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第三章 揺らぐ忠誠

リシェルは宰相の生存と、カティアの危険な任務に心を乱す。

カティアは忠誠を誓いながらも、リシェルの涙に心を動かされる。

そんな中、宰相の部下が北方で活動を再開。

再び出陣するカティア――その背中を見送るリシェルの胸には、

嫉妬と不安、そして“恋”が混ざり合っていく。

王の間に残る冷気が、リシェルの頬を撫でた。

玉座の下、手にした指輪の痕が、まだ赤く残っている。

「カティア……あなたは、私を裏切らないわよね?」

かすれた声は、誰にも届かぬ祈りのように消えた。


執務室の扉をノックする音。

現れたのは、任務を終えて戻ったカティアだった。

「陛下、ただいま戻りました」

その声は凛として、しかしどこか震えている。

リシェルは立ち上がり、歩み寄った。

そして、彼女の肩を掴む。

「宰相は生きていたのね?」

「……はい。しかし、取り逃がしました...し、しかしっ必ずこの手で捕まえてみせます」

沈黙が落ちた。

リシェルの手がカティアの頬に触れる。

「どうして、あなたまで遠くへ行ってしまうの……?」

思わず零れた言葉。

カティアは戸惑い、そして静かに膝をついた。

「私は、陛下の剣です。何があっても……」

「違う! 私は、あなたに“人として”いてほしいの!」

部屋の空気が震えた。

リシェルの頬を涙が伝い、カティアはそれを見上げる。

胸が熱く、痛いほどに締めつけられる。

抱きしめたい――だが、その手を伸ばせば、すべてが壊れてしまう。

その瞬間、扉が開いた。

「……失礼します」

そこに立っていたのはレオンだった。

沈んだ空気を察したように、彼は静かに頭を下げる。

「報告があります。宰相の部下と思しき者たちが北方領で動きを見せたと、早馬が」

カティアは立ち上がり、リシェルの前で一礼する。

「では、私は行ってまいります」

「待って! もう、これ以上危険な目に遭ってほしくない!」

リシェルの声が震えた。

しかし、カティアの瞳は揺るがない。

「陛下の平穏を守るためなら、何度でも剣を振るいます」

その背中を、リシェルは見送ることしかできなかった。

――彼女の胸には、ひとつの恐怖が芽生えていた。

“次に帰ってくるとき、あの人の隣にはレオンがいるかもしれない”と。

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