わたしたちの事情
なんか思い付いて書きました。
特に落ちもないのに残酷な描写ありです。
苦手な方はブラバしてください。
わたし、メルベルは戦災孤児を拐った女衒に売られたことで幼少から奴隷商の商品として育てられました。
市内戦闘により火が放たれ、倒壊した家の中で奇跡的に生き延びたものの、何故、あの時に両親とともに死ねなかったのかと思わない日はありません。
その時に顔に負った傷痕から、わたしは売れ残り、奴隷商の元で最低限以下の食事で下働きにこき使われる日々がすこし変わったのは、わたしを買った旦那様の存在があってこそです。
異界からの渡り人で、異能の持ち主だという旦那様は、背が低めなことと、幼い顔立ちで成人前の子供に見えましたが、実際には成人男性でした。
顔の傷痕を不思議な力で消したあと、旦那様はこんなことを言いました。
「さぁ、もう好きに生きていい。奴隷からは解放するから、君は自由だよ」
意味が分かりませんでした。
やっと買い手がついて、これからは旦那様のもとで働くのだと思っていたら、突然に解放すると言われたのです。
わたしに死ねと言うことなのか。
「旦那様、わたしは傷痕があり、高級奴隷としての教育は受けていません。精々が家事をこなし、多少の肉体労働がこなせる程度、勿論、蓄えもありません。自由人になったとして税を払うこともできません。早晩垂れ死ぬことになります」
学の無いわたしには回りくどく言い替える頭もありません。思ったことをそのまま口にしたわたしに、旦那様はわたしの手を取り。
「お金なら幾らでも援助しよう。大丈夫だよ、自由にやりたいことをやって生きればいい。家がないなら、僕の拠点でしばらく過ごせばいいさ」
「ならば、旦那様の奴隷のままにしてください。奴隷の身分なら税を払うことはありません。人では無いからです。旦那様は所有する奴隷が財産とされますから、人頭税をとられますが、その分と衣食にかかる分は働きます」
この国では身分に応じた税があります。
商人も農民もそして、士農工商の身分の外にあり、危険な仕事に従事し、日銭を稼ぐ「自由人」たちも額の違いがあれ「税」を納めるのですが、奴隷だけは「人」でないために支払いの義務がないのです。
旦那様は渡り人として「自由人」の扱いで、ギルドから仕事を斡旋されているようですが、旦那様は稼ぎの良い「高難度の依頼」ばかりをこなし、下手な豪商よりも私財がありますが、これは特例と言っていいほどに少ないケースなのです。
はっきり言って、奴隷のまま、生きる方が遥かに楽ですし、この世間知らずでお人好しな旦那様なら、お小遣いもくれるでしょう。
なんとしても、解放されないようにしなければ。
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脛に矢を受けて、そのまま捕虜になったのはフリーの傭兵として受けた仕事の最中だった。
俺はグリッサベル、売れ残り仲間のメルベルとヒュカベルとたまたまベルとつく名前だったもんで、奴隷商から3ベルなんて呼ばれてたのは嫌な思い出だ。
捕虜として捕らえられて、身寄りもなく帰属するところもないフリーの傭兵だった俺はあっさりと奴隷商に売り飛ばされた。
二束三文で売られた俺は矢傷の手当てもされずに放置され、化膿し血が死んだ足が壊死した後は、ろくに麻酔もせずに足を大鉈で切り落とされた。
止血のために巻かれた布に安い酒をぶっかけただけで床に転がされ、高熱に魘されながらも、獸人の生命力のおかげか生き残った。
とはいえ、武力だけが売りだった俺が、右足の脛から下を失い、 義足とは名ばかりの棒っきれを引っ付けただけの状態ではろくに動くことも儘ならない。
捕らえられたこの国じゃ獸人は汚らわしいと差別されてて、自由人が戦闘関連の依頼に盾替わりに買うのが関の山とくれば、俺はゴミ同然だった。
奴隷商としては好事家が癖の解消に買い取ってくれないかと考えていたようだったが、何の因果か、お人好しの渡り人に売れ残り仲間共々買われた時は、異界の男の癖を疑ったもんさ。
なんぞ良くわからん能力で無くなった脛から下を再生してくれたことには感謝しか無いが、そのまま解放すると言われて面喰らった。
正直にいやー、俺は傭兵として再起すりゃ、一人でもやり直せるが、といって数年のブランクはすっかり体を鈍らせちまってるし、片方の足がなかったんで、左右の体のバランスもだいぶおかしくなっちまった。
戦仕事に復帰するには年単位で鍛え直さなきゃいけないし、正直、フリーの傭兵家業で身入りがいいと踏んだ仕事で情報収集を怠り、無謀な作戦で前線に放り出されて囮扱いされて、孤軍奮闘するはめになったのが最後の仕事だ。
その結果が片足を失って奴隷落ち、もう傭兵はこりごりって思いもあるが、他に出来る仕事もない。
出来れば、メルベルに教わりながら家事をこなして身を立てる算段が立つまでは奴隷として生きてたいってのは虫がいい話かね。
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わたしは呪われていました。
呪った相手はわたしの両親でしたが、それは愛情ゆえでした。
エルフの種族間抗争に破れたウッドエルフの族長だった父たちと新天地を求めての亡命中に、わたしたちは人族の領域で襲われ、捕らわれてしまいました。
男たちは殺され、女ばかりが生け捕られたのですが、父と母は捕らえられたわたしに呪いをかけ、その術式のために命を捧げてわたしの目の前で灰となりました。
ウッドエルフの族長の娘、わたしヒュカベルは、悪意を持って近付くものがわたしに触れることができず、無理に触れたものは毒に犯され死にいたる呪い持ちになったのです。
ですが、そのおかげで奴隷商に売られたあとも、買い手がついてもすぐに出戻ってを繰り返し、ついに売れ残りとして長く奴隷商の館に留め置かれることになりました。
害意を持つだけでなく、実際にわたしを殺そうとすれば、即座にそれが反転するために、始末してしまおうと考えた奴隷商の手の者たちは哀れにも還らぬ人となりました。
わたしは両親の愛のために孤独の中で生きることとなりましたが、愛のおかげで、穢されることなく生きていられるのです。
そんなわたしに友達ができ、そして一緒に買われることになるとは夢にも思いませんでした。
お父さん、お母さん。
わたしは今、底無しのお人好しの男性に「森に帰って、同胞と生きることも出来るんだよ」なんて言われています。
もう、同胞なんて残っていない森に還ることなど出来ませんが、新しい家族と、彼等の寿命の許す間は、ほんのすこしでも孤独と無縁の生活がおくれそうです。
みんな死んじゃった後は、その時はきっと寂しくて後を追ってしまうと思うけれど、それは許してねお父さん、お母さん。
その時は迎えに来て欲しいな、みんなで。
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買った奴隷たちが、何故か皆、奴隷のままがいいと言って解放されようとしないんだけど、何で。
まっ、皆各々幸せそうだし、まっいっか。
感想お待ちしてまーすщ(´Д`щ)カモ-ン