表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/61

01. 僕はRPGが好きだから。

男主人公・現代ダンジョンものです。

途中から女装要素が多分に含まれますのでご注意下さい。

(※BL要素は一切ありません)

 


     [1]



「すまんっ、ユウキ! 今週末のダンジョンに行けなくなっちまった!」


 週末を明日に控えた金曜日の登校直後。

 両手をパンッと打ち鳴らして、親友の一条ダイキ(大喜)が頭を下げてきた。

 180cmはある長身を、深々と折り曲げての謝罪。

 仲の良い親友相手であっても、謝るべきことはしっかりと謝る。そんな彼らしい誠実さが現れた態度だ。


 とはいえ、流石に3週も連続で予定をキャンセルされては、内心で(またか)と思わなくもない。

 いや、仕方がないのは判っている。ダイキの両親は町中華を経営しており、近所でもそれなりに評判の店だ。

 週末になれば混み合うことが珍しくないから。一ヶ月ほど前から地味に腰を悪くしている親父さんに調理の助手を頼まれれば、嫌とは言えないんだろう。


「はぁ……。いいけど、じゃあ予定はまた来週に延期でいいの?」

「いや、すまないが来週も無理そうだ。親父が腰を悪化させるだけじゃなく、腱鞘炎まで併発しちまってな。しばらくは俺も居ないと店が回らないと思う」

「普段から鍋をあれだけ勢いよく振ってれば、無理もないよ……」


 一度持たせてもらったことがあるけれど、中華鍋というのは本当に重い。

 途切れない客足を満足させるために、あの重さの鍋を営業中ずっと振っていれば、手や腰の負担は相当なものだろう。

 その両方を悪くしてしまうというのも、頷ける話だった。


「ん、まあ了解したよ。そういうことなら今週もひとりで潜ってみるさ」

「えっ。もしかして先週末もその前も、単身(ソロ)でダンジョンに潜ったのか?」

「そうだけど?」

「おいおい、大丈夫かよ……。3週連続で都合が悪くなっている俺が言うのもなんだが、ダンジョンってのは危ない場所だろう? あんまり無茶な真似をするのは、やめて欲しいんだが」


 眉を落として、心配をありありと浮かべた表情でダイキがそう告げる。

 ダンジョンの中へと潜り、魔物を狩る人のことを『掃討者』と呼ぶんだけれど。僕やダイキが持っている『仮免許』の掃討者資格だと、そもそも危険度が高い場所には潜れない。

 なので、友人に心配して貰えるのは嬉しいけれど……。別に身を案じて貰うほどではない、というのが正直なところだった。


「一緒に講義を受けたんだから、ダイキも知ってるでしょ? いま僕が討伐しているのはピティって魔物で、戦っても危険は殆どないんだよ」

「あー……。でっかいウサギの姿をした魔物だっけ?」

「それそれ」


 僕がダイキと一緒に東京都墨田区にある日本掃討者事業協会、通称『掃討者ギルド』の施設を訪問して、掃討者資格の仮免許を取得したのは3週間前のこと。

 資格自体は即日で取得できたんだけれど。その際には50分の講義を2つ受講した上で、試験も受ける必要があった。


 ピティというのはその時の講義で説明があった魔物だ。

 ダイキの言う通り、見た目は大型犬ぐらいのサイズがある兎の姿をした魔物で、ダンジョンへの侵入者を発見すると大ジャンプし、踏みつけ攻撃を仕掛けてくる。


 ……と聞くと、危険そうに思えるかもしれないけれど。このピティって魔物は、初心者でもわりと安全に狩れる魔物として知られている。

 まず身体が大きくて重たいせいで、動きが非常に遅い。跳躍力だけはあるけれど走るのはとても遅く、全体的に動作は緩慢としている。


 とはいえ体重が10kgぐらいあるから。2メートルの高さまでジャンプして、こちらの頭部を踏みつけようとしてくる攻撃をマトモに喰らえば、大怪我をすることは充分に有り得るんだけれど……。

 向こうはジャンプした時点で方向転換ができないから、それを見てから左右どちらかに身を躱せば、まず攻撃は当たらない。ピティは頭が悪いので、こちらの動きを先読みして狙いを定めてきたりはしないからだ。


 そして極めつけの欠点として、ピティは着地ができない(・・・・)

 充分なジャンプ力はあるくせに、着地は必ずお腹から『ビターン!』と、地面に叩きつけられてしまう。

 なので攻撃を避けさえしていれば、ピティは自分が繰り出した攻撃――を避けられて地面に叩きつけられることで、勝手に自傷していく。

 3回も攻撃を避ければ、それだけで倒せてしまうぐらいだ。


「もう講義で聞いた内容はうろ覚えだが……確かピティを100体ぐらい倒すと、例の『祝福のレベルアップ』が発生するんだったか?」

「そうだね。先々週と先週で、合計80体ぐらい倒してるから……」

「今週もダンジョンに潜れば、ほぼ確定でレベルアップか! だったら是非帰りにウチの店に寄ってくれよ。お祝いにご馳走ぐらいするぜ?」

「え、ホントに? じゃあ無事にレベルアップできたら寄るよ」


 祝福のレベルアップというのは、レベルが『0』から『1』へと成長する際にだけ起こる、特別なレベルアップのこと。

 レベルアップと言っても、RPGでよくあるように『経験値(EXP)』を貯めて成長するわけじゃない。現実のレベルアップは『魔力』を貯めることで発生する現象だ。


 ダンジョンに棲息する魔物は、身体が魔力で構成されているという。

 その事実を裏付けるように、ダメージを受けて存在を維持できなくなった魔物は光の粒子となって霧散し、死体も残さず消滅する。

 この光の粒子こそが『魔力』らしい。そして現場で霧散した魔力の一部は、魔物を討伐した掃討者の身体の中に取り込まれるんだとか。


 掃討者の身体に充分な量の魔力が蓄積すると、レベルアップが発生。

 レベルアップに必要な魔力量には個人差があるらしいんだけれど。人生で初めて経験するレベルアップ――『祝福のレベルアップ』だけは必要な魔力量が固定で、ピティをちょうど100体討伐すれば発生することが判っている。

 なので僕の場合は、あと20体ほど倒せばレベルが上がるわけだ。


 攻撃を避けるだけで倒せるピティは、討伐に大して手間も掛からない。

 あと2時間もダンジョンに潜れば、余裕で達成できるだろう。


「ユウキが手に入れるのは、どういう天職なんだろうな?」

「こればっかりは運だからね。あまり期待しないようにしてるよ」


 祝福のレベルアップを経験すると、誰でも『天職』を得ることができる。

 これはダンジョンを攻略する際に便利に活用できる適正、または才能の種のようなもので、RPGによく登場する職業(ジョブ)の概念に近い。

 いわゆる〈戦士〉とか〈魔法使い〉とか、そういうヤツだ。もちろん〈戦士〉の天職を得れば近接戦闘が得意になり、〈魔法使い〉の天職を得れば『魔法』という奇跡を起こす能力を身につけることができる。


 ただし、オンラインRPGの職業(ジョブ)と決定的に異なる点がひとつある。

 天職は自由に選べない、ということだ。

 いや、実際にはレベルアップ時に幾つかの選択肢が提示されて、その中からひとつを選ぶ――ぐらいの自由度はあるらしいんだけれど。

 その選択肢の中に、自分の望む天職が入っているとは限らない。

 『魔法』が使えるようになりたいのに、〈戦士〉や〈射手〉のような、魔法に縁がない天職しか選べないということは、普通にあるらしいのだ。


(……まあ、実際は〈魔術師〉や〈魔法使い〉のほうがハズレらしいけど)


 〈魔術師〉の天職を得れば『魔術』を、〈魔法使い〉の天職を得れば『魔法』を扱うことができるようになる。

 これだけを聞けば奇跡に近い事象を起こせる〈魔術師〉や〈魔法使い〉にこそ、誰だってなりたいと考えそうなものだけれど。

 だけど――現実では〈魔術師〉や〈魔法使い〉は不遇な天職らしい。


 現実世界はゲームと異なり、一晩眠れば全快する『MP』なんてものはない。

 代わりに、魔術や魔法を行使するたび消費するのは『魔力』になる。

 そして『魔力』はダンジョンに棲息する魔物を討伐することで、少しずつ身体に蓄積していく貴重な資源(リソース)だ。

 気軽に消費できるものじゃないことは、言うまでもない。


 そもそも、魔力の蓄積量はレベルアップに影響するため、それを消費することはRPGで言うなら『経験値(EXP)』を燃やす行為も同然。

 魔力を使いすぎたからといって、流石にレベルが低下する、ということはないみたいだけれど。とはいえ魔力を消費するたびに、次回のレベルアップが確実に遠のいていくのも事実。

 なので〈魔術師〉や〈魔法使い〉などの天職を得た人は、自分や仲間の身が窮地に陥った時にだけ魔術や魔法を使う程度で、普段は魔力の消費をケチり、杖などの武器で魔物を殴って戦闘しているそうだ。


 でも当たり前だけれど、武器で殴って戦うなら〈戦士〉のような近接系の天職を持つ人のほうがずっと強い。

 〈魔術師〉や〈魔法使い〉が不遇職扱いされるのは、そのためだ。


「どの天職を手に入れたいか、希望はあるのか?」

「んー……」


 ダイキの言葉に、僕は少し頭を悩ませる。

 不遇だと言われていても。魔力を消費するだけあって〈魔術師〉や〈魔法使い〉の人達が緊急時に発揮する戦闘能力はとても高い。

 ダンジョンは仮免許でも入れるような初心者向けの場所を除けば、命の危険がそれなりに伴う場所。

 なので緊急時に、本来以上の能力を発揮できたお陰で無事に生き延びることができた、なんていうのはよくある話らしい。


 そのお陰なのか、〈魔術師〉や〈魔法使い〉の天職を持つ人達は、ダンジョン内での死亡率がかなり低かったりする。

 天職ごとの優遇・不遇は、世間で侃々諤々に議論されているけれど。結局はどの職業にも、良いところもあれば悪いところもあるんじゃないだろうか。


「僕は特にこだわりはないかな。どんな天職を貰ったとしても、使い込んでいるうちに愛着が湧いて、好きになれそうな気がするし」

「なるほど。そういうスタンスは、いかにもユウキっぽいな」

「……それは褒めてるの? 馬鹿にしてるの?」

「褒めてるよ。少なくとも俺にとっては好ましいものだし」

「そっか、ならいいけど」


 ダンジョンに棲息する魔物は、適宜(てきぎ)間引かないと数が増えてしまう。

 そして数が増えすぎたダンジョンからは、魔物が溢れることがある。


 そのため、現代において掃討者は社会に不可欠な職業エッセンシャル・ワーカーのひとつとされている。

 充分な掃討者が居ない地域の住民は、魔物の氾濫に脅えることになるのだ。


 僕はダイキと違って運動が得意じゃないし、筋肉も付いていない。

 高校生なのに、よく中学生に……下手をすれば小学生にも見られるぐらい小柄な体格だから、戦いに向いているとも思えない。

 それでも――もし得られた天職が自分に向いていて、魔物を狩ることを生業にできそうだと思えたなら。僕は掃討者という仕事を、真面目にやってみたいと思っている。


 僕はRPGが好きだからね。

 魔物を倒して自分自身のレベルを上げる。そういうのが現実世界で実際にできると言われれば、やっぱり興味があるのだ。


 無謀かもしれない。そんなことは僕自身が一番思ってる。

 それでも一度、挑戦ぐらいはしてみたいんだ。





 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ