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第98話 武闘大会 その3 ~アグリサイド~

俺よりか後に登場してきたソフィーナ・デストルークの方を見上げる。


「あーっ!」


その見覚えのある姿。

仮面で顔は隠しているが、まるわかりだ。


「お……お前……」


びっくりして指をさす俺に対して、ソフィーナ・デストルークは何食わぬ顔をして立っている。


「それでは決勝戦を始めます。

 謎の仮面女剣士ソフィーナ・デストルーク対勇者アグリ!

 それでは……はじめ!」


俺の事は構わず開始の宣言をする審判。

もうこうなればやけくそである。

俺が想像している奴なら正直こいつに勝つのは無理だ。

一矢報いれればいいぐらいだ。

無様な負け方だけはしないようにしよう。


そう思いながら、剣を構え、ソフィーナとの間合いを詰める。

ソフィーナはニヤニヤとした顔をして、俺が振りかざした剣を軽く受け流し、俺へと顔を近づけた。


「おい!

 お前、ゾルダだろ」


周りに聞かれないように小声で話すも……


「さぁ、なんのことでやら……じゃないのぅ……

 なんのことでしょうか。

 ワシ……じゃなくて私はソフィーナですわ。

 あなたとは初めてお会いしますわ」


ソフィーナはそう言いながら、剣を素早く動かし何度も切りかかってきた。

俺は辛うじてその剣戟を受け切った。


「あのさ、バレバレなんだよ。

 そんな仮面で顔を隠したぐらいじゃ、わかるって」


ソフィーナは剣での攻撃の手を休めずに話を続けた。


「人違いをなさっているのでは?

 誰も私のことは、その『ゾルダ』という方とは思っていないようですわ。

 それを証拠に、国王をはじめ昨日会われた方々は誰一人としてそう感じていないようですわよ」


「昨日の宴に出ていたのなら、『ゾルダ』じゃないのか?

 『ソフィーナ』という人はいなかったし……」


「いなかった証拠はありますか?

 何時? どこで? 誰が? 見てないって?

 あなたこそ証拠を示してくださいませ」


ソフィーナもといゾルダは一層のスピードアップをして攻撃の手をゆるめない。

俺としても受け切るのが精一杯だった。

剣を使ったことは見たことなかったけど、やっぱりそれなりに使えるようだ。


「普段魔法ばかりだったけど、剣も使えるんだな」


「嗜む程度に……じゃないのぅ……

 普段とはいつの事でしょうか。

 私は普段から剣を使っていますわ。

 剣士ですし」


ここまでわかり切っているのに、あくまでも白を切るようだ。

俺は戸惑いながらも、隙を見て攻撃を仕掛ける。

でも、それもなんなく交わされてしまう。


俺たちの戦いを見ている観客は大盛り上がりだ。

どうやら、ゾルダと認識しているのは俺だけのようだ。


「なぁ、ゾルダ!

 なんか魔法使っているだろ。

 周りが気づかず、俺だけ気づくなんておかしいだろ」


「魔法は禁止ですので、使ってはおりませんわよ。

 ホーッホッホッホッ」


「なんだその妙な笑いは!

 お前は『ゾルダ』だって認めないんだな!」


「さっきから話してるではないですか。

 私は『ゾルダ』ではなく、『ソフィーナ』ですわよ」


その間もお互い手は緩めず剣戟を繰り返していた。

さらに沸く観客たち。

周りはこいつの正体が何でもいいのかもしれない。


これ以上剣戟の応酬をしても身が持たない。

ゾルダから一旦離れて、距離を取る。

その間にマリーやセバスチャンの様子を伺ってみた。

余裕があったわけではないが、俺以外の反応を見たかったからだ。


マリーはと言うと……

唖然とした表情でこちらを見ていた。

セバスチャンは、いつもと変わらない気もするが、若干苦笑いをしているようだった。


その分、隙があるように見えたのだろう。

ゾルダは一気に加速して俺との距離を詰めてきた。


「ほら、マリーもセバスチャンも、お前の正体に気づいているぞ。

 いい加減、白状したらどうなんだ」


鍔迫り合いをしながら、ゾルダに話しかけるも


「ワシ……私は『ゾルダ』ではないぞ

 私は『ソフィーナ』じゃ」


まぁ、何度聞いても、同じ返事だな。

これは認めはしなさそうだな。

ただ語尾がそのままになったり、ゾルダの話し方そのものだ。

隠そうとは努力しているものの、ところどころ粗が出ている。

そうまで何をしたいのだろう。


「ゾルダ!

 何が目的だ!」


「目的?

 はて……この大会に出ている以上、優勝することではないのかのぅ」


「俺のために国王に持ちかけたんじゃなかったのか?」


「そんなことは……私は知らないですわよ」


お互いに攻撃をしながら、言葉を交わしていった。

目的が何かがわかればいいんだけど、そこはなかなか口を割らないようだ。


ゾルダの剣についていくのに精いっぱいで、じっくり考える余裕もない。

相変わらずニヤニヤしながら剣を振るってくる。

何か良からぬことを考えているのか、それともただ単に遊んでいるだけなのか……


「おぬし……アグリと言ったかな。

 なかなかやるのぅ。

 私についてこれるようになっているとは」


「お前さ……

 ゾルダと認めてないわりには、俺を知っている口ぶりだな」


「ん?

 いやいや。

 私についてくる奴はそうそういないから、そう言ったまでだ」


さらに速度が上がってくる。

だんだん考えることも出来なくなって、剣へ集中するしかなくなってきた。

集中できている分、なんとかついていけてる。

セバスチャンの訓練のたまものでもあるのだが……


「やるのぅ……

 なかなかと……

 ワクワクさせてくれる」


にやつきが止まらないゾルダは


「さてと……

 これはついてこれるかのぅ」


そういうとさらにスピードアップをし始めた。


「くぅっ……」


俺はさらに苦境に立たされていった。

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