第96話 武闘大会開幕! ~アグリサイド~
部屋を飛び出した一件の後、あっという間に武闘大会の日になった。
その間も、何もしていなといろいろ考えてしまうので……
セバスチャンにいつも通り訓練をしてもらっていた。
身体を動かしていると無心になれるというか考えずに済むから。
セバスチャンの訓練も首都までの道中よりも、もう一段階上がった訓練になった。
そのこともあってか、訓練後は疲れ果てて夕食後はすぐ寝てしまっていた。
その間、ゾルダはと言うと……
いつもと変わらぬ様子で、城のあちこちに出かけて、部屋にいないことが多かった。
そのことをマリーに尋ねたのだが……
「マリーは何も知らないですわ。
ねえさまは『忙しいのじゃ忙しいのじゃ』と言って……
全然マリーの事構ってくれませんし……」
と、何かやっているようだったけど、疲れてそこまで考えるほどの余裕はなかった。
そして武闘大会当日――
大会に参加したのは俺も含めて16名。
急遽の開催ということもあって、人が集まらないかと思ったが……
思いのほか人は集まって大会らしい大会になっていた。
近隣から名うての冒険者や貴族の護衛、名を上げたい荒くれ者、国王の騎士団からの推薦者などなど……
俺に一泡吹かせて、名前を売ろうと思っている者たちがエントリーしていた。
「おっ、あんちゃんが、勇者か?
なんか弱そうだな。
いろいろと話は聞いているけど、本当にお前がやったんか?」
威勢のいい荒くれ者は俺に対して因縁をつけてきた。
まぁ、そう思われても仕方ないのかもしれない。
この場に居て、このメンツを見て正直まったく自信がないからだ。
「ハハッ……ハハッ……」
俺は愛想笑いをしてその場をごまかしてやり過ごした。
そこへ、騎士団長が現れ、ルール説明が行われた。
ルールとしてはざっとこんな感じ。
・武器の使用は自由だが、武器は国が用意した模擬戦用の物を使用
・魔法は禁止、使った時点で反則負けとする
・武器に関するスキルの使用は可能(アトリビュートもOK)
・降参するか戦闘不能と審判が判断したら負け
「模擬戦の武器だからそこまで大けがにつながることはないとは思う。
スキルも弱体化の腕輪をつけてもらうから問題ないとは思うが……
お互い敬意を持って戦ってほしい」
騎士団は最後にそう言って、ルールの説明が終わった。
その後、トーナメントの組み合わせをすることになった。
俺はくじ引きを引くことはなく、一番最後の試合のところに入った。
これは国王が
『勇者の出番は盛り上がる一番最後に』
という命令らしい。
まぁ、出番はいつでもいいのだけど……
それでも最初に出てきてあっさり負けちゃったらと思うと、最後の方がいいかとは思った。
出場者が次々とくじを引き、組み合わせが決まっていく。
俺の対戦相手は……
どうやら先ほど絡んできた荒くれ者になった。
名前はガリックと言うらしい。
俺の目の前に来たガリックは
「よう、あんちゃん。
早速の対戦だな。
手加減はしないからな。
覚悟しておけよ」
そう言うと、一足先に控室へ去っていった。
「最後は……
ソフィーナさん、ソフィーナ・デストルークさん」
騎士団長付きの騎士が大声で叫ぶが返事がないようだ……
「あれ? 居ないな……
残りのところですし、いいかな」
どうやら、ソフィーナという人が残っていた一番最初の組み合わせに入ったようだった。
「これで全抽選が終わりました。
各自控室でお待ちください。
出番になりましたら、お呼びします」
騎士がそう言うと、参加者はそれぞれの控室へと戻っていった。
俺も控室に戻ると、そこにはセバスチャンがいた。
「あれ?
ゾルダとマリーは?」
「マリーは客席で見ております。
お嬢様は……
たぶん、どこかで見ていらっしゃるかと」
「そう言えば、朝ここに来るときは一緒だったけど……
その後は見かけないね」
「私どもはこのように出れるようになったとはいえ……
まだ封印されている身ではあります。
そのため、そう遠くへは行けません。
お嬢様もアグリ殿のことを心配されていましたので、どこかで見守っているかと思います」
落ち着いた雰囲気でセバスチャンは答えてくれた。
「なら、いいけど」
その後は出番が来るまでと思い、座って控室で待っていた。
しかし、いろいろと考えてしまうので、剣を持って素振りを繰り返していた。
時折、外からの歓声が聞こえてきた。
その声の大きさに盛り上がりを感じた。
こうなると下手な試合は出来ない。
またさらに素振りを重ねる。
「アグリ殿……
あまりやり過ぎてもいかがなものかと思います。
十分経験も訓練も積まれておりますので、ドシッと構えることも大事です」
セバスチャンは俺に助言をしてくれた。
「そうだよね……
でも、ソワソワしちゃうのは性分なんでね。
気を付けるよ」
アドバイス通り、座って待つもやっぱり居ても立っても居られなくなりまた素振りをする。
そしてまたセバスチャンに言われて座る。
それを何回か繰り返した後に、ようやく出番が回ってきた。
緊張した面持ちで会場に向かう。
俺が出てくるや否や、会場は歓声に包まれた。
こんなにも声援を浴びたこともないので、余計に緊張する。
それに対してガリックの登場の際には、ブーイングの嵐だった。
この雰囲気……
負けることは許されない雰囲気だ。
ますます緊張してきた。
「それでは第8試合、ガリック対勇者アグリの対戦を始めます!
それでは……はじめ!」
審判が合図して、戦いの幕が開けた。
「あんちゃん、覚悟は出来たか?
オレは最初から全力だぜ!」
ガリックはそう言うと、斧を振り上げ俺に襲い掛かってきた。
「覚悟を決めないと……」
俺はボソッと自分に言い聞かせるように言うと、剣を構えた。