第126話 そう言われてもなー ~ジェナサイド~
「ふぅ~」
遠くの商談は疲れるから嫌だ。
ただいい感じに進められたし、これでこの街もまた一層潤うだろう。
ギルドの部屋に着き、一息つくために、ソファに座った。
夜遅くの到着にも関わらず、まだ仕事をしていた従業員のマリウスが手を止めてお茶を運んでくれた。
「ありがとう!
遅くまで大変だな」
「今はどこの店も祭りに向けての準備で忙しいですからね」
「あぁ、そうだったな」
あとラヒド祭まで3日ほどだったかな。
この祭り目当てに多くの人が訪れるし、行商たちも多くやってくる。
今はその準備で大忙しってところなのだろう。
「身体あっての商いだ。
みんなも無理しないように伝えておいてくれ」
「承知しました」
マリウスは深々と一礼をした後に、ギルド長室を出ていった。
それと入れ替えに受付のディアンタが急いで入ってきた。
「ギルド長、あの……」
息を切らしながら、あたいに何か言おうとしていたので
「なんだ、ディアンタ。
慌てて。
まずは落ち着けって」
「申し訳ございません。
えっと、今日の昼にですね、ゾルダ様が御一行がギルドに来られて……」
「は?」
思わず大きな声が出てしまった。
あいつらは確か東へ向かったよな。
あそこはかなり遠いから、行くだけでもだいぶ時間がかかるはず。
今ぐらいにようやく到着したかどうかってところだと思っていたのに、もう帰ってきたのか。
「それで、ジェナ様は今日は不在で、明日はいらっしゃることをお伝えしましたので……」
「あぁ、そういうことね。
了解した。
明日また来るってことか」
「はい、そのようにおっしゃっていました」
「明日は何も入れてないから、来たらここに通してくれ」
「承知しました」
今回の商談は疲れると思ったから、一日空けておいたけど……正解だったかな。
あいつらもタイミングがいいというかなんというか……
しかし、今度は何の用だろう。
あっちでアスビモとは決着つけられたのだろうか。
天井を見上げていろいろと考え始めたが、疲れで頭が回らない。
「真意がわからない以上、あれこれ考えても無駄か。
話をしてからかな」
ギルド長室を出て、自室に戻ったあたいは、ベッドに横になるとあっという間に寝てしまっていた。
――翌日
昨日の疲れもあって頭がぼーっとする。
今日はゾルダたちの相手だけだから、それまではゆっくり休んでいるか……
部下たちにはここにはいるが、今日は休みだと伝えているし、仕事をもってくることもないだろう。
あたいがいなくても回るように組織はしっかりしているしな。
しばらく椅子に座り、うつらうつらとしていたのだが……
「ギルド長!」
大きな声と共にバタンと扉が開いた。
「ゾルダ様たちがいらっしゃいました!」
「了解。
ここに通してくれ」
今日の唯一の仕事のお出ましだ。
前回ひいばあちゃんにはいろいろと言われたけど……
いきなり態度を変えられてもあいつらも困るだろうしな。
あたいはあたいのままで行こう。
しばらくすると、多くの足音が聞こえてきた。
ゾルダ様たちのお出ましか。
――バタン
ノックの音もせずに扉がドンと開く。
「じゃまするぞ」
ゾルダを先頭に5人が部屋に入ってきた。
「あのな、部屋に入る時ぐらいノックぐらいしろ!」
えーっとあいつは……アグリだったかな。
あのゾルダに説教か。
なかなかの猛者だな。
「何故ノックなぞする必要があるのじゃ?」
「人としての礼儀だ!」
「なら、ワシは魔族じゃから関係ないのぅ」
「いや、ここは人族中心の国だから……」
部屋に入るなり言い争いをしないでほしいのだけどな。
「んっうん……」
咳ばらいをしてあたいに注意を向けると
「あっ……
申し訳ございません。
こんなところで」
アグリはペコペコと謝り始めた。
「そうじゃ、そうじゃ。
おぬしが悪いのじゃ、謝れ」
「もとはと言えばお前が……」
まだ続ける気なのか。
いい加減にしてほしい。
「で、今回は何の用だい、ゾルダ様。
あたいも忙しいんでね。
手短にお願いしたい」
一日空いているとは言え、無駄な労力は使いたくないし……
さっさと用件聞いて、終わらせてゆっくりしたい。
「話が早いのぅ。
実はアスビモのやつがワシらを見るなり逃げおってのぅ。
あやつの居場所がわかるかのぅ」
逃げた?
こいつらから?
あいつはただものではないとは思っていたけど……
「よくお前らから逃げたな、アスビモも」
「まぁ、逃げたのではなく逃がしてやったのじゃがのぅ」
「いや、そこは嘘継無くてもいいのじゃないか、ゾルダ。
ジェナさんが教えてくれた通り、東のジョードへ行ったのですが、
アスビモ自身はその場にはいなくて……
いなくてというか、一瞬現れたのですが、すぐ消えてしまって……」
なんかいまいち話している内容がわからない。
いなかったけど、現れて、すぐ消えた?
どういう状況なんだ。
「もう少し詳しく教えてくれ」
話が理解出来ないから、再び話を聞こうとしたところに別の男が割って入ってきた。
「アグリ殿、慌ててお話し過ぎで、伝わっていませんよ」
「ん?
お前は……
前回、いなかった奴だな」
「これはこれは失礼しました。
私、セバスチャンと申します。
ゾルダ様の先代からお仕えしているものです。
おたくのおばあ様たちが、私が封印されていた盾を保護していただけていたとのことで……
その節はありがとうございました」
セバスチャンと名乗る男性が一礼をした。
「あぁ、あの盾に封印されていた奴か。
こちらもひいばあちゃんがやったことだし、あたいはそこまで言われることはないよ」
「いえいえ。
大変お世話になりましたので、まずはお礼を。
そして、これまでの経緯を話させていただきます」
そう言うとセバスチャンはジョードの街であったことを事細かに教えてくれた。
「そういうことか。
なんとなくは分かったよ。
それで、アスビモの今の居場所を知りたいと……」
「はい、そうです」
「うーん……
そう言われてもなー……」
どう答えたものかとは悩む。
ゾルダはあたいが何か知っているんじゃないかと思っているらしい。
そもそもアスビモ自身はあちこち飛び回っていると聞いている。
ひとところにとどまるやつじゃないから、あたいも居場所は掴んでいない。
それにここラヒドを任されている以上、ここに出入りする奴らと敵対するのもなぁ……
相手が仕掛けてきたのなら別だけど、こちらから敵対行為をするのもどうなかとは思う。
しかし、ひいひいばあちゃんの遺言もあるし……
あっ、そう言えばアスビモ自身が来ることはないと思うが、あいつの関係者は祭りに来るはずだ。
ここはそのことだけ伝えておこう。
あとは勝手にゾルダたちが考えるだろう。
と、ひとしきり考えた後に、頭の中でまとまったことを伝える。
「アスビモが今いるところは、あたいも知らないんだ。
申し訳ないけど……」
そう話すとゾルダの顔色が変わる。
「お前……
ワシらに何か隠している訳ではないよのぅ」
慌てたあたいは否定する。
「いやいや、それは絶対にない。
あいつらのことを庇う義理もないし」
「わかった……
セバスチャンを保護しておったし、その言葉を信じようのぅ」
その言葉を言ったゾルダは笑顔になっただが、目の奥は笑っていないように見える。
さすが元魔王の威厳というか迫力に気持ちが押されてしまう。
「で、ここからが本題だ。
2日後にこの街で祭りがある。
そこにアスビモの関係者も来ている。
まずはそいつらに聞いてみたらどうだ?」
「ほぅ……」
ゾルダは頷きつつも、何か合点がいかないような顔つきをしていた。
思いのほかこの話に喰いついてきていない。
さて、どうしたものかと思っていたところ……
「……ということは、アスビモの関係者と接触して居所を掴めばいいと」
アグリがあたいがやって欲しいと思う答えに辿りついてくれた。
「そうそう。
ただ、祭りの最中やこの街の中で暴れてもらったら困る。
祭りが終わった後に、この街からそいつらが出たら好きにしてくれていい」
「そういうことらしいけど、ゾルダいいか?」
アグリは真っ先にゾルダを牽制する。
「何故ワシに言うのじゃ!」
「だって、一番暴れそうだし……」
他の連れたちがシンクロしたようにうなずく。
「みな揃って……
ワシだって我慢する時は我慢するのじゃ!」
膨れっ面をしたゾルダがぷいと横を向く。
「まぁ、ゾルダもこう言っているので……
祭りが終わったら、接触をしてみます。
出来れば、その方たちがいる場所を教えていただけないでしょうか」
「分かったよ。
ただし、あたいから教わったとか言うなよ。
ここの長である以上、魔族だろうがなんだろうが平等に扱わないといけないからな」
「承知しました」
アスビモの関係者たちがいる場所を教えたところで、ゾルダたちは帰っていった。
「ふぅ……」
あいつらの相手するのは凄く疲れる。
もう今日は何日分かの仕事をした感じだ。
とりあえずは最低限だけど、やれることはやったし、あとはあいつらに任せよう。
この対応で大丈夫だよな、ひいばあちゃん……