プロローグ
「ああ、もう朝か。」
俺は篠宮悠斗。先岳中二年、男子。
さっきまでやっていたゲームアプリをとじると、俺のi-one15(スマホ)はホーム画面へと移った。
7/25 5:34、今日の天気は晴れ。今は夏休み期間中なので、こんなに早く起きなくてもいいのだが、俺は慣れるともう早く起きられてしまう性質なのであった。
「はぁ、今日も休みか。することねぇな」
なんで俺がこんなにダルそうなのか、いぶかしがる読者も少なくないだろう(実は少ないかもしれない)。でも、それについて説明するのには、少し時間がかかる。
俺も元は、普通の、いや好奇心旺盛な子供だった。そして、俺は才気に溢れていた。普通の人ならば、ここで自分を「才気に溢れていた」と表現するのに少しは躊躇うだろう。だが、俺はそうではない。本当にずば抜けた才能があったから。
親や先生からは。
「今日も100点とったの。えらいねえ。」
「リレーでの活躍、見てましたよ。アンカーでの大逆転勝利とは、本当に素晴らしい。」
周りには、俺の文武両道さを肯定してくれる大人がたくさんいた。
そして、友達からは。
「お前が鬼だったら、誰も逃げ切れねえよ。やっぱ悠斗はバケモンだな。」
ゲームをしてたら、
「エイム良すぎんか?お前。チート使ってんじゃねぇの?マジですげえなあ。」
顔を赤らめた幼馴染からは、
「悠斗くん、好きなの。付き合ってくれない?」
そんな感じで、俺はもう手に入れたいものがなくなってしまった。そんな、意欲というもののない日常には興味がないので、俺はただ毎日を惰性で過ごすだけのロボットになってしまったというわけだ。
思索にふけっていると、おもむろに怒声が飛んできた。
「おい、悠斗、ポスト見てこい」姉の悠花が俺に言った。
「わかったよ」
そして俺はポストに手を突っ込んだ。そこには数枚のチラシと新聞が入っていた。
今考えると、それが運命の境目だったのかと思う。
その次の瞬間、俺はその中の一枚のチラシを見て目を細めていた。
「集団、短期留学...?」
俺は違和感を抱いた。このチラシに興味を持ってしまった自分を見つけたからだ。
元々そんな些細なことには興味がない俺が、交換留学などに興味を示すはずがない。
じゃあ、この胸の高鳴りは、心のドキドキは何だ。
おれは、数日ぶりに餌にありついた犬のように、むさぼるように日常に舞い降りた一枚の天使からの手紙を読み始めた。
セブ島で、14日間、15万円ちょっと。期間は8/1から18か。夏休み中に終わるし、これくらいなら、母さんに頼んだらイケるんじゃないか。ただ、うちの母さんは反対すると決めたらもうなんと言っても聞かないから、そこだけは、計画を練らないと。勝負は、今日の放課後。
いま居間には、呆けたような顔の俺と慈愛に満ちた表情の母さんがいる。どうして、こんな状況なのか、分かってもらうためには数分前に時間を戻さなければいけない。
「母さん、俺、短期留学に行きたいんだ。」
俺が選んだ方法は、まさかの正面突破だった。今考えると、もっといい方法があったと思う。俺って案外頭が悪いのかもしれない。
「いいわ。」
「え?」
聞こえてきた言葉に、俺は耳を疑った。
「だから、いいって言ってるのよ。最近何にも意欲を示さなかったあんたに、やりたいって思うことが見つかったのよ。それが私には嬉しかったの。」
聖母かよ、と思った。そして、今日授業をほぼ聞かなかった代わりに考えていたいろいろな計画が脳内でガラガラと崩れていく(もちろんいい意味で、)音を聞いた。
そして、こんなあほらしい顔をしている今に至る。
「母さん、案外俺のこと気にかけてくれてたんだな。ありがとう。」
「当たり前よ。ただ、行くからには楽しんできてちょうだい。」
ただ、あの時の俺はあまりにも甘かった。あのチラシは、天使からの手紙なんかじゃなかった。それをを見たときのあの違和感を忘れずにいればよかった。そうすれば、、、、、、、、、
集合場所として指定されていた空港につき、そこにいる面々を見回してみると、俺みたいな学生が多そうなことに気づいた。こいつらと生活を共にするのか、と思うとわくわくと少しの緊張に胸を覆われた。そして、ガイドからの説明を受け、そこにいた40人(自分含め)と飛行機へ向かった。
そしてその後飛行機に乗り込むところで、俺は倒れた。そして、そこからの記憶が俺にはない。
しかし、ついた時のことは鮮明に覚えている。
「ゲームの島、ナイトメア・アイランド...??」