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第90話 俺は役に立ってない ~アグリサイド~

現実は残酷だ。

ゲームのように順序だててことは進んでいかない。

ましてや、俺の強さに合わせてちょうどいい敵など出てこない。


たぶん最後俺を殺そうとしたのだろう。

メフィストは俺の目の前に来たが、抗うことしか出来なかった。

ゾルダの一発で事なきを得たけど、普通のパーティーだったら全滅していたと思う。


「それにしても、おぬしなぁ……

 もう少しなんとかならんかのぅ……」


ゾルダは呆れかえっていた。

そりゃそうだ。

今の俺の強さでは敵いっこない相手だった。


「俺だって頑張っているんだって。

 敵が急に強くなり過ぎなんだよ。

 普通は徐々に強くなっていくのが鉄則なのに……」


「普通とは何じゃ?

 強い奴らはどこからでもビューっと飛んでくるぞ。

 ヤバいと思ったら、叩き潰しに来るからのぅ」


ゾルダの言うとおりである。

ゲームのように強い敵はあるところに鎮座して勇者たちが来るのを待っている訳ない。

危険と感じたら、容赦なく襲い掛かってくる。

俺の考え方がまだまだ甘いのだ。


「…………」


返す言葉が見つからなかった。

嵐のように始まった今回の戦いでも、俺は何も出来なかったのだ。

本当に役立たずだ。


メフィストを撃退し、マリーは飛び跳ねて喜んでいた。

セバスチャンはクールに保ちつつも晴れやかな顔をしていた。

ゾルダはいつも通りの傲慢な笑顔を見せていた。

その中で俺は……


「俺は何も役になっていない」


周りに聞こえないようにボソッとつぶやいた。

そう聞こえてないはずなのに……


「なんで周りにお前らがいるんだ!」


ゾルダにマリー、セバスチャンが俺の周りに集まっていた。


「アグリが元気ないからでしょ!」


マリーは俺を気遣ってくれているようだ。


「アグリ殿、いい時も悪い時も誰だってあります。

 反省して次に活かしましょう。

 大丈夫です。私が鍛えて差し上げます」


セバスチャンは諭すように話、さらっと俺に訓練の提案をしてくる。

いや、そりゃ役に立ちたいけど……

魔族の訓練なんて、俺死んじゃうよ。


「おぬし……

 その……

 弱いのはいつものことじゃ!

 気にするな」


ゾルダはいつも以上に辛らつだ。


「ねえさま……

 それはちょっと……

 ここは嘘でも問題ないと言ってあげないと」


あの、マリーさん……

その一言は何気に傷つきます……


「……で、落ち込んでどうするのじゃ。

 それで強くなるなら、どんどん落ち込めばいいのではないかのぅ」


「……

 全然強くならないし、今回は狙われるし、俺って本当に役に……」


「それがどうしたのじゃ。

 おぬし、本当に役に立っていないと思っているのか?」


ゾルダは俺に問いかける。


「……役に立ってなんかいないだろ!

 これまでも全部お前たちが倒してきている。

 この先もそうなるに違いない。

 俺なんて、お飾りの勇者なんだ……」


こんな調子で魔王を倒せるはずがない。

いや、倒すのはゾルダたちだ。

そうしたら何のために俺はこの世界へ呼ばれたのかがわからない。


「ふむ……

 これは重症じゃのぅ……

 まぁ、聞け。

 ワシらはおぬしのことを本当に役に立っていないと思っておらんぞ」


「えっ……」


ゾルダは話を続けた。


「おぬしにとって、ワシらが好き勝手やって気に食わんじゃろうが……

 好き勝手出来るのも、おぬしが居ればこそじゃ。

 そこはその……ある意味信頼をしておるということじゃ」


ゾルダは話の途中から俺の方を見ずにしゃべっている。

マリーは笑顔でうなずき、セバスチャンも暖かい目で俺の事を見ている。


「それにだ……

 全部解けた訳ではないが……

 この封印から解き放ってくれたのは、おぬしじゃ。

 そこだけは……

 すごく……感謝……しておるぞ」


なんかゾルダがもじもじしながら言っているように感じた。


「ねえさま、『だけ』は余計ですわ」


マリーはゾルダの言い回しにツッコミをいれていた。

しかしゾルダがそんな風に思っていたなんて……


「アグリが居なかったら、あのままずっと闇の中だったかと思うとぞっとしますわ。

 マリーも感謝していますわよ。

 こうしてねえさまの近くに居れるようになりましたし」


「マリー……」


マリーも俺を元気づけるように感謝を言ってくれた。


「アグリ殿。

 人にはそれぞれの役割がございます。

 あなたにはあなたの役割がございます。

 それを全うすべきかと」


セバスチャンは説教っぽく話すが、俺の事を思っての事だろう。


「そうじゃ。

 強くなくてもおぬしはおぬしじゃ。

 今はその分、ワシらがフォローするから、気にしなくてもいいのじゃ」


俺の役割か……

俺は自身が強くなって魔王を倒すのが役割だと思っていた。

なので、必死に愚直に訓練や実践をしてここまでやってきた。


でも一向に強くならない。

そんな思いがあいつらといると日に日に増してきて苦しくなってきていた。

そして、今回のメフィストとの戦いで、無様な恰好を晒してしまった。


もしかしたら、俺の役割は俺が強くなることではなく、魔王を倒すことなのかもしれない……

そのために、周りを頼ってもいいのかも……


「……

 まだいまいち自分の中に落とし込めないけど……

 俺は俺の役割を全うするようにするよ」


考えてもよくまとまらなかったが、時間は待ってくれない。

モヤモヤしたままも良くはないけど、まずは動いてみるのもいいのかもしれないな。


「先へ急ごうか……」


立ち上がった俺は、首都へと歩を進めていった。


「役割は役割であるが、今のままで良いわけではないからのぅ。

 改善はしてもらわねば困るのじゃ。

 差し当たっては、セバスチャン!」


「ハッ、なんでしょうお嬢様」


「あやつの訓練計画を立てて実行するのじゃ。

 死なない程度のやつをな」


「承知しました」


えっと……

俺まだ立ち直っているわけではないのですが……


「ゾルダさん……、あの訓練とは……」


「首都までまだ時間がかかるからのぅ。

 休憩中は全部訓練じゃ。

 こういう時は身体を動かして考えられなくなるほど疲れればいいのじゃ」


ニヤリと俺の方を見やるゾルダ。


「おい、休憩中全部訓練だと休む時間ないじゃんか!」


「寝る時間ぐらいは確保してやるぞ。

 それ以外は訓練じゃ」


「ちょっと、待てよ!」


俺はゾルダに怒ったが、ゾルダはニヤニヤとしているばかりだった。

確かにいろいろ考えすぎなところもあるのだろう。

身体動かしていた方が考えずに済むのかもしれない。

それが、ゾルダなりの気遣いなのかも……

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