43. 《全然違うじゃん⁉》
「どうしたんだい?」
思わず驚きの声を上げてしまった僕の顔を、訝しげに覗き込むサツキお姉さん。
近い距離で視線が合ったことで、一瞬僕はどきりとしてしまう。
「え、えっと……。ちょっと、確認のために武器を出してみますね?」
そう告げてから、僕はこの衣装を着ている時にのみ召喚可能な『IP45』という武器を、右手に取り出すことを意識してみる。
すると――僕の右手に現れたのは、真っ白な『拳銃』だった。
どうやら『IP45』とは、この拳銃の名前らしい。
つい先程まで、剣とか鎚矛とかを使って戦っていただけに……。
いきなり拳銃が召喚できるようになった事実に、どこか理解が追いつかない。
ま、まあ……確かにファンタジー色の強いRPGとかでも、案外『銃』は登場することが少なくなかったりするけどさあ……。
あるいは銃の中でも、もっと古めかしい――マッチロック式やフリントロック式の骨董品なら、まだ受け入れられたような気もするんだけれど。
段階を大きくすっ飛ばして拳銃なのはどうなんだろう……。しかも回転式拳銃ではなく、箱型弾倉で装填するタイプのものだ。
サイズ感から察するに、単列式弾倉のようだけれど。それでも子供同然の体躯になっている僕の手には結構大きめの銃だ。
銃口部には判りやすく抑制器っぽい器具も付属している。ダンジョンの内部だと発射音が響きそうなので、これは地味に有難い。
「まさか、拳銃とはねえ……」
《ここに来てまさかの近代武器だよ》
《マガジン式なら装填数も多そう》
《↑いや、これはダブルじゃないから、多くても10発ぐらいの筈》
《パペットドッグさん、にげて》
《普通に現代の軍隊でも使ってそうな、洗練されたデザインだね》
《照準器もセーフティも普通にあるね》
《召喚武器って『ダンジョン産』の扱いなんだよね?》
《↑そう。もちろん魔物にも有効》
《それは絶対つよい》
《リロードも召喚し直すだけでできるのでは?》
《そうかも……》
《頼もしいけど、味方への誤射だけは気をつけんとあかんな》
《ダンジョンの中では跳弾も怖いしな》
コメントで言っている『跳弾』とは、狙った対象に命中しなかった弾丸が、硬い壁や金属板ぶつかって跳ね返り、意図しない軌道を描くこと。
ダンジョン内の通路は比較的狭く、また壁や床、天井などが硬い石で出来ているため、跳弾が非常に怖い環境だと言える。
ただ幸いなことに、僕の場合はあまり気にしなくても良さそうだ。
「僕の射撃は『味方と認識している対象』には当たらないそうです。なので多分、跳弾も気にしなくていいんじゃないかな」
《なにそれズルい》
《敵には当たるけど、味方には当たらないのか》
《それって、自分にも当たらないの?》
《自分が『味方』に含まれるか次第だな》
「……そこは判らないですね、どうなんでしょう? ただ、仮に自分には当たってしまうとしても、僕が受けたダメージは衣装が肩代わりしてくれるので」
《そっか、怪我したりすることはないんやね》
《ユウキくんが安全なのが一番です!》
《↑それはそう》
せっかく新しい武器が使えるようになったんだから、試してみない手はない。
とはいえ、性能も何も判らない実銃で、いきなり実戦というのも危ないかな?
「すみません、サツキお姉さん。拳銃を試してみたいんですが、もし魔物に接近されてしまった時には、対処をお願いしても良いですか?」
「なるほど、近づかれずに倒せるかどうかを練習したいわけだね? そういうことなら、もちろん前衛をやらせて貰うよ」
慣れない射撃に集中すれば、間違いなく防御は疎かになる。
なので、ここは銃を使う後衛らしく、お姉さんを頼ることにしてみた。
熟練者のサツキお姉さんが前を張ってくれれば、攻撃にだけ専念できるからね。
というわけで探索を再開して、ダンジョン内を歩くこと数分。
再びサツキお姉さんが魔物の気配を捉えたので、そちらへ2人で接近する。
通路の曲がり角の向こう側を先を覗き込むと、20メートルぐらい先で、2体のパペットドッグのんびりしている姿が確認できた。
今なら問題なく先手を打てそうだ。
「いつでも撃って構わないよ。もし接近されても任せてくれればいい」
「ありがとうございます。頼りにしてます」
小声でそう言葉を交わした後、僕は曲がり角の先へ踏み込む。
肩の高さで銃を構えると――なぜか拳銃に付いている照準器を覗き込むまでもなく、まるでFPSゲームのようなレティクルが、僕の視界に投影された。
意図的の銃口の向きを僅かに逸らすと、僕の視界に投影されているレティクルの位置もまた、それに応じて適宜変化する。
――いま引き金を引けば、このレティクルの位置に命中する。
そのことが感覚的に理解できるので、不安はない。
「撃ちます」
小声でサツキお姉さんにそう伝えてから、僕は引き金を引く。
パシュッ、というかなり抑制された発砲音と共に、銃弾は僕がレティクルを向けた先――パペットドッグの頭部へと正確に命中した。
弾丸が衝突した強い衝撃に、パペットドッグの身体が弾き飛ばされる。
射撃の反動は、予想していたよりも大したものじゃない。
《学士の衣装》を着ている時には〈銃撃術Ⅰ〉のスキルが得られるので、その効果に『反動軽減』みたいなものも含まれているのかな?
セミオートであるため、即座に次弾の準備が済んでいる銃を、再び僕は撃つ。
今度は隣に居たもう1体の頭部に正確に命中し、同様に相手を弾き飛ばした。
2体のパペットドッグへ、交互に僕は銃弾を撃ち込んでいく。
銃弾は全て、魔物の頭部へ狙い通りに命中する。
それぞれ4発ずつ命中させたところで、2体のパペットドッグから頭部パーツが捥げ落ちてしまい、魔物の身体が光の粒子へと変わった。
「す、凄まじいね……!」
称賛と驚きが入り混じった声で、サツキお姉さんがそう声を上げる。
一方で僕は――拳銃の実用性について、期待以上の部分と期待外れの部分とを、同時に感じていた。
《すっげええええ!》
《一方的な戦闘じゃん!》
《犬型なのに近づくことすらできなかったぞ》
《なんでそんな正確に頭に当たんの⁉》
《命中率100%だけでも凄いのに、ヘッドショット率100%て》
「あ、僕はRPGが一番好きではあるんですけど、ゲームならジャンルを問わずにわりと何でもやるので、FPSとかTPSも結構できるんですよ」
《いやいやいやいや⁉》
《全然違うじゃん⁉》
《だからってこんなに当たるかね⁉》
そう言われても、実際に思ったように当てれている、としか言いようがない。
射撃の反動が思ったよりも軽いのと、レティクルが表示されているせいなのか、なんだか――本当に、ゲームの中で銃を撃っているような感覚だ。
ジャイロ操作のゲームで銃を撃つのと、感覚的にほぼ同じとでも言うか。
「銃ってわりに、意外と威力は低そうだったね」
「それは僕も全く同じことを思いました。まさかパペットドッグを倒すのに4発も撃ち込む必要があるとは……」
先程《神官の衣装》で戦った時には、鎚矛で2~3回も殴れば、その時点でパペットドッグを討伐することができていた。
つまり拳銃の威力は、僕が鎚矛で殴るのよりも明らかに劣っている。
正直を言えば、拳銃なら鎚矛よりも遥かに高い威力が出ると期待していた。
僕は[筋力]の能力値が低いぶん、近接攻撃の威力が低い筈なので尚更だ。
それだけに、この点に関してはかなり残念という気持ちがある。
一方で、僕の期待を上回っていたのは、銃弾の衝撃力。
大型犬に匹敵するサイズがあり、木製でもあるパペットドッグの身体は、重量がそれなりにある筈なのに。銃弾の一発一発が、命中するごとに魔物の身体を大きく弾き飛ばしていた。
そのお陰で、2体のパペットドッグに対して交互に射撃するだけでも、全く近寄らせることなく討伐することができている。
これは――状況に応じて、かなり便利に使えるんじゃないだろうか。
例えば、魔物の足を撃ち抜くことで姿勢を崩したり、あるいは人型の魔物が手に持っている武器を狙い撃つことで、それを弾き飛ばしたりとかね。
正確な射撃が思ったよりも容易に出来ているだけに、活用もしやすそうだ。
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ローファンタジー日間10位、週間23位に入っておりました。
あと今回は日間総合267位に入ってました。驚愕。
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