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第119話 お前は…… ~アグリサイド~

一番厳重に警戒している陣。

まぁ、普通に考えればここが重要なところなんだろうな。

でも何かひっかかる。


敵陣の近くの森から相手の様子を伺う。

魔族も魔物も桁違いに多い。

それにしてもこんなに警戒しているのは異常だ。


「湧くほどおるのぅ、雑魚どもが。

 久々に暴れられるから楽しみじゃのぅ」


ゾルダは敵の多さを見ても怯むことなく、むしろ笑みを浮かべていた。

当然か。しばらく戦闘にもなっていないし、いろいろと鬱憤がたまっているのかもしれない。

などと考えていたら、ゾルダが俺の顔を覗き込む。


「おぬし、今良からぬことをかんがえておったじゃろ。

 ワシの事で」


「いやいや。

 そんな変なことは考えてないって」


「変なことじゃなくても考えておったのじゃな」


「まぁ……その……嬉しそうだなと……」

 

俺がそう言うと、何故か知らないが顔を真っ赤にして否定する。

喜んでいると思われたくなかったのだろうか。


「そ……そんなことはないのじゃ。

 こんなこと面倒でしかたないのじゃ」


「ねえさま……

 変ですわね。

 そんなこといつもは気にしないのに」


ゾルダの様子が違うと言うマリー。

そうかなのか?

俺にはよくわからんが……


「マリーも何を言うておるのじゃ。

 いつものワシじゃ!

 って、そんなことはどうでもいいのじゃ。

 早くあそこに行くぞ」


何か取り繕うように慌てた様子を見せたゾルダ。

その話題から避けるように敵陣を指さす。

それと同時に、一気に突っ切ろうとしたゾルダを、俺はいったん止めた。


「ゾルダの力なら大丈夫だとは思うけど、この厳重さがなんかひっかかるんだよ」


「おぬしの気にし過ぎじゃ」


ゾルダはこの敵の数は気になっていないようだ。

これぐらい、ゾルダならどうってことないのだろう。

その辺りは感覚の差なんだろうけど……


「そうなのかな……

 重要な何かがあるのだろうとは思うんだけど、それでもこの数は……」


「大方、どっかのビビりがおるだけじゃないのかのぅ」


「アスビモってこと?

 そんな奴には見えなかったけど」


「案外、ワシと対峙した時も、内心はブルブル震えておったのかもしれんのぅ」


ニヤニヤしながら嬉しそうに話すゾルダ。

俺から見ると、あのふてぶてしい態度はゾルダのことを全く気にしていなかったと思う。

あいつの強さも相当なんじゃないかなと思っている。

そんな奴が、自分の保身でここまで防衛の数を準備するものなのか……

そこがどうしても気になってしまう。


「うーん……」


俺が悩みながら返答に困っているを俺を見て、ゾルダがニヤリとしてながら一言を放つ。


「そんなに悩んでも仕方ないのじゃ。

 意図なんて、本人に聞けば一目瞭然じゃ」


そう言うと俺の手を振り切って、敵陣へ突っ込んでいった。

それにマリーも続いていく。

セバスチャンは申し訳なさそうに俺に一礼をする。


「お嬢様が大変申し訳ございません。

 ああなるとどうにも制御が難しく……

 もう少し、いろいろと考えて行動していただけると助かるのですが……」


そう言い残すと慌ててゾルダについていった。

そしてその場には俺とシータだけとなった。


「あれ?

 シータは行かないの?」


「おいどんは、坊ちゃんのお世話をしてほしいとのゾルダ様からの命がありますしな」


いつそんなことを言っていたんだ。

敵の数では厳しけど、俺もそれなりに戦えると思うんだけどな……


「了解。

 俺のやり方で悪いけど、一歩一歩着実に行こうか」


「了解です、坊ちゃん」


遅れて俺とシータも敵陣へと向かっていく。

そう、向かっていったのだが……


先に行ったゾルダがやりたい放題している。

容赦なく敵を虫けらのように多くの敵を薙ぎ払っていく。

多勢に無勢という言葉は何なのかと言うぐらい。


黒闇の炎(ダークネスフレイム)


一気に百人ほどが黒い炎に包まれる。

それを見て冷笑を浮かべるゾルダ。

間髪入れずに


氷の矢(ブリザードアロー)


今度も百人ほどが氷柱の槍に貫通し倒れる。

ゾルダのにやけが止まらない。


露払いをしているマリーもセバスチャンもここぞとばかりに暴れている。

ゾルダほどでは無いにしろ、十人単位で相手しても余裕の表情だ。


シータも刺激されたのか腕をブルンブルンと回して意気込んでいる。


「おいどんも久々ですしの。

 腕がなまってなければいいのですがの」


「あーっ……

 俺にお構いなく……」


俺が近くにいるから自重しているような感じがしたので、シータにも思う存分暴れていいよと伝える。


「坊ちゃんのそばは離れられないので、巻き込まないようにしますわ」


シータはそう言うと、俺に攻撃をしてくる魔族たちを数人を手で捕まえる。

持ち上げた後に、地面に押しつぶしたり、放り投げたりし始めた。

実にパワフルである。

あの繊細な転移魔法の使い手とは思えない。

とは言え、その姿には合っている戦い方なんだけど……


シータは腕を横に広げると、突っ込んでくる敵に向かってそのまま突っ込んだ。

ラリアットのように敵をなぎ倒していく。

もっと魔法を使うものだと思ったら、思いのほか無手での戦いだった。

それでもそこまで遠くまで行かず、俺のことを守るような位置はキープしていた。


その行動をみて、ふと思った。

そう言えばゾルダたちがあまりにも自由に駆け回っているから気にしてなかったけど、

シータはまだ封印が解け始めたばっかりだった。

俺の近くでしか行動できなかいんだった。

だから、ゾルダに俺を守れと言われたのか。

ゾルダなりのシータへの気遣いなのかもしれない。


その後もこちらの勢いは止まらず、あっという間にあれだけいた魔族や魔物を一掃してしまった。

一応、俺もその百分の一?千分の一ぐらいは倒したとは思う。

まぁ、大半はゾルダが倒したのだが……


残るは中央の陣のみになった。

合流した俺たちは、そこへ揃って足を踏み入れた。

そこに居たのは……


「お前は……ランボ?」


ムルデの街で魔族になったランボだった。


「お前たちは……あの時の……」


戸惑った表情をしたランボに


「おい、デブ!

 あのアスビモという奴はどこじゃ!」


すごい剣幕で近づいき、ゾルダは襟をつかみ、持ち上げた。

ランボはジタバタと暴れている。


「この儂に手を出すとは何事だ!

 この腐れ外道め!」


「あぁっ?

 質問しているのはワシじゃ!

 アスビモとかいう奴はどこにおるんじゃ」


襟元を握る手により一層の力が入るゾルダ。


「儂は……知らない……

 ここには儂だけで来たからな」


アスビモが居ないことを知ったゾルダは、ランボから手を放す。

その顔からは怒りも消え、さっきまでのやる気が一気に引いたのが見て取れた。


「なんじゃ、おらんのか。

 つまらんのぅ……」


宙に浮いてたランボは、一気に地面に叩き落される。


「いっ……

 なにをするのだ、この儂に向かって!」


「知るかそんなこと。

 ふぅ……アスビモとかいう奴がおらんのじゃ、もうどうでもいいのぅ」


背を向けて立ち去ろうとするゾルダにランボが襲い掛かろうとする。


「あぶない!」


思わず叫んでしまったが、ゾルダも分かっていたようだった。

踵を返すとランボに怒りの表情をぶつける。

その気迫に負けたのか、ランボは立ち止まってしまった。


「あぁ、損したのぅ、張り切って。

 よし、あとはおぬしに任せた」


俺の肩をポンと叩くと後ろの方に行き陣にあった椅子にどかっと腰を降ろした。


「任せたって言われてもな……」


戸惑いながら、前に行きランボに問いただす。


「ここには何があるんだ?

 何か重要なものを隠しているんじゃないのか?」


「儂がいる」


「……それは分かっているけど……」


ランボの返答の意味がいまいち理解できない俺は、戸惑いながら再度確認をする。


「だから……

 儂がいるだけだ」


そのやりとりを見ていたセバスチャンが、俺に耳打ちをする。


「おそらく、ランボが居たから警備が手厚かったということを言いたかったのではないでしょうか」


なるほど。

ランボ自身が重要だってことを言いたかったのか。

遠くで見ていたゾルダは腹を抱えて笑っている。


「やっぱり、こいつがビビりじゃったから、こんなに仰々しかったのじゃ」


どうやらゾルダの言っていたことが正解だったようだ。

こういうところは感がいいというかなんというか……

気を取り直して、ランボに問いかける。


「ぐふん……

 で、お前の部隊はお前以外戦闘不能だけど、まだ抵抗する?」


戦意がなければ、つかまえて終わりにしたいところだったのだが……


「儂に何をいっている!

 この儂、ランボ様だぞ。

 ここから盛り返してくれるわ!」


やる気満々で、降伏する気はなさそうだ。

ビビッて動員を多くした割りには、強気な奴だ。


「そうか……

 それじゃ、覚悟してもらうしかないかな」


俺は剣を構えて、ランボと対峙する。

ランボも臨戦態勢を整える。


任された以上、俺自身でこいつを倒さないと。

じゃないと、ゾルダにまたなんて言われるか……

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