第五章 囚われの翼
宰相の疑念が強まり、リシェルは「姫」としての檻にさらに縛られる。
一方カティアも、忠誠と恋情の間で揺れる心に苦しむ。
夜、二人は互いの想いを吐露し、あと一歩で結ばれそうになるが――その姿を、何者かに目撃されてしまう。
翌日。
リシェルは朝から政務に追われていた。文官たちに囲まれ、机の上に積まれた書類に印を押す。
だが心は、昨夜のカティアの言葉――「命が尽きるまでおそばを離れない」に縛られていた。
そんな彼女の心を見透かしたように、宰相が口を開く。
「姫様。この頃、近衛騎士カティア殿とのご距離が...その、いささか近すぎるのでは?」
リシェルは息を呑み、目を伏せる。
「......私の護衛です。それ以上のことはありません」
「そうであればよろしいのです。しかし姫様、王国の未来は姫様の振る舞い一つにかかっております。軽率な噂が立てば......」
声は柔らかだが、眼差しは冷たい。
リシェルは笑顔を作り、黙って頷くしかなかった。
その夜。
カティアは訓練場で剣を振り続けていた。
「私は姫様を守る剣。それだけのはずなのに——」
剣先が揺れるたび、心も揺らぐ。忠誠と恋情、その二つが胸を裂いていた。
そこへリシェルが現れる。
「カティア...」
月明かりの下、姫の白いドレスは淡く光を纏っていた。
「もう、耐えられないの。誰も私を自由にしてくれない。宰相も、父も......」
涙を滲ませるリシェルの姿に、カティアは剣を落とした。
「姫様......」
「あなたにだけは、本当の私を見ていてほしい」
その一言で、理性が崩れる。
カティアは駆け寄り、リシェルの手を強く握った。
温もりが伝わり、二人の距離が一気に縮まる。
「......私のすべてを捧げます。あなたがどんな道を選ぼうとも」
「カティア……」
唇が触れそうなほどに近づいた、その瞬間――
鋭い物音が闇を裂いた。
誰かが、訓練場の陰から二人を見ていた。




