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第120話 ランボは俺が倒す ~アグリサイド~

ムルデの街の鉱山での出来事は今でも鮮明に覚えている。

生贄の儀式で、街の人たちが次々と倒れていった。

俺の力が足りなかったこともあり、結局は数人しか助けられなかった。


前の世界では身近で人が倒れることもなかったし、

あったとしても遠く離れた地での出来事だった。

それが目の前で起きたことにショックを受けた。

同時にこの世界は生死が身近にあるのも思い知った。


その時から俺は次にあったらランボは俺が倒そうと思っていた。

コイツを倒したからって、亡くなった街の人たちが生き返る訳ではないけど……

せめて助けられなかった罪滅ぼしはしたいと思っていた。


その気持ちを汲んでのことか気まぐれなのか、ゾルダは俺にランボのことを任せてくれた。

そういう意味ではゾルダに感謝しないと。


「ランボ、ムルデの街では世話になったな」


「はて?

 誰だったかな?

 儂は全く覚えてないぞ」


「覚えていなくて結構。

 どうせ、俺に倒されるんだしな」


なんか悪役じみたセリフだけど、今の俺の気持ちだし、そんなことはどうでもいい。

高ぶる気持ちのまま、構えてた剣に属性魔法を付与した。


「アトリビュート、サンダー」


剣が稲光を帯びたように光始める。

そして、その剣をランボに向かって振り下ろした。

振り下ろしたが、サッと避けられてしまう。

それを見ていたゾルダがケタケタと笑いはじめる。


「何がおかしいんだよ。

 避けられたくらいで。

 少しは静かにしてさ……」


「いや、すまんのぅ。

 あいつの避け方があまりにも滑稽で……」


マリーやセバスチャン、シータを見ると笑いを堪えていた。

まだまだ俺の振りが甘くて避けられたとは思っていたのだけど、

どうやらそうではなくて、ランボはギリギリ避けていたらしい。

頭に血が上った所為か、余裕がなくなっていたのかもしれない。


「おぬしもそこまで固くならなくてもいいのにのぅ。

 もう少しリラックスしてだな」


「ありがとう、ゾルダ

 いろいろあったから、そのことで力が入り過ぎていたのかもしれない」


「べっ……別に……礼など言われるほどのこともないぞ。

 おぬしに死なれては困るしのぅ」


いつものニヤニヤした顔で上から目線のゾルダ。

若干顔を赤らめている気がするけど、そこまでランボの避け方がおかしかったのかな。


「ふぅー……」


一回深く息を吸い込み吐き出す。

改めてランボを見ると、足もガクガクと震えている。

ムルデの街では随分と態度が強くて、それなりの力を持っていると思っていたけど、

どうやらそれは虚勢だったのかもしれない。


「ふん……

 ランボ様にしてみればこれぐらい避けられて当たり前だ」


あれだけの犠牲を払って魔族になった割には肝は据わっていない。

街のみんなを虐げていたのも、自分の優位をそういうことでしか保てない奴だったのかもしれない。

そんなやつの所為であれだけの人がと思うと、再び怒りがこみ上げてくる。


「アグリ殿、また気持ちの方が高ぶって固くなっております」


俺の表情やしぐさをみて、セバスチャンが一言釘をさす。

そうだ、もう少し冷静にならないと。


「ふぅー……

 お前は俺が倒す!」


再び深呼吸をすると、一気にランボとの距離を詰める。

今度はランボの動きをしっかりと見えている。

袈裟斬りに剣を振り下ろすと、ランボの身体を掠っていった。


「ブギャーーーー」


ランボの悲鳴がこだまする。


「まだまだ踏み込みが甘いですね、アグリ殿。

 それじゃ、仕留めきれませんよ」


セバスチャンは剣術指導をするように俺に伝える。

一応、これでも敵を相手にしているのだが……


ランボは顔を引きつらせて後ずさりをしていく。

前の威勢はどこへいったのやら。

あの時なんか無謀にもゾルダに拳で襲い掛かっていたのに。


「魔族になって強くなったんじゃないのか?」


気持ちを落ち着けたつもりでいたけど、まだまだ高ぶっているようだ。

ランボを煽るような感じで言ってしまう。


「儂は……つ……強く……強くなった。

 人間だったころよりか遥かに強くなった……

 なったのだ……」


「だったらかかってこいよ!

 あれだけの人たちを傷つけた力を俺に見せてくれよ」


ランボもそう言われて腹が立ったのか、それともやけっぱちなのか、

全体に力を入れて、黒いオーラを放つとともに、俺に向けて拳を放ってきた。


「つっ……」


盾でなんとかしのいだものの、やっぱり魔族だけある力はある。

それでも、ゾルダほどの圧倒的な力は感じない。


「儂のことをバカにしやがって。

 そういう奴らを見返すために、俺は魔族になったんだ。

 この国の王になって、バカにした奴らを……」


荒々しく力を拳に込めて俺を何発も何発も殴りつけた。

それを俺は盾で受け止めていた。

拳の力も増してきて、その力も盾を通して腕に体に響いてきた。


「アグリ!」


マリーが俺を心配したのか声をあげて、こちらに来ようとしていた。

俺は


「大丈夫だから、俺にやらせてくれ」


と言って、マリーを制止した。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


息切れをしたランボの拳の動きが止まった。


「それで終わりか?」


「はぁ、はぁ、はぁ……

 儂は……

 儂は……

 このままでは終わらないぞ……」


まだ何か秘策があるのか?

だったらその前にコイツを倒さないと。


「お前はどこかで道を踏み外したんだって。

 そのことを反省しろ」


なかなかと高ぶる気持ちが抑えられなかった。

その言葉と同時にランボの胸を突き刺す。


「うぎゃーーーー」


背中まで貫かれた剣を抜くとランボはその場に横たわっていた。

これでムルデの街の人たちの無念は少しは晴らせたかな。

自己満足なだけかもしれないけど。

俺はホッと一息をつき、その場に腰を落とした。


「おぬしにしてはよくやったのぅ。

 ワシらの力を借りるかと思ったいたがのぅ」


ニヤリとしながらも、珍しく俺の事を褒めてくるゾルダ。


「アグリは異世界からの勇者ですから、これぐらい当たり前ですわ」


マリーは自分の事のようにドヤ顔をしている。


「まぁ、これぐらいはね」


今までのことを考えるとこれぐらいはやらないといけなかったので、素直には喜べないけど。

でもこれで少しはみんなの力になれたのかな。

そう思うと何とも言えない笑みになっていた。


「何を呑気なことを言っておる、おぬし。

 まだこれからじゃぞ」


えっ?

だって今、ランボは倒したでしょ?


「何を言っているんだ?

 今、そこであいつを……」


「よーく、あいつを見るのじゃ。

 何か次が来るようじゃぞ」


そこには倒れたはずのランボから禍々しいオーラが噴き出ていた。

この力はこれまでのランボではない何かなのだろう。

そう思えるぐらいの圧倒的な力を感じる。


「これは……」


「ふむ、この力だと、おぬしでは厳しいかのぅ。

 ここからはワシの出番じゃな」


後ろで座っていたゾルダが腰を上げると、妖艶な笑みで渦巻く黒き力の方を見ていた。

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