51. 《ユウキくんの貞操が危険です!》
(話の都合で今回はちょっと短め。すみません)
「ガチ探索……ですか?」
驚きのあまり、オウム返しに問い返してしまった僕に、サツキお姉さんが頷く。
ガチ、という言葉に思わず怯みそうにもなるけれど。まさかトップランクの掃討者であるサツキお姉さんからそんな誘いは貰えるなんて、予想もしていなかったものだから。
同時に、少なからず(嬉しいな)という気持ちも湧いた。
「もちろんガチとは言っても、流石に私が潜れる限界ギリギリの深層へ挑もうってわけじゃない。ユーにとってはかなり危険な場所になるけれど……魔物のレベルが20ぐらいの階層に、一緒に潜るのはどうかと思ってさ」
「それは……僕は足手まといになるんじゃないでしょうか?」
サツキお姉さんの誘いには、正直を言って、とても興味がある。
だけど――僕のレベルはまだ『4』に過ぎないわけで。
そんな僕がレベルが『20』もある魔物に、何ができるとも思えなかった。
「それはないね」
「……そうなんですか?」
「理由のひとつに、ユーは安全な位置から遠距離攻撃ができることがある。魔物に接近する必要がないから、魔物にレベルで大きく劣っていても、その脅威を引き受ける必要がない。魔物と対峙するのは前衛のアタイの役割だからね」
そう告げながら、サツキお姉さんが右腕で力こぶを作ってみせる。
僕よりも太くて筋肉がある逞しい腕は、とても頼もしい。
「ユーには後衛職として見た場合『弾切れがない』という明確なメリットがある。矢弾の類はどうしても荷物になるから、普通はダンジョンでどう節約するかに頭を悩ませるところだけれど。ユーはそういうの、考えなくても良いだろう?」
「あ、はい。それはそうですね」
僕の銃は《学士の衣装》の能力で召喚するものなので、再召喚する度に弾丸が自動的にフル装填された状態になる。
なので弾切れを心配する必要は全くない。
「しかもユーの銃は、味方へ誤射をする心配もないんだから最高だよね。前衛からすれば、後衛から遠慮なくぶっぱなして魔物を牽制してくれて、しかも誤射される危険もないなんて、最高に有難い後衛だよ」
「そ、そういうものですか……?」
「ああ、そういうものだとも」
快活に笑いながら、頷いてみせるサツキお姉さん。
確かに《選別射撃》の衣装異能がある僕は、味方へ誤射することもない。
再召喚で瞬時に武器を装填できることもあり、隙のない牽制が行えるだろう。
《☆貴沼シオリ:ユウキくんを危険な場所に連れて行くのは、同意できかねます》
「だったらシオリも来なよ。アタイたち2人で前衛をやれば、後衛のユーまで魔物を通さないことなんて簡単だろ?」
《☆貴沼シオリ:む……。それは、そうですが……》
ドローン越しに会話する、サツキお姉さんとシオリさん。
シオリさんもまた、サツキお姉さんほどではないにしても、間違いなく熟練の掃討者だから。
よく考えてみると……ここ最近でできた僕の交友関係って、結構凄い人ばかりだなあと改めて思った。
「サツキ先生は、シオリさんのことをご存知なんですか?」
「うん? ご存知も何も、一緒にダンジョンに潜ったことが30回以上はあるよ。お互いに独立して戦える前衛職でレベルも近いから、誘いやすいんだよねえ」
「そ、そんなにですか?」
2人の話し方から、なんとなく面識があることは察しがついていたけれど。
まさかそこまで仲が良いとは、思ってもいなかった。
「……あれ? でもシオリさんのレベルって、確か以前に『20を超えている』程度だとお伺いしたような……。レベル『31』のサツキ先生とは、あまりレベルが合わないんじゃないですか?」
「はあ? お前……自分のレベルをユーにそう言ってんの?」
《☆貴沼シオリ:う、嘘は言ってませんし……》
「レベルが29もある人間が、レベル20ぐらいを装ってんじゃないよ」
「――レベル29⁉」
《☆貴沼シオリ:数日前にもう1つ上がりました……》
「――レベル30⁉」
「おー、おめでと。私たちぐらいになると、なかなか上がらないんだがねえ」
まさか、シオリさんがサツキお姉さんとほぼ同じレベルだなんて。
だとするなら、シオリさんもまた間違いなくトップランクの掃討者の1人だ。
そういえば――以前に両国国技館ダンジョンで配信を行った時に。
シオリさんの名前付きのコメントがあることに気づいた視聴者が、シオリさんのことを『トップランクのソロ掃討者』だと呼んでいたことがあるけれど。
……今にして思えば、あれはシオリさんをよく知る人の発言だったんだろう。
「ユーってそろそろ、高校が夏休みに入るだろう?」
「あ、はい。そうなります」
「だったらダンジョンに1泊で潜るっていうのも良いと思うんだよ。レベル20の魔物が出る辺りだと結構深めの階層になるから、日帰りだと流石に大変でねえ」
「ああ……。それは、そうですよね」
ダンジョン内の移動は階段頼みで、しかもその配置は連続していない。
階層ごとに階段の位置がバラバラで、時間を掛けて1階層ずつ移動することになるので、深い場所まで潜る場合は往路にも復路にもとにかく時間が掛かる。
なので熟練の掃討者には、魔物が棲息していない安全階層にテントを張ってダンジョン泊を行い、複数日掛けて魔物を狩るという人も少なくないようだ。
「ユーのその能力があれば、とても快適なダンジョン泊ができると思うんだよね。それに荷物も沢山持って帰れるから、収入にも期待ができる。なのでユーを誘っているのは、正直そっち方面の能力を期待してのものでもあるんだ」
「なるほど」
つまり、必ずしも戦闘力に期待されているわけではない。
でも――それはそれで当然のことだし、有難いことだとも思う。
パーティでの探索に貢献する方法は、戦闘が全てというわけじゃないからね。
他に役立てる点があると評価して貰えるのは、純粋に嬉しいことだ。
「そういうことでしたら――泊りがけでのダンジョン探索、ぜひお付き合いさせてください!」
「おっ、ぜひ頼むよ。じゃあユーが夏休みに入った後に、適当な日にね」
「はい! よろしくお願いします!」
レベル20程度の魔物は、サツキお姉さんやシオリさんにとってはかなり格下の魔物だけれど、僕から見れば遥かに格上の魔物。
そういう魔物を相手に、サツキお姉さん同伴の上で遠距離戦闘の経験が積めるというのは、願ってもない機会だ。
もったいなくて、断るなんて有り得ないよね。
《☆貴沼シオリ:わ、私も行きます! 一緒に行きますからね!》
「はっはっ。別に無理はしなくてもいいんだぞー? シオリが来ないなら、ユーのことをアタイひとりで独占しちゃうだけだからなー?」
《☆貴沼シオリ:サツキと2人で泊まらせたら、ユウキくんの貞操が危険です!》
「あっはっはっは‼」
「ええ……?」
僕の貞操が危険、って……。
一応僕は男なんだから、心配するなら普通は逆で、サツキお姉さんの側なんじゃないだろうか。
……いや、まあ。
僕の細腕でサツキお姉さんをどうこうできるとは、思わないけどさ。
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ローファンタジー日間14位、週間11位、月間13位に入っておりました。
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