね。この二つの、大きさがほとんど同じ光が私とコウ君。このちょっと小さめの白い光がリサちん。……何か違うと思わない?」
「……どこが違うんでしょう?」
「なるほど、そういうことか」
コウは腕組みをして、椅子の背もたれにもたれかかった。憮然とした表情。
「旦那様、どういうことですか?」
「その光点の色だ。以前はアイリスが疾風怒濤を示す赤色、僕は以前のパーティー・桜花騎士団を示す桜色だった。それが、僕を示す光まで赤くなっている」
アイリスはぱちんと指を鳴らした。
――ご明察。
同時に、頭の中にアイリスの声が響く。
同じパーティーに所属する魔法使い同士が使える、声を介さない短距離の会話。いつの間にか通された魔力の通り道を介して行われる《念話》だ。
事前に同意したわけでもないのに《念話》が通じているということは、コウはアイリスと同じパーティーになっているという事実を指し示している。コウは忌々しげにアイリスを睨みつけた。
「アイリス、君は僕を疾風怒濤に勝手に登録したな?」
「……こないだ、二人でメタルゴーレムを倒したよね。あの時、新パーティーメンバーを加入させる際の『一度でも共闘したことがある』という条件を満たした。ソロパーティーの場合は、もちろん誰を加入させるかに際して他のメンバーの承諾なんか要らないよね。必要なのは新加入メンバー自身の承諾だけ。今回の場合はコウ君の承諾ってことだね」
「……だが『一度でも共闘したことがある』相手の場合、そいつがパーティーに属していないかぎり、本人の承諾を得ずにパーティーに加えてもよい」
「あの……どういうことですか?」
疑問を口にしたリサに、コウが向き直った。
「冒険者ギルドには『ギルド憲章』というものがあって、まぁ冒険者のルールみたいなものだな、ギルドに登録する者は全員それに従わなければならない。その中に新しいメンバーを加入させる際の項目がある。複数人のパーティーだったら、メンバー全員と加入者本人の承諾を得る必要があり、パーティーメンバーが一人の場合――つまり今のアイリスだな、今の疾風怒濤には他のメンバーなんてのはいないわけだから、アイリス自身と僕が承諾すればいいわけだ」
「要するに、コウ君がうんと言えば、その瞬間にコウ君は疾風怒濤の新メンバーってことね」
「だが、僕はそれを拒否した。ところで『ギルド憲章』には誰も覚えていないような項目があってだな……」
コウは横目でアイリスを見た。アイリスはニヤニヤと笑っている。
「……『一度でも共闘した相手ならば、それが他のパーティーに属していない限り、いつでも自分のパーティーに加えても良い』」
「その通り。今回はそれを利用させてもらったわけだね」
「本人の承諾なしに、パーティーのメンバーに入れてもいいってことですか?」
「そうだ。実質的に死文化した条項であり、誰も気にする者はいなかった……今のアイリスのように、冒険者ギルドに登録する際は一人であってもパーティーとして登録するのが習い性になっている。『ソロパーティー』ってやつだな。パーティーを組むことでギルドから受ける保障が色々あるからだ。だから、依頼を受けてたまたま共闘した相手を承諾なしにパーティーに引き込むなんてことは、普通は起こらない」
「だいたい、パーティーメンバーっていうのは自分の命を預ける仲間だからね。ろくすっぽ知らない相手に自分の命なんか誰も預けたくないでしょ。シャレやノリでヘンな職業の冒険者を仲間にして、ダメだったら追放すればいいとか、そういうのはあり得ないわけ」
「補助魔法の多くは『仲間であること』を条件に、選択的に効果を発揮するものもある。敵味方入り乱れた戦場で、味方の戦闘能力だけ増すやつだな。パーティーメンバーという条件で、個々人に魔力的な通り道を作り、そこを通して魔法を発動させているんだ。逆に言えば、仲間にするということは魔力の通り道が通るということだ。通り道が通った場合、どんな低確率の魔法でも、だいたい無条件で成功する。つまり、無理やり仲間に入れたメンバーとうまく行かなかった場合、どんな危険な魔法が後ろから飛んできてもそれを防御する手立てはない」
「だから『誰かを無理やり仲間にする』なんてことは、普通はしないんだよね」
まぁ一応、味方殺しにも重大な罰則はあるけど、そこはまた複雑になっててね、とアイリスはつけ加えた。
「でも、アイリスさんは旦那様を、その仕組みを使って仲間にしたんですね」
「コウ君が正式に廃業手続きを済ませてなくて助かったよ。さすがに一般人をいきなりパーティーメンバーには加えられないからね」
「……やれやれ」
コウはテーブルに肘をつき、頭を抱えた。




