第97話 武闘大会 その2 ~アグリサイド~
「あんちゃん、覚悟は出来たか?
オレは最初から全力だぜ!」
開始早々、ガリックは斧を振り上げて、俺を攻撃してきた。
「覚悟を決めないと……」
勝てるかどうかはわからないけど、やるだけやってみよう。
俺は自分に言い聞かせるように言うと、素早く剣を構えた。
でもなかなか斧が振り下ろされてこない。
「ん?」
なんでこんなに遅いんだ?
ガリックの攻撃がすごく遅く感じる。
余裕でかわすことが出来た。
「???」
ガリックもなんか驚いているみたいだが、俺も驚いている。
なんでこんなに相手の動きが見えるようになっているのか……
セバスチャンとの訓練でもほとんど攻撃は見えていなかった。
マリーとの模擬戦もかわすのがやっとという感じだったし……
少しでもタイミングが遅くなるとすぐに当てられた。
「あんちゃん……
よくオレの攻撃をかわせたな。
まぁ、たまたまだろうけどな。
次はこうはいかんぞ」
ガリックは矢継ぎ早に斧を振り回す。
でも……遅い。
凄く遅い。
なんだこの感じ。
次々にかわす俺。
そんな俺を見て歓声が沸く。
あれ?
それほど沸くことをしているのか?
ガリックは俺に交わされて、さらにムキになってなって斧を力いっぱい振り回してきた。
それも余裕でかわした。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ……」
ガリックは息切れを起こしている。
「あん……ちゃん……
避け……てばか……りいて……全然……攻撃……しないのか……
俺が……そん……なに……怖い……のか?」
疲れ切っていても強気な姿勢は変わっていないようだ。
でもなんでこんなに簡単にかわせるんだ。
もしかして……訓練の成果?
セバスチャンの訓練ってもしかして凄かった?
これならこっちの攻撃も当たるかも。
「なら、こっちから行くぞ」
剣を構え直し、ガリックに詰め寄り、剣を薙ぎ払う。
――ブン
それに対してガリックは無防備のままだった。
「ウギャーーーー」
得も言われぬ声でガリックは吹っ飛んでいって、壁に激突した。
一瞬静まり帰った闘技場――
次の瞬間、大歓声に包まれた。
「ガリックは戦闘不能。
勝者は勇者アグリ!」
審判がそう告げると、さらに歓声が広がった。
「俺、勝ったんだ……」
拳を握りしめ、ガッツポーズをした。
その姿を見た観客たちは、大きな声で声援を送ってくれた。
しばらく歓声を浴びていたが、ふと我に返る。
歓声の大きさに照れまくっていた。
そして、その場に居づらくなって、観客に一礼をすると、そそくさと控室に帰っていった。
――バタン
控室の扉を閉めると、そこにはセバスチャンが立っていた。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。
セバスチャンのおかげです」
この短期間の訓練でここまで成長できたのだと感じた俺は、セバスチャンにお礼を言った。
しかし、セバスチャンは
「私のおかげではないすよ。
誤解しないでいただきたいのは……
そもそもこの訓練を初めてからは急に成長した訳ではないです。
今までの積み重ねが大きいかと思います」
と言って、訓練が大きく影響していないとの見解を示していた。
「えっ?
そうなの?」
俺は訓練が大きく影響しているものとばかり思っていた。
「はい。
お嬢様も仰っていたと思いますが、それ以前から強くはなられていたかと。
私どもが、敵をアグリ殿のお手を煩わせる前に片づけてしまっていて感じにくかったのかと思います」
これまでの戦いの中でも成長していたんだ。
全然実感することはなかったけど……
「……
だからゾルダは人相手なら手加減してもいいぐらいだと言っていたんだね。
だとすると、悪いことしちゃったな。
俺が全然自分の力量を分かっていなかったのを、ゾルダに当たってしまって」
「後ほど、お嬢様にそのように仰っていただければ。
お嬢様もお喜びになるかと思います」
「で……
そのゾルダはどこにいる?
朝から姿見てないけど……」
控室の扉を開けて、周りを見回したが、やっぱりゾルダは居ない。
いったいどこにいったのやら。
「わざわざお探しにならなくても……
見かけたときにお話をしていただければと思います」
いろいろと視野が狭くなっていたのかもしれない。
ゾルダには本当に悪いことをしてしまった。
その分って訳ではないけど、この大会をしっかり勝って、自信を取り戻してゾルダに喜んでもらおう。
続く二回戦――
相手は貴族の護衛をしているワイアット。
一回戦の俺の戦いを見ていたのか、だいぶ慎重になっているようだった。
無暗に襲い掛かるのではなく、明らかにカウンターを狙っている様子。
こちらも踏み込むのもまずいとは思ったので、しばらくの間にらみ合いが続いた。
観客も固唾を飲んで見守っていたが、それが長く続きすぎたのか、途中からざわつき始めた。
そんなこともあってちょっと焦り始めた俺は、攻撃を仕掛けることを決意して踏み込んだ。
そう踏み込んだのだが……
ワイアットは避けきれずにまともに喰らってノックアウト。
「ちょっと慎重になり過ぎたかな……
もう少し自信を持ってやってもいいかも」
二回連続で圧勝したこともあり、続く準決勝――
首都の冒険者ギルドで一二を争う実力者のミデェールに対して、自信をつけた俺は一気に畳み込んだ。
流石に一発では仕留められず、応戦を繰り返した。
相手もそれなりの実力者である以上、そう簡単にはいかなかった。
それでも、隙はあったので、徐々に俺の方が上回っていって、ミデェールを這いつくばらせた。
「これで、決勝進出ですね。
おめでとうございます」
控室に戻るとセバスチャンが祝福してくれた。
そこにはマリーもいて
「アグリならこれぐらいやれるでしょ!
マリーはわかっていたよ」
自分の事のようにドヤ顔をしていた。
でも、そこにはまだゾルダの姿はなかった。
今までの俺の態度を見かねて、怒っちゃったのかな……
まぁ、呆れられても仕方ないような態度ではあったし……
とにかく決勝で勝ってから、ゾルダを探して、あの時の事は謝ろう。
そして決勝の時間になった。
自信を取り戻した俺は、堂々と闘技場へ向かっていった。
「まずは勇者アグリの入場です。
戦前の評判通り、他者を圧倒しての決勝進出です」
沸き上がる歓声に照れながらも、手を挙げて答えた。
「そしてもう一方のトーナメントをこちらも圧勝してきた……
謎の仮面女剣士、ソフィーナ・デストルーク!」
相手も圧勝してきたのか。
なかなかの人なのかもしれない。
気を引き締めないと。
そう思い、登場してきたソフィーナ・デストルークの方を見上げると……
「あーっ!」
思わず声が出てしまった。




