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第94話 俺が武闘大会にでるの? ~アグリサイド~

昨晩、国王が宴で突如発表した武闘大会――

なんか俺も出ることになっている。

相談も無いし、出るとも言っていないんだが……


「ゾルダ、お前国王様に何か吹き込んだ?」


どうせゾルダが何か仕掛けたのだろうと思い、問いただした。


「さぁ、のぅ……

 何のことやらさっぱりわからんのじゃ」


ゾルダはあくまでもしらを切り通すらしい。

その顔はにやつきが止まっていない。


「あのさ……

 俺がいつ出るって言った?

 そもそも武闘大会なんて出ている時間もないんじゃないのか?」


「まぁ、まぁ、そう目くじら立てんでものぅ。

 ここでおぬしが出なければ国王様のメンツをつぶすことになるぞ」


「ぬぐぐぐ……

 そりゃそうだけどさ……」


なんかゾルダにしてやられた感じがある。

悔しさが顔に滲み出る。


「いいのではないでしょうか。

 アグリ殿のいい訓練とこれまでの成果を試す場としては」


セバスチャンは前向きにとらえるようにと俺にアドバイスをしてきた。

確かにそうではあるのだが……


「でもさ……

 俺って強くなっているのかな……

 魔王軍との戦いでもそう役に立った覚えはないし」


「アグリはそんなこと気にしているのですか?

 そりゃ、ねえさまやセバスチャン、マリーに比べたら弱いですが……

 人族ならそこそこいけると思いますわ」


マリーからどストレートな意見を言われた。

しかもそこそこって……


「そういう評価なんだ、俺って……

 でもさぁ、勇者が簡単に負けたら、何を言われるかわからないし……

 この状況って、俺は勝たないといけないよね。

 プレッシャーも半端ないんだけど……」


弱音や愚痴が次から次へと口から出てくる。

自信がないし、強くなったかもわからない。

でも勝つことを義務付けられているような大会だ。

そんな感じでどう戦えと言うのだ。


「おぬしは相変わらずグチグチ言うのぅ。

 腹をくくるのじゃ!

 今までの成果もあるし、ワシらから訓練もしておる。

 もう少し自信を持たぬか!」


俺の愚痴にイライラしたゾルダが俺に対して怒りをぶつけてきた。


「ワシがせっかくお膳立てしてやったのに……

 おぬしが越えられぬ壁を用意したつもりはないのじゃ!

 十分強くなっておる。

 人族相手なら正直手加減したほうがいいぐらいじゃ!」


自信を持て、強くなったと言われても、結果が出ていない以上実感がないのも事実である。

そこをどうやったら自信が持てるようになるのか教えてほしい。


「だって……」


いろいろな気持ちが交錯する中、言葉を絞りだそうとしたのだが……


「だっても、くそもないのじゃ!

 いろいろ考えすぎるところがおぬしの悪いところじゃ!

 もう少し出たとこ勝負出来るように、考えを柔軟にしないといけないのぅ」


煮え切らない俺を見て、ゾルダが一喝する。

ゾルダにきつく言われても、俺の心はあまり変わらなかった。

クロウとの戦いでも、アスビモの時も、メフィストの時も……

そう、俺は何も出来なかった。

ゾルダやマリーたちにおんぶにだっこだった。

国王に褒め称えられたけど、ほとんどはゾルダたちのおかげだ。

そんな俺が武闘大会で勝てるわけがない。


押し黙っている俺をみて、セバスチャンが俺に耳打ちをしてきた。


「お嬢様がこの武闘大会を国王にけしかけたのも、アグリ殿のためですよ。

 自信がないなら、自信が持てるようにと考えたのでしょう。

 ここはお嬢様の策に乗っかっていただけないでしょうか」


本当に俺の事を思って武闘大会を国王に進言したのか?

ゾルダのことだから他に何か考えているんじゃないか?

にわかに信じ難い話だった。

いろいろなことが頭に思いつては消えてを繰り返す。

俺の中の気持ちはモヤモヤが増すばかりだった。


「……ったく、おぬしがしっかりしてくれんと困るのじゃ。

 そういうことだから、武闘大会に出るんじゃぞ。

 わかったな!」


俺は居ても立っても居られなくなり、部屋を飛び出した。

ただ、行く宛があるわけではない。

広い城の中をただたださまよい歩いた。


城の中を行きかう人々。

この中に本当の俺を知っている人はいない。

そう思ったとたん、前の世界の人たちの顔が浮かんできた。

懐かしく感じるその顔はもう会えないんだと思うと、自然に涙がこぼれてきた。


「涙……

 なんで俺、涙なんか流しているんだろう……」


その後も部屋には帰りづらくて、城のあちこちを歩き回った。

俺を見かけた人は、声をかけてくる人も多くいた。

そんな人たちに対して、俺は作り笑顔で応えるのが精一杯だった。


『勇者様、武闘大会、楽しみにしています』


『これまでのご活躍お聞きしています。

 武闘大会でそのお姿を拝見したいです』


人々の声はどれもこれも期待ばかりだった。


「こんな弱い俺に期待するのか……」


居たたまれなく部屋を飛び出してきたが、城の中を回っていても、気が休まる時はなかった。

しかたなく部屋へ戻ることにした。


――ガチャ


部屋へ入るとゾルダが心配そうな顔をしていたのが一瞬見えた。

ただ俺の姿を見ると、気を取り直したようにいつもの傲慢な笑顔に戻っていた。


「おぬし……

 戻ってきたのか……

 そのまましばらく帰ってこなくてもよかったのにのぅ」


「うん……

 まぁ、外も外でね……」


「……とにかく、武闘大会に向けて、気を入れ直すのじゃぞ……」


「そうだね……」


気持ちは切れかかっていることもあり、空返事しか出来なかった。

俺の様子を見て、気になったのか、マリーが近くによってきた。


「アグリが出ていった後、ねえさまが大変だったんだから」


「えっ?」


ゾルダの何が大変だったのだろう。

言いたいことを言っていたし、俺に呆れていたのだろうか……


「セバスチャンに、

 『ワシは言い過ぎたじゃろうか?

  このままあやつが戻ってこなかったどうしよう』

 とうろたえていましたわ。

 あんなねえさま、見るの初めてでしたわ」


「……まさかそんなことはないだろう。

 どうせ、俺の事を散々貶していたんじゃないか……」


「ねえさまは正直なだけで、悪口はいいませんわ。

 ありのままには話すので、誤解されやすいですが……」


「……」


「ねえさまはアグリに自信を持たせたいとの思いで、国王に武闘大会をと話をしたのですわ。

 マリーたちとの差で自信を無くしているだろうからと。

 魔物相手だと危険も伴うから、人族の中で戦ってみたら自分の立ち位置がわかるんじゃないかと」


セバスチャンにもさっき言われたけど、本当に俺の事を思ってくれていたのかな。

マリーにも言われて、ゾルダの事を少し誤解していたのかと気づいた。


「自信は無いのは変わらないけど、やれるところまではやってみるよ」


ゾルダもマリーもセバスチャンも俺をフォローしようとしていたんだと改めて思った。

少しでもその気持ちには応えようかなと思った。

どこまで勝ち上がれるかわからないけど……

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