12. ふ、ふーん……。ゆ、ユーくんって、そうなんだね……。
「ユーくんはもう、本免許には受かったの?」
「いえ、まだですね。祝福レベルアップの影響で寝込んでた期間もあるので……」
「あ、やっぱアンタも高熱が出たんだ。1週間続いた?」
アリサさんからそう問われ、僕は少し驚く。
レアな天職を得た人は高熱で1週間ほど意識を失う。それは試験に関わる内容でもないため、あまり広まっていない事実だからだ。
実際に僕も、当事者になるまではそんなこと全然知らなかったし。
――でも、考えてみれば当然か。
高熱が出るのは僕のような『異端職』だけでなく、『希少職』の人も同じ。
つまりマナさんが同じ目に合ったから、アリサさんは知っていたわけだ。
「続いたらしいです。意識を失っていたので実感はなくて……気づいたら1週間が経ってたって感じでしたが」
「大変だったわね……」
「あ、そっか。ユーくんも希少職だし、あーしと同じ体験したんじゃん?」
「マナさんはその時、やっぱりアリサさんに助けられた感じでしたか?」
「うん、そーそー! 全然動けなくなったあーしの肩をアリちゃが支えて、必死に地上まで連れてってくれたんだよ! やー、あーし愛されてるぅ♡」
「……ホントに大変だったんだからね。二度とゴメンでしょ」
ややぶっきらぼうな調子で、アリサさんはそう言ってみせるけれど。
その頬は真っ赤に染まっているし、口元が軽くにやけていた。
どうやら彼女は、感情がわりと顔に出てしまう性分らしい。
「それでー、ユーくんはどうだったじゃん?」
「僕は単身で行動していましたので、正直かなり危なかったと思います。もしダンジョンの中でひとり倒れていれば、ピティに殺されていたと思いますし……。
ただ幸いなことに、偶然にもギルド職員のお姉さんと一緒にいる時に祝福のレベルアップを経験することができましたので、助けて頂くことができました」
「おおっ、思った以上にヘヴィーじゃん……」
「それでよく助かったわね……。無事で良かったわ」
そう告げて、僕の頭を優しく撫でてくるアリサさん。
元々こちらが年下ではあるし、今の僕は更に子供同然の身体になってしまった身ではあるけれど。急に頭を撫でられるのは、男としてはちょっと恥ずかしい。
「――って、ごめんなさい。勝手に頭を撫でられるのは、流石に嫌よね」
「あ、いえ。別に嫌ということは無いんですが……。そうだ、多分お二人に誤解されていることがあると思うので、今のうちに解いておいてもいいですか?」
「誤解? あーし達から?」
「お、なになに? 聞かせて欲しいでしょ」
「実は僕、マナさんと違って『希少職』じゃないんですよ」
心のなかで(出ろ)と念じて、僕はステータスカードを取り出す。
出現したのは『金色』に光るステータスカード。それは僕が希少職ではない、何よりの証明になる筈だ。
「――わ、凄っ、金色じゃん! アリちゃ、凄いよ! SSRだよ!」
「す、凄いのは同意するけど、スマホゲーと一緒にするのはどうなのよ……」
カードを目の当たりにした2人は、とても驚いた表情だったけれど。
興奮するマナさんを見たことで、却ってアリサさんは冷静さを保つことができたみたいで。「これって一番レアな『異端職』よね?」と僕に訊ねてきた。
「はい、異端職のものです」
「あー……。なるほど、だからそんなに若返ってるわけだ。17歳って話なのに、どう見ても9歳ぐらいにしか見えないもんね」
祝福のレベルアップで発生する若返りの効果は、天職の希少性によって決まる。
そのことをアリサさんも知っていたんだろう。彼女は納得したかのように、何度も頷いていた。
「あーしは『希少職』のカードを貰って、エルフになっちゃったけど。ユーくんの場合は、どんな種族になっちゃったの?」
「うっ……」
マナさんに問われ、僕は思わず返答に窮する。
だけど、この状況で言わないという選択肢はないだろうから。観念したように、僕は正直に答えることにした。
「さ、夢魔、です……」
「……えっ? さ、サキュバス? 淫魔の?」
「多分そうだと思います……。アリサさんはご存知なんですね」
「ラノベとかに出てくるから、知ってはいるけれど……。あれって魔物でしょ?」
「あ、はい。異端職を得ると、種族が『魔物』になるらしくて」
アリサさんが僕の身体をじっと見ながら、顔を真っ赤にしてみせた。
……うん。多分これは、サキュバスがどういうものなのか、知っているからこその反応だろう。
顔を赤くしている彼女には悪いけれど……。自身がどんな魔物になったのか、説明しなくて済むという意味で、僕はほっと安堵の息を吐いていた。
「ねーねー、ユーくん。サキュバスってなにー?」
「うっ」
――にも拘わらず、別の方向から質問がぶつけられた。
だらだらと、背中に嫌な汗が流れる。内容が内容なだけに、女性であるマナさんに説明するのは、どうしても憚られるからだ。
「ぼ、僕が言うとセクハラになるので……。アリサさんから聞いてください」
「そーなの? ねーねー、アリちゃ。サキュバスってなにー?」
「うわ、こっちに飛び火した⁉」
マナさんから無垢な瞳で訊ねられ、アリサさんが大きく狼狽える。
それでも、別に嫌がらせで訊かれているわけじゃなく、純粋な疑問なんだと判るからだろう。
アリサさんは、僕から3メートルほど離れた場所にマナさんを引っ張っていき、そこで彼女に耳打ちしながら説明してくれているみたいだった。
ほどなくマナさんの顔がちょっとずつ赤くなっていき――。
やがて綺麗に、真っ赤に染まる。
「ふ、ふーん……。ゆ、ユーくんって、そうなんだね……」
ちらちらとこちらに視線を向けながら、そう言葉を零すマナさん。
その反応がナイフのように、僕の心を的確に抉ってくる気がした。
「えっ……⁉ えっちな、夢、を……? な、なにそれ、凄いじゃん……」
何度も何度も、頻りにちらちらとこちらを見てくるマナさん。
いっそ殺してくれないかな……と。人生でそう思ったのは、初めての経験だ。
(短めです。すみません)




